「彼らがまみれたのは油ではなかった。欲にまみれ、手を血で汚し…」キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
彼らがまみれたのは油ではなかった。欲にまみれ、手を血で汚し…
スコセッシの前作『アイリッシュマン』は興奮モノだった。
久々のマフィア物、デ・ニーロと24年ぶりのタッグ、共演にアル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテル…。
製作費2億ドル、上映時間3時間超え…。
キャリアに於いても一本出るか出ないかくらいの超大作。
しかしこのレジェンドは、またしてもKO級の力作を放ったのだから恐れ入る。
1920年代の米オクラホマ州。
先住民・オセージ族が暮らす居留地で油田が発見。彼らは一夜にして裕福な富を得る。
それに目が眩んだのは、欲深い白人たち。やがてオセージ族を…。
これが実際にあった事件だというから衝撃…。
石油利権、人種差別、凄惨な事件…。
人の暗部、知られざるアメリカの歴史の闇に、スコセッシが斬り込む。
まず、この話題。
共演はこれが3度目。レオナルド・ディカプリオとロバート・デ・ニーロのスコセッシ新旧常連が、スコセッシ作品で初共演!
この2人がスコセッシ作品で共演する日を待っていた。
スコセッシ×デ・ニーロ×レオ…『アイリッシュマン』の時のように、もうこれだけで見たい!
その感想はレビューと共に追々触れるとして、
売れっ子ジェシー・プレモンズを始め、復活ブレンダン・フレイザーやジョン・リスゴーなどちょい役ながら豪華。何より新星リリー・グラッドストーン! オセージ族役の役者たちも含め名アンサンブル。
スコセッシ組のスタッフたちの仕事ぶりもいつもながら。
本作も200分超え。尺の長さについてはすでに色々言われ、確かに長さも感じるが、これだけは言える。
ただ無駄な200分じゃない。その長尺を存分に使った、見応えたっぷりの200分!
またまたまたまたスコセッシが新たなる代表作を発表。
80歳を過ぎても尚、代表作を更新し続けるなんて、もはや別次元か仙人か生き神様の領域。
例のMCU批判発言についてはとりあえず今は置いとこう。レジェンドはレジェンドであり続ける。
『アイリッシュマン』に続き、配信会社提携。
確かに題材からヒットは難しそう。
それでも本作を作りたかったスコセッシの熱意は尊敬もの。
『アイリッシュマン』はあのムードやカッコ良さに痺れたが、本作は題材や話に面白味あり。
原作のベストセラー・ノンフィクションではプレモンズ演じる捜査官の視点で語られるらしいが、映画は大胆脚色。レオ演じる主人公の視点から。
捜査官視点でも事件を追う捜査サスペンスの面白味あったろうが、映画の事件に大きく関わる一人の男の視点にした事によって、そこで何が起きたのか、何故起きてしまったのかを、痛烈に見せる事に成功している。
本当に、何故こんな凄惨で愚かな事件が起きてしまったのか…?
発端…と言うか、オセージ族は何も悪くない。油も神から授かりたもうたもの。
これも偏見かもしれないが、先住民と言うと、荒野でテントに住み、簡単に衣服を纏い、狩猟など昔からの風習や暮らし。
しかし本作では、荒野ではなく一つの町の、立派な屋敷に住み、高級車に乗り、上品な服を着ている。白人の紳士やご婦人と変わりない。
こういう先住民の描かれ方もハリウッド映画で初めてではなかろうか…?
そんな彼らに、白人たちが媚を売る。運転手すらする。
ハリウッド映画に於ける先住民と白人の立場逆転は新鮮だった。
しかし、白人たちがいつまでも先住民たちにおべっか使い続ける訳がない。
石油も富も何もかも、我々のものに…。
白人の誰か一人がそう思い妬んだ時、事件の発端が始まったのかもしれない…。
この町にやって来た主人公の男アーネスト。叔父を頼って。
叔父ウィリアムは町の有力者。“キング”と呼ばれ、町の発展に貢献し、オセージ族とも良好な関係を築いている。
石油採掘の仕事で多くの者が町を訪れ、富を手にし、先住民と白人の理想郷…一見は。
アーネストも叔父の下で働き始める。運転手の仕事。
オセージ族の娘モーリーと出会い、惹かれ合い、やがて結婚。娘も産まれる。
幸せと順風満帆に思えたが、叔父のある仕事に関与した事から…。
オセージ族と良好関係築き、穏やかで懐広いウィリアム。
が、彼の真の顔は…。
オセージ族の富を根こそぎ奪おうとする。
そのやり口は狡猾。
オセージ族に保険を掛け、不審死に見せ掛ける。
白人の男とオセージ族の女性を結婚させら、やはり相手を不審死に見せ掛ける。
それも直接指示ではなく、それとなくそうさせるように。
アーネストもまた。モーリーを少しずつ少しずつ追い詰めていく。
彼女の親姉妹を。謎の連続不審死に疑問を感じ、彼女が雇った探偵を。
手を下す。表向きは妻を愛し、妻を心配する良き夫面して。
いや、アーネストがモーリーを愛しているのは本当だ。
アーネストを愛しているが、叔父には逆らえない。
心身共に弱っていくモーリー。そんな彼女にアーネストは薬や注射を処方。が、それはただの薬や注射ではなかった…。
戦慄したのは、連続殺人の数々が、劇的に起こるべくして起きたのではなく、日常茶飯事のように描かれる事。
ウィリアム配下のこの町の白人にとって、オセージ族を殺すのはいつもの事なのだ。
だからオセージ族がどんなに不審死しても、誰も取り合わない。
州警察も動かない。FBIも動かない。
テイラー・シェリダン監督『ウインド・リバー』でも米辺境地でのネイティブ・アメリカン殺人事件を題材にしていたが、彼らを守る法はないのか…?
同じアメリカという国に住んでいながら、先住民というだけで差別偏見・疎外され、法も適用されない。
なら、アメリカの自由と正義と法は何処に…?
それは言わずもがな。“アメリカ白人”のみに。
オセージ族の数名がワシントンに招かれ、大統領に直接訴えた事から、やっと捜査が入る。
捜査官が調べ始めると、あっという間に事件の全貌や関与者が明らかに。
事件自体は拍子抜けするほど愚かで単純なものなのだ。
しかし、関与した者たちの欲、傲慢、悪事、愚行の数々が情けなく哀しく恐ろしい…。
先述の通り、アーネストがその凡例だ。
妻を愛している。子供たちを愛している。
でも、金や恵まれた今を手離したくない。
叔父を敬愛している。
叔父が怖い。
叔父の言いなりに…。
本人自身にも卑屈な面や闇の部分もあるが、客観的に見れば小悪党。いや、どうしようもないダメなクズ人間。
あの豪華客船の王子様が…。ショックを受けるファンもいるだろうが、寧ろ私は、レオの熱演にはいつもいつも絶対的信頼。風貌も凄みも、ジャック・ニコルソンのような怪優になってきた。
温情深い名士の腹の底は、底無し沼のような大悪党。金や利権、権力への貪欲さは人一倍。
この存在感を前に、レオも萎縮。『ケープ・フィアー』とは別口の、デ・ニーロ最恐も過言ではない。
だって誰しも、善人と思った人物の本性を知ったら…。
当初レオとプレモンズの役は逆だったらしいが、レオの希望で変更。結果的に良かったと思う。レオはクズ男をさすがの巧さで体現し、プレモンズは鋭さと柔らかさを併せ持った捜査官を好演。
特筆すべきは、モーリー役のリリー・グラッドストーン。彼女が真の主役と言ってもいい。
オセージ族として、良き妻として。
身近な者たちが殺され、精神に異常をきたしていく。
体調も悪化。その衰弱ぶりは見てて痛々しいほど。
夫を信じ、愛している。が、その夫は…。
終盤捜査官に保護され、病院にて療養。その時、事件の全貌や関与者の事を聞いた筈だ。
どう思っただろう。夫が関与している。自分の愛する者や親しい者に、夫は手を下したかもしれない…。
それでも彼女は夫を責めたりはしなかった。まだこの時点では夫を信頼していたのかもしれない。
が、夫は性懲りもなく嘘を付く。“インスリン”と。
モーリーが夫に落胆し、見限った瞬間。
私も何か胸の奥に、重いものがドーンと落ちた気がした。
ノンフィクション本となり映画になり、事件の顛末は知られている。
事件の真相は隠し通せるものじゃない。アーネストやウィリアムら関与者は逮捕。
そこでもウィリアムは悪あがきを続ける。弁護士も策略。私は今も尚この町の絶対的権力者だ。
アーネストは自分を裏切ったりしない。
アーネストが本当の事を言えば、無論叔父は罪に問われ、自分も含め手にした全てを失う事になる。
土壇場で証言撤回。やはりこの男は最後の最後まで…。
しかし彼がまた心変わりしたのは、悲しい報せ。どうしようもないクズ人間でも、家族を愛する男だったのだ。
それは嘘偽りない、彼の本心と全てだった。
それに気付くのが遅すぎた。
気付いた時、娘を亡くし、妻からの愛も失われていた…。
20世紀初頭、アメリカで起きた衝撃の事件。
それをある夫婦を軸にした事によって、哀れさ、悲しさ、愚かさを浮き彫りに。
本当に、何故こうなってしまったのか…?
欲に目が眩んだ罪深き者たち…。
ラストシーンがユニーク。
大抵事件のその後を黒画面にテロップで追記するが、“朗読劇”という形で。
モーリーの最期について触れる。それを朗読するのは、スコセッシ!
モーリーや犠牲になったオセージ族への追悼、白人たちが犯した愚罪の謝罪を、映画を通し、代弁も。
二度と、こんな悲劇と愚罪が起こらぬよう…。
スコセッシが問い、訴える。
朗読おじさん、スコセッシだったんか!勉強になった!
アーネストはインスリンに毒を混ぜてる意識はなかったんじゃないかしら、と。本当のことを言っていたのに、モリーは嘘だと思ったのではないかと。もし嘘だったら、レオ様の演技力、恐るべし
いつもお世話になります。なるほど🧐ご教示ありがとうございます。描写では 表面上は妻を慕っていたので
難しい😓心理ですねぇ。四谷怪談のお岩さんみたいにはいきませんね。逆に言えば、他の場面はディカプリオさん役の心理が理解できました。勉強になります📚。ありがとうございました。またよろしくお願いいたします🙇♀️
こりに凝った作品で、振り返ってみるに 3時間ごえ 不思議に誰も寝ていず トイレ中抜けもいない作品でした。
インスリンはよくわからない描写でした。心理的にこの時のディカプリオ役がわかりませんでした。
欲望 と 差別 はわかりました。