「雲走る」違国日記 ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
雲走る
原作は未読です。
歳の離れた友達のような、でも親子に近いような雰囲気の予告に惹かれて鑑賞。
とても優しく美しい作品でした。
リアルを強く描きつつも、近くも遠くもない関係性だからこそ描ける大人と子供の境目や対比が溢れんばかりに表現されていて、観たことのない青春が感じられました。
交通事故で両親を亡くした朝と小説家の槙生の不思議な共同生活がメインの今作ですが、割と様々な描写を1本の作品に盛り込んでいるので、1本筋の通った物語に、枝葉のように分かれてのエピソードが展開されている感じで良かったです。
両親が亡くなった事により、盥回しにされそうになった朝を勢い任せとはいえ自分の家に招き入れた槙生の関係性、最初こそドギマギしてて、段々小突き合いし出して、2人で笑い合い出して、と時間をかけつつもゆっくりと関係性を深めていく描写がとても丁寧でした。
2人と槙生の友達の醍醐で一緒に餃子を作るシーン、これは飯テロだぁ〜ってなって腹の虫は鳴り始めました。
わちゃわちゃしつつも、大人同士の友達という新鮮なものを目にした朝のキラキラっぷりは年相応のものを感じれましたし、このシーンでよりグッと近づいた感があってなお一層良かったです。
終盤の演奏シーンも描写少なめだったとはいえ、自分の殻を破って自分の作った歌詞を自分の声で歌う、勇気がたくさんいる事をやってのけた朝の晴れやかな笑顔がとても印象的で、若者が音楽を懸命にやる姿に弱いので、鳥肌立たせながら観て感動していました。
心情を隠し隠しで日々を歩んできた2人が海岸通りで本音を話し合うシーンはヘビーな内容とは裏腹にどこか晴れやかな気持ちになるシーンで、ロケーションの良さと役者陣の立ち振る舞いの見事さも相まって締めに相応しいものになっていました。
原作未読でも分かるここ端折ってんなーという場面(幼馴染の同性愛や槙生と姉との確執や朝の音楽へののめり込み、森本さんの勉学に励む理由などなど)が多かったのは原作を1本にまとめるためには致しなかったのかなとはいえ、整理しきれていない感じは惜しかったです。
この辺の補足は今後展開されるアニメ版でしっかりやってくれそうですし、原作を読み込むためのきっかけでもあるなという風にポジティブに受け止めておきます。
役者陣はもうどの方も素晴らしくて、静と動ならば静な演技がとても目立つ作品で、キャラクターの雰囲気一つ一つがこれでもかと伝わってくる名演の連発でした。
新垣結衣さんはこれまでとは一線を画す、ダウナーなカッコ良さとちょっと抜けた愛らしい部分のリミックスという豪華さ。
最初は怪訝な感じが漂っていたのに、ほぐれたように表情や仕草が柔らかくなっていくのが最高でした。
面食らったシーンで出てくる擬音がたまらなく可愛かったです。
早瀬さんは今作ではじめましてだったんですが、これまた素晴らしく、等身大の女子高生のもどかしさや煌びやかさがこれでもかってくらい滲み出ていて、泣き笑いも跳ねて喜んだりするところもどのシーンを切り取っても素晴らしく、今後の飛躍が大いに気になる女優さんでした。
同級生の小宮山さんや伊礼さんの演技も素晴らしく、なんで逸材を見つけてきてくれたんだ…!と製作陣の先見の明には脱帽ものでした。
夏菜さんのゆる〜さ全開の大人な友達も最高でしたし、瀬戸さんのこんな優しい人手放したらアカン!と言いたくなるくらいの良い人(最後まで良い人)なのも最高でした。
海を眺めるしっとりと、それでもきっちりと物語を締めて、続きの未来を予感させる感じの終わり方はオリジナルならではだと思いますし、とても良かったです。
これは原作読まなきゃなという事で読み込んでいこうと思います。自然体のままで生きたいなぁ。
鑑賞日 6/10
鑑賞時間 18:05〜20:30
座席 H-4