劇場公開日 2023年7月28日

「名作過ぎてひっくり返った」不安は魂を食いつくす フレンチクローラーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5名作過ぎてひっくり返った

2024年6月18日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

興奮

知的

萌える

何の気なしに鑑賞して、我が人生のベスト級の映画に出会ってしまいました。「不安は魂を食い尽くす」、名作です。高度に洗練された映画だと思います。明瞭かつ芸術的。人物の仕草を繊細に描き出すアプローチを取りながら、テンポが全く損なわれていない事に驚きました。差別という題材を描く上で必要十分に登場人物の描写が立体的で、かつ必要以上に掘り下げない距離感を保つのも上手い。全てにおいて匙加減が絶妙。例えば冒頭で掃除婦のエミが元ナチ党員である事が提示され、彼女が単純化された悲劇のヒロインでない事を観客に提示する一方で、その背景が罪としてクローズアップされる事はないのです。シンプルな物語だから出来た理想の取捨選択がこの映画にはあります。強いて作品の色を語るならば、客観的でやや乾いた映画だと思います。だからこそ、差別を題材にしながら、半世紀経った今でさえ通用する普遍性を獲得出来たのでしょう。
ラストについては悲劇で終わる事も楽観も許さない、本作の小市民的リアリズムからの帰結だと自分は感じました。その分ちょっと恋愛ものに求められるロマンには欠けたかも知れないですね。

フレンチクローラー