「愛するよりも大切なこと」違国日記 romiさんの映画レビュー(感想・評価)
愛するよりも大切なこと
誰かを愛するよりも、「踏みにじらない」ことのほうが大切だと思う。いくら(一方的な)愛情があっても、それが刃となって相手を傷つけたり踏みにじったりしてしまっては意味がない。他人はもちろん、親子でも。
踏みにじらないために重要なのは、線引きをすること。私とあなたは違う、という線引き。だから、互いの気持ちは分からないし理解できないし寄り添えない。そんなことは必要ない。共存するために必要なのは、愛することよりも、踏みにじらないこと。尊重。
原作を読んだ時、「あなたを愛せるかどうかはわからない。でも私は決してあなたを踏みにじらない」という台詞にがつんと殴られたような衝撃を受けた。なんて強く美しい言葉だろう。
とにかくこの原作者ヤマシタトモコさんは、台詞の力がすごい。未読の方はぜひ、1話2話だけでも読んでみてほしい。圧倒的な言葉の力が、ヤマシタ作品の世界観を支えている。
両親の死をうまく悲しめずにいる朝に、「べつに変じゃない。悲しくなるときがきたらそのとき悲しめばいい」。
葬儀の場で親戚たちの無神経な言葉にさいなまれる朝に、「15歳の子供はこんな醜悪な場にふさわしくない。もっと美しいものを受けるに値する」。
一度見ただけで忘れられなくなった。とてつもない名シーンで名言だと思う。
踏みにじられて傷つきながら大人になった槇生が、今まさに目の前で踏みにじられている子供を見過ごすことができずに、自分の人生を変えてまで手を差し伸べた。
私も槇生と同年代で、この年になると仕事もプライベートもだいたい安定し、自分の生き方が決まってきている感じがする。このタイミングで人生を変えるような決断をするというのは、なかなか胆力がいる。槇生は生き方を変えたくないタイプの人間だ。それでも朝のために変えた。
そしてまたシスターフッドの心強さも感じる映画だった。槇生の親友を演じた夏帆さん、最近ブラッシュアップライフを見たのもあり、主人公の心地いい親友としてこんなに素敵な演技をされる女優さんなかなかいらっしゃらないと思う。この親友がとてもとてもよかった。本当に信頼できる素敵な女性。
あと、朝ちゃんを演じた早瀬さんの、なんとも言えない瑞々しさ、無垢な無邪気さ、明るさと翳り。引き込まれる。そしてとても可愛い。朝そのものの佇まいだった。
新垣結衣さんも、槇生にしては可愛すぎるかなと思ったけど、全然よかった。いつもの生来の可愛さは封印し、でもところどころでにじみ出るのが、逆に槇生らしくてよかった。
ストーリーはやはり原作に比べたら薄味にはなってしまうけど、キャスティングが非常によかったので、あの世界が映像になっているという満足感がすごかった。
無料立ち読みで中学校の卒業式のとこ迄読みましたが、漫画と映画の表現方法の違いを痛感しますね。漫画だと朝はまだ不安定な、すぐ寝てしまうような状態で腫れ物感がありましたが、映画は次のエピソードに行かなきゃ、ですからね。