「誰が結婚を発明したのだろう?」不安は魂を食いつくす talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
誰が結婚を発明したのだろう?
とても面白くて笑えて可愛らしくて。そして結婚の嫌らしさをすごく感じた。
結婚は唐突に起こった。アリはモロッコからの外国人労働者、若くてハンサムでスタイルよくて優しい。ドイツ語は完璧でなくても十分に話せる。付き合いがあるのは同郷の仲間と行きつけのバーのみ。一方、ポーランド人の夫を亡くした未亡人エミには成人した子どもが3人いて、掃除婦として働き自分の住まいに一人暮らしで社交的で料理上手で経済的にも生活面でも自立している。孫もいる。ずんぐりむっくりでおばちゃん顔。アリの祖母といわれてもおかしくない年齢差である。
結婚は大家への言い訳から始まったが同意のもと役所に行って二人は本当に結婚した。幸せでかわいらしいカップルだ。生活しているドイツ社会において権力(見えないガラスの下駄を生まれつき履いている側)はドイツ人である妻のエミにある。ただ当初は、肌の色が異なる外国人労働者と結婚した為にアパートの住人からも行きつけの商店主からも同僚の女性からも自分の子ども達からも疎んじられ皆離れていく。それでもエミとアリは強く結びついていた。
それが、二人で過ごした気晴らし休暇から戻ったら状況がおかしく(普通に?)なってくる。住人も商店主も同僚も子ども達も手のひら返しの優しさでエミとの関係を戻す。そしてエミも変わる。顎でアリを使うかのように隣人の荷物移動手伝いをアリに指示する。女達がアリの若くてスベスベした筋肉質の身体を触りまくって褒め称える。それをエミはニコニコと笑って眺めている。クスクスを作ってというアリに、「クスクスなんて私は本当は嫌い。あなたもドイツに慣れなくては」と言い放つ。二人だけが幸せなら良かったはずだったのに。みんなの意地悪は嫉妬からだとエミは言っていたのに。でもエミはアリとの結婚で失った知人、友人、家族関係を恋しがってもいたのだ。
最後にエミはアリに言う。あなたが誰と寝ようが関係ない。二人で幸せに暮らしたい。残りの人生を一緒に過ごせればそれでいいと。「オレはお前より先に死ぬ、お前はオレの面倒を最後まで見るのだー」と昭和の夫のようだ。一方で、アリは当時の医者によると外国人労働者に多い胃潰瘍を煩っていて原因はストレス。どっちが先に死ぬのかもう誰もわからない。
結婚における権力構造を明らかにするためには男女関係をここまでひっくり返す必要があるのか・・・と絶句した。