「ナーガが如く。 …すいませ〜ん、バトル開始までまぁ〜だ時間かかりそうですかね〜?」K.G.F: CHAPTER 1 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
ナーガが如く。 …すいませ〜ん、バトル開始までまぁ〜だ時間かかりそうですかね〜?
莫大な富を産む金鉱「K.G.F」の覇権を握るため、血で血を洗う抗争へと身を投じる“暴力の申し子“ロッキーの活躍を描いた英雄叙事詩「K.G.F」2部作の前編。
1951年、K.G.F地区で巨大金鉱を発見したスーリヤワルダンは、そこを占領し巨大な犯罪シンジゲートを作り上げる。時を同じくして、ある寒村で後の“ロッキー“が誕生する。貧しさのせいで母を亡くした少年は、莫大な富と権力を手にする事を誓う。
1978年、スーリヤワルダンが病床に伏したのをきっかけに、KGFの跡目争いが勃発。ボンベイのギャングとして畏怖される存在になっていたロッキーは、その跡目争いの渦中へと踏み込んでゆく…。
ヒンディー語映画の「ボリウッド」、テルグ語映画の「トリウッド」、タミル語映画の「コリウッド」。言語によっていろいろな「〜ウッド」が存在するインド映画界だが、本作は南インドを拠点とするカンナダ語映画、通称「サンダルウッド」の作品である。これはボリウッド、トリウッドに次ぐ市場規模を誇っており、この「K.G.F」シリーズ(2018〜2022)はサンダルウッド史上最高の収益を上げた大ヒット作品となっている。
プロットはほとんど日本のヤクザものと一緒。主人公の常軌を逸した戦闘能力とか、訳わかんないくらい大規模な犯罪組織とか、特に「龍が如く」(2005〜)というテレビゲームのシリーズを彷彿とさせる。多分監督のイメージソースの1つとしてこのゲームがあるんじゃないかな?
ただ、ありがちなヤクザものというジャンルに、インド映画らしい神話的英雄譚がブレンドされているところにこの映画の面白みがある事は述べておかねばならない。英雄譚を清廉潔白な王子様ではなく、スラム出身のギャングで描き出すというコペルニクス的転回に、本作独自のセンスが光る。
ちなみに、監督プラシャーント・ニールの次回作『SALAAR/サラール』(2023)も、内容的にはこの映画とほとんど一緒。それしか引き出し無いんか!?延々とおんなじ事を繰り返す感じもなんか「龍が如く」っぽいっすね。
本作は本国インドでは2018年12月に公開されているが、日本では2023年7月に、前後編同時に公開された。これは『RRR』(2022)の大ヒットにより、インド製アクション超大作の需要が高まったが故の事だと思われる。『RRR』がヒットしなければ、おそらく本作の日本公開はいまだに為されていなかっただろう。
そのため、本作の宣伝には『RRR』が引き合いに出されており、予告編には〈『RRR』を超えインドNO.1大ヒット!〉という文言がデカデカと映し出されている。
『RRR』を超えるヒット作、なんて言われれば否が応でも期待値は上がる。予告編の出来も良かったし、どんなに面白いバイオレンス・アクションが繰り広げられるのかとワクワクしたのだが…。
蓋を開けてみたらなんじゃこりゃ?全然バイオレンスが、というかアクションが足りないじゃん!!
冒頭、敵のギャングに捕えられ、鎖で吊り下げられるロッキー。ヘラヘラと笑うザコどもに囲まれながらも、不敵に「ハッピーバースデートゥーユー…」と歌い続けるというこのケレン味には痺れたのだが、良かったのはそこまで。カットをチョコチョコと割る忙しないアクションシーンのせいで、せっかくの大立ち回りが台無し。何が起こっているのか全然よくわからない。
そして、この冒頭のボンベイパートが終わってしまうと、クライマックスまで目立ったアクションシーンがほとんど出てこない。こっちはK.G.Fでの大暴れが見たいのに、何で延々と奴隷労働に甘んじてるんですかね…?
正直、終盤までほとんど何も起こらないので半分過ぎたあたりから強烈な眠気が襲ってきて、ストーリーが全然頭に入ってこなかった。ただでさえ登場人物が多すぎて誰が誰だかわかんないのに…。
登場人物多すぎ(+髭面のオジさんはみんなおんなじ顔に見える)問題は『SALAAR/サラール』にも引き継がれているのだが、そちらはアクションの手数と迫力でそれを上手く誤魔化していた。しかし、本作程度のアクションではこの弱点をカバーする事はできない。後編に見せ場を取っておいているのだろうが、それならこの前編要らなかったんじゃない?
本作のわかりづらさは、その複雑な時制にも起因している。シンプルにロッキー視点で物語を進めれば良さそうなものを、何故かジャーナリストのオッさんが過去を回想するという手法でこの映画は綴られているのである。このせいで、ところどころで現代パートが挿入されたり、突然時制が飛んだりと、やたらとストーリーの進行にブレーキが掛かる。現代パートに魅力的な登場人物がいるならまだしも全然そんな事はなく、モブみたいなキャラクターしか出てこないので、マジでこのパートの存在意味は不明。しかも映画導入部分、ものすごく雑に編集されているせいでスゲー飲み込みづらい。なんかテレビドラマの総集編みたいだった。
インド映画はその長さから、日本公開時に短く編集されてしまうことがままある。本作もそれかなと思ったのだが、データを調べる限りどうやらオリジナルもこのまんまの様だ。…いや映画下手かっ!💦現代パート削ってでも、もっと血湧き肉躍るバイオレンス・アクションシーンを入れんかいっ!!
主演を務めるヤシュさんは、マッチョな玉山鉄二といった風貌でめちゃくちゃカッコ良い。タバコ・酒・バイク・革ジャンというスーパーアナクロなキャラクターを見事に演じ切っていました。この人はきっかけさえあれば日本でも爆発的に人気が出そう。
ヒロインを演じるシュリーニディ・シェッティさんもザ・絶世の美女で、主演2人のルックスには文句のつけようがない。出来れば敵役に、この2人に匹敵するようなスター性を持つ俳優がいれば良かったのだが、まぁそれは望みすぎか。
本作を1本の映画として判断すると、正直言って全然ダメ。全く面白くない。
ただ、種まきをキッチリと終わらせた感じはする。もしかすると後編はとんでもない傑作になっているかもしれないので、それを期待したいと思う。