「ナチスの爪痕の広さ」天使の影 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
ナチスの爪痕の広さ
ファスビンダーに戯曲をダニエル・シュミットが映画化。娼婦の主人公は暴力的な夫に悩まされている。夫は働かず彼女の稼ぎを奪っていく。ある日彼女はユダヤ人の財界人と知り合い愛人となることでのし上がっていく。魂の抜けた人形のように夫の抱かれながらうなだれる主人公のイメージ。女装する元ナチスの高官である父親、主人公がまっすぐ歩き続けているのにループするかのように同じ娼婦たちが背景から語り掛けてくる長回しのショット、印象的な絵が多い。
台詞は衒学的で元々戯曲だったという点が大きいのだろうか、どれくらいファスビンダーの書いたセリフがそのまま使用されているのか気になった。ユダヤ人と元ナチス高官の娘との「許されざる愛」は社会から断罪されていく。映画がオーストリアが舞台となっているが、ナチスと戦後というのは、ドイツに限らず様々な問題を各地に残していたというべきか。戯曲は元々ドイツが舞台だったようだが、この舞台変更で、日本人視点ではやや作品の強度が弱くなったと感じてしまうが、それはもしかしたら欧州の戦後をきちんと知らないからかも知れない。ナチスの爪痕は僕が思うよりも広いのだろう。この映画を見て、そのことを理解したいと思った。
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