「安藤サクラが魅力的なだけのお子ちゃま向け裏社会ファンタジー」BAD LANDS バッド・ランズ 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
安藤サクラが魅力的なだけのお子ちゃま向け裏社会ファンタジー
特殊詐欺グループの親玉とリーダー役女性、その手先たちが、老婆から500万円を騙し取ろうとする冒頭のシーンがいい。スマホを使い次々に新たな指示を繰り出す犯人グループと、囮を使って摘発を試みる警察双方の動きが、リズミカルにスピーディに描かれていく。特にヒロイン安藤の軽快な身のこなしとセリフ回しに惹きつけられる。
ところが特殊詐欺のシーンは、何故かそれでお終い。後は安藤と彼女を取り巻く社会の最下層の人びと、殺人グループの下働きをする弟、世界的ベンチャー企業の創業者とその性奴隷の話、かつて性奴隷だった安藤が創業者から日本中追いまわされていること…等々、ヒロインをめぐる雑多な話題に移ってしまう。
そして、どうやらこの作品は最下層でダークだが、何故かオシャレな犯罪社会と、そこを軽やかに泳ぎ回るヒロインの活躍に主眼があるとわかってくる。
ボロボロの集合住宅に住んでいるくせに、何故かドストエフスキーの『虐げられた人々』を語る教養あるオッサンがいたり、賭場にはヘーゲルの『精神現象学』を読んでいるヤツがいて犯罪の弁証法についてウンチクを垂れるw
ベンチャー創業者の男は、ビジネススーツ姿の若くてスタイルのいい女性秘書たちをサディスティックにいたぶり、性奴隷扱いする。さながらハーレムだ。
もちろん、これらにはリアルのカケラもないw 世間知らずのガキに「オシャレで恰好いいだろ~」と自慢しているだけなので、小生のような世間ズレしたオヤジは時折、失笑してしまうのである。お子ちゃま向けの裏社会御伽噺、といったところか。
リアルがないから、詐欺も暴行も殺人も、ただの空想の出来事に過ぎず、父親にレイプされたヒロインの話も、彼女の親殺しも、ヒロインが詐欺グループのカネを全部掠め取る際に活躍する老ヤクザも、姉を付け狙うサディスト創業者を殺しに行く弟も、残念ながらオモチャのような印象しか残らないのである。