「スコセッシ流の語り口のビートが3時間26分、一向に途切れない」キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
スコセッシ流の語り口のビートが3時間26分、一向に途切れない
これは並外れた怪作である。まず驚かされるのは、冒頭のボルテージMAXの大噴射シーン。それを起点に3時間26分、いっさい弛まぬ物語のビートがゆっくりと魔術的なまでに高鳴り続ける。そこに現れる顔、顔、顔。ディカプリオ は若き日の精悍さとはまるで次元の違う底知れぬ人間性の境地へと辿り着き、口をへの字に曲げた表情などはジャック・ニコルソンの再来かと思えるほど。さらにデ・ニーロの温厚な中にクセある味わいが加わり、リリー・グラッドストンの芯のある眼差しが崇高さを添える。このアメリカの血塗られた歴史を象徴するノンフィクションを、ストーリー仕立てに脚色したエリック・ロスの筆致も実に見事。そしてなんといってもスコセッシの重厚な采配が冴え渡る。あらゆるシーンに乾いた凄みが迸ると同時に、人間の愚かさ、おぞましさ、口が開きっ放しになるほどの滑稽さと不可解さが詰まったエネルギッシュな仕上がり。その語り口を堪能した。
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