「あんこのきっしり尻尾まで詰まった鯛焼きのように、本作はラストのギリギリまで、手に汗を握る逃亡劇が繰り広げられる、密度の濃いスパイアクション劇です。」カンダハル 突破せよ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
あんこのきっしり尻尾まで詰まった鯛焼きのように、本作はラストのギリギリまで、手に汗を握る逃亡劇が繰り広げられる、密度の濃いスパイアクション劇です。
ジェラルド・バトラー主演で、アメリカ国防情報局の職員ミッチェル・ラフォーチュンがアフガニスタン赴任時に体験した実話をベースに描いたアクション。
「エンド・オブ・ステイツ」「グリーンランド 地球最期の2日間」につづき、バトラーと3度目のタッグとなるリック・ローマン・ウォーが監督を務めます。
●ストーリー
MI6所属ながらCIAへレンタルされた工作員トム・ハリス(ジェラルド・バトラー)は、アフガニスタンの敵地深くで立ち往生していました。
任務自体は、イラン国内に潜入し、核開発施設の破壊工作に成功。その直後にCIAの内部告発が発生し、内部の機密情報が漏洩。全世界に所属工作員の正体が明かされてしまったのです。自分の正体と任務が露呈した彼は、即刻ミッションを中止し中東からの脱出を目指していたのです。
イランからトムが目指したのは、アフガニスタン南部のカンダハルにあるCIA基地。30時間後に離陸する英国SAS連隊の飛行機に乗らなければ、生き残るチャンスはありません。イランの精鋭集団・コッズ部隊のほか、パキスタン軍統合情報局(ISI)も絶好の「金づる」になりうるトムの捕獲に乗り出し、さらに、タリバンの息がかかったゲリラ、金次第で敵にも味方にもなるウォーロード率いるタジク人(イラン系)の軍閥など、トムの行く手にはさまざまな勢力が立ちはだかります。そして敵味方の入り乱れる壮絶な死闘へと追跡劇が繰り広げられるのでした。トムは、迫りくるエリート特殊部隊の執拗な追跡から逃げながら、アフガニスタン人の通訳(ナヴィド・ネガーバン)とともにカンダハールの脱出地点を目指します。無事カンダハルに辿り着くことができるのでしょうか?
●感想
あんこのきっしり尻尾まで詰まった鯛焼きのように、本作はラストのギリギリまで、手に汗を握る逃亡劇が繰り広げられる、密度の濃いスパイアクション劇です。
敵の攻撃は執拗で、各シーンにトムの絶体絶命となる追い詰められるシーンがありました。例えば逃亡開始直後に、敵戦闘ヘリに見つかり、乗ってきたトラックが破壊されてしまうシーン。運良くトラックから脱出したトムと通訳は、生身で戦闘ヘリと対決します。岩陰に身を寄せながら、戦闘ヘリを挑発して、至近距離に誘導するトムの戦い方は、迫力満点でした。
以前の作戦でトムと友人関係となっていたタジク人の軍閥に身を寄せたあと、ISに見つかりトムと通訳は捕まって、ISの砦に連れていかれます。
そのISの砦が対立するタリバンの襲撃を受けてゲートが突破され、ISの戦闘員が次々皆殺しにあってしまうのです。危機は拷問部屋に監禁されていたトムたちにも迫ってくるのでした。(このシーン、ネタバレしませんが、訳ありで助かります。)
この砦を巡る戦闘シーンも、爆破と銃撃が半端なく、大迫力でした。
そしてカンダハル基地のゲート直前で、エリート特殊部隊のカヒル(アリ・ファザル)に追いつかれてしまったトムたちは、そこで激しい銃撃戦をしているうちに、敵の軍用シープ50両に周りをすっかりかこまれてしまいます。一方脱出用の戦闘機は、予定の刻限が近づき。トムたちを見捨てて、飛び立つ準備を始めるのです。このラストのシーンは、喝采したくなるほどの圧巻であり、開放感に包まれました。
一方、本作ではアフガニスタンの複雑な勢力状況を浮き彫りにします。トムとかなり親しげだったタジク人の軍閥の本心は、ただトムを通じてアメリカに稼がせて貰っただけの関係だったのです。用済みとなったいま、一見トムと友情を交わしつつも、平気でISの所在を売り飛ばしてしまうのでした。そのISの砦が襲撃されるシーンも一癖ありました。
アフガニスタンの国内は、ベテランでも地元のゲリラ勢力でも誰を信じるべきか、あてにできない裏切りが横行する地域だったようなのです。
もう一つアフガニスタン人の通訳が抱えた複雑な事情です。彼は家族をアメリカに亡命させた身返りに、通訳としてアメリカ軍に協力しているのです。しかし祖国の人たちは彼を裏切り者と断罪します。ISに捕まった時も、もっぱら拷問を受けたのは通訳の方でした。そして彼自身も、自らを祖国を裏切ったという自己処罰に思い悩みます。そんな通訳の気持ちを繋いでいたのは、トムとの友情でした。トムは以前家族同然に付き合っていた通訳を見殺しにしてしまったことを、深く後悔していて、今の通訳もやはり自分の家族のように大切に思っていたのです。
脱出劇の危機の連続の間に見せるふたりの絆の強さにも、きっと感動されることでしょう。
そして本作でも主演バトラーの存在感は凄かったです。