「スコセッシとディカプリオの最強タッグによる、「花と月の殺人事件」」キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
スコセッシとディカプリオの最強タッグによる、「花と月の殺人事件」
2017年に発行されたジャーナリストのデヴィッド・グランのノンフィクション作品
「花と月殺人・インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」
を原作としている。
実話なのです。
マーティン・スコセッシは映画化を模索する2019年には
オセージ族の首長と面談して
協力が得られるかを確かめている。
私の「アメリカン・インディアンの人々」のイメージでは、
西部劇で果敢なまでに白人と戦ったアパッチ族の、上半身裸と顔に
にペインティングして、
羽根飾りの付いた髪飾りを被り、白人の頭の皮を剥ぐイメージとか、
4分1先住民族との混血であるジョニー・デップの監督・主演作品
「ブレイブ」1997年、
ネイティブ・アメリカンの青年の苦悩を描いた映画から、
突然飛んで、
2017年作品「ウインド・リバー」の中では、
近年は先住民保留区と言う特区で、
作物も育たない痩せ地に追いやられ、
麻薬とギャンブルに溺れて働く意欲のない人々・・・
そんな偏ったイメージしか持たなかった・・・。
だから《石油の利権で金持ちになったインディアン像》には
少なからず違和感があり、意外さの方が強かった。
(こう言う先入感から見ると)
帰還兵で腹に銃痕を持ち特技も学問もない
アーネスト(レオナルド・ディカプリオ)が、
美貌と自信に溢れて
金持ちのオセージ族のカイル一家の一員
モーリー・カイル(リリー・グラッドストーン)の
美しさと財力に惹かれて結婚したのは
とても納得出来る。
そして町の名士で人望のあるのアーネストの叔父の
キング・へイルは
モーリーと結婚させてカイル家の財産を横取りする
野望を持つのだった。
この映画は石油がオセージ族の住むオクラホマ州オセージ郡から、
1920年には突然吹き出したことから、先住民族のオセージが
利権を得て財を成した事を題材にして、
カイル家の母親とモーリーの姉と妹2人が毒殺されたり、
銃殺されたりで殺される。
そしてたったひとり生き残ったモーリーもまた
糖尿病で夫のディカプリオからインスリン注射と一緒に
緩やかな毒物を注射されて、どんどん体力を失っていく。
しかし一族が次々と殺される危機を察知したモーリーは
自らワシントンに出向き、時の大統領に直訴する。
それがFBIのフーバー長官の耳に入り、
FBI捜査官トム・ホワイトが派遣されて、
本格的な捜査がはじまるのだ。
この事件によって、
オセージ群のオセージ族は20人〜45人位が殺されたとされるが
原作者のデヴィッドは、200人位が殺されてる筈だと言う。
アーネストは妻の毒殺を進めつつも、
片方で妻モーリーを愛していると言う
複雑でねじれた構図。
そして3人の子供はオセージと白人の混血。
とても微妙な立場にいる男だ。
娘のリトル・アナが死ぬと自分の子の死を、
身も世もない程に嘆き悲しむ、
それまで、キング・ヘイルの言いなりになっていたのに、
娘の死をきっかけにキング・ヘイルに不利な証言をするに至る。
すべてを正直に話し出す。
ズル賢い白人と結婚したことにより女系家族
カイル家の不幸が連鎖して、
やがてオセージ族はジェノサイドのように殺されていく。
そして聡明なモーリーですら、近代医学を信じずに
夫のアーネストを信じてのインスリンと毒入り注射を受け続ける。
この映画で特徴的なのは、オーセージ族の男女が100人程度が
演者として出演している点だ。
混血化が進んでる現在なのに先住民役の出演者は
一目でなぜかインディアンと分かるのだ。
女性は平面的で赤い皮膚と呼ばれる黄色で肉付きがよくて、
体格が良い。
そこにこの映画のリアリティの大半がある。
この原作に惚れ込んで企画を持ち込んだディカプリオは、
監督はもちろん最も信頼するマーティン・スコセッシを望んだ。
ディカプリオは当初、ジェシー・プレモンスが演じた
FBI捜査官・トム・ホワイトを演じる筈だった。
しかしディカプリオは愚かな甥であるアーネストの役を自ら切望した。
FBI捜査官役では、先住民を《救済する白人》の映画になると
危惧したのだ。
ディカプリオには愚かで駄目男アーネストこそがこの映画のテーマ、
搾取し迫害する白人の映画であり、
アーネストが悪事にどうしようもなく巻き込まれてしまって、
オセージ族迫害がエスカレートして行く
急速な流れを誰も止める事が出来なくなるのだ。
(一度燃え盛った炎は簡単には消し止められない)。
ディカプリオの代表作のひとつとなるだろうアーネスト役。
ディカプリオの頭の良さと俳優としての貪欲さを裏付けたと思う。
アーネストの愚かさを私たちは笑う事が出来ない。
欲の皮の突っ張った白人は、もしかしたら自分かも知れないのだ。
人間は一歩間違えば妻や夫の財産や生命保険金を当てにするのが
ごく自然にあり得る事なのだから・・・。
随所に黒白の小さなサイズでニュース映像が挿入される。
ラストのエピローグでは、ラジオ解説者の役で
マーティン・スコセッシ監督も登場して、
軽口のような饒舌さで、事件の顛末を語る。
戯画化されたそれは、無声映画の解説のようにユーモラスに伝えられる。
それにしてもスコセッシとディカプリオの6作目のタッグとなった本作。
2人はお互いの信頼と絆がお互いのチカラを最高に引き出すことを知る
最強のパートナーである。
アメリカ近代史の汚点である先住民族迫害の歴史。
世界を見ると、
スペイン人に滅ぼされたインカ帝国、
日本の北海道に住んでいたアイヌ民族、
オーストラリアのアポリジニ、
北極圏のイヌイットやアリュート、
先住民が人口の60%を占めているの南米ボリビアなど、
もある。
それにしてオセージ同士で話すインディアン語。
その意味の分からない言語がもたらす《響きと神秘性》
それがこの映画に途轍も無い恩恵を与えている・・・
そう、私には思える。
温かいコメントありがとうございます。
映画レビューは「下書き」が、かなり溜まっております。
僕は几帳MENなので、ある程度 調べ尽くしてからレビューを投稿するので、時間がかかります…涙
気長にお待ちください♪
いつもありがとうございます☆
コメントありがとうございます。
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」は大好きな映画でした。
「エンゼル・ハート」は、学生時代に観たきりなので記憶が曖味です...笑
沢山の共感ありがとうございます。
こんにちは
talismanさんと同感です。
素晴らしいレビューで、じっくり読ませていただきました。
オセージ族が今まで描かれてきたネイティブ・アメリカン像とかなり違っており、先入観を覆す大仕事をやってのけたマーティン・スコセッシ監督の衰えない意欲に感服しました。この情けない男の役を敢えて希望したディカプリオの俳優魂を感じます。