「ドキュメンタリーとドラマのバランスは適正か」キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン 烏丸沙鴎さんの映画レビュー(感想・評価)
ドキュメンタリーとドラマのバランスは適正か
スコセッシ、デ・ニーロ、デカプリオと三人揃えば期待せざる得ない。
先にスコセッシのインタビューを見て居るので、ゼロからの視聴ではないことをご容赦願いたい。
まず前半パートはオセージ族の牧羊的な儀式が描かれるシーンが多い。
スコセッシがオセージ族をしっかり撮りたかったと語っていたので説明的なドキュメンタリー部分にあたる。
TV番組の『世界遺産』を見ているような文化・歴史が描かれるが、会社帰りのレイトショーで見ている自分には眠気との戦いになるパートであった(笑)
美しい風景、神秘的な儀式とダブルパンチ。
後半に行くに従って、主人公のデカプリオの葛藤やデ・ニーロの怖さが見え隠れし始めドラマが一気に動き出す。
ここからの動きは流石にスコセッシ映画である。
俳優陣の演技もヤバい。いい意味で。
デカプリオの清濁併せ持った演技は、タイタニックのアイドル俳優としてしか知らない人間が観たらどう思うだろうか。
顔芸等と評されるが主人公のある意味哀れな男の葛藤や翻弄される様を表現できていると思う。
デ・ニーロはやはりゆっくりやさしく恐ろしくなっていく。マフィア映画で慣らした本領発揮だ。
これが見たかったファンも多いだろう。自分もその一人。
今作も同じような役回りだが落ちていく様まで描かれるのは珍しいか。
デカプリオと作中で結婚するオセージ族の女性役、リリー・グラッドストーンも良い。
オセージ族の寡黙で聡明だがな女性だか、それ故愛した旦那を信じて良いか、自身で判ってる結果を直視できないという難しい役柄(しかも病魔に蝕まれている設定での演技)を演じている。
原作は未読だか、白人視点でFBI長官フーヴァーから派遣されたホワイト(この映画ジェシー・プレモンス演)がオセージ族連続殺人事件を解決するものだそうだ。
本来はホワイトをデカプリオが演じる予定であったという。
それを脚本を大幅変更し、アーネストとモーリーの関係に重点を置いたものに変更したという。
これはストーリーが濃厚になったし、素晴らしい変更だと思う。
(個人的には原作のままのハードボイルドな作品も見てみたかった。生きていたらセルジオ・レオーネあたりに監督してもらって)
ただ最後のオチが意外過ぎて笑ったが、賛否両論だろう。個人的にはもう少しなんとか出来なかったのかと思う。
色々言ったが総じて面白い作品であった。
しかし、ドキュメンタリーとドラマが合体したような作品なので上映時間が凄い。
3時間は適正だったのか。これは悩むところだ。
海外で休憩時間を取った映画館が怒られたらしい。
黒澤明の『七人の侍』も休憩時間が入る。
この辺りは構成を考え、トイレとコークの補充に行かせて貰う時間が欲しい(笑)
興行では飲み物代でも助かるはずだ。
最近スコセッシ監督はマーベル映画に毒を刺したが、スコセッシだからこの上映時間で上映出来るわけで、興行収入を考えたら映画館的には90分を2回まわした方が利益は高い。
アカデミックな表現を受けるスコセッシだが、娯楽であり映画館を儲けさせる点も忘れて欲しくない。
80歳の監督にさらに夢を見せて欲しいというイチファンの希望である。
見るべき作品かと言われたら、面白いし見るべき作品である。
ただ長さだけは工夫すべきであったと思う。
映画館でなく、配信で見たいと言った友人がいたが「確か」にと思ってしまった。