「もっとドンドンぶち破れぇ~」哀れなるものたち La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
もっとドンドンぶち破れぇ~
恋人がいなければ強制的な手術で動物に変えられるという奇妙な近未来を描いた『ロブスター』(2015)、不気味な少年から子殺しを命じられる恐ろしい『聖なる鹿殺し』(2018)で「これは一体何のお話なんだ?」と混乱させられつつも訳の分からぬ魅力に惹きつけられ、ヨルゴス・ランティモスは一気に注目監督になりました。その才能をハリウッドが見逃す筈はなく、恐らくそれまでの何倍もの予算をぶち込んだ豪華絢爛たる『女王陛下のお気に入り』(2019)ではアカデミー賞の多部門でノミネートされるまでになりました。ただ個人的な好みとしては、『女王陛下~』は、「訳分からない成分が足りない」のが不満でした。もっと迷宮に導いてよぉ~。ところが今回は、「豪華絢爛たる訳の分からなさ全開」でヨルゴス節が帰って来ました。待ってましたぁ~!
成人の体に胎児の頭脳を移植された女性が無垢な好奇心のままに世界を旅する物語で、謂わば現代のフランケンシュタインです。もう、オープニング映像から魅力的で、一気にゴシック・ワールドに引き込まれます。モノクロ映像もカラー映像も暴力的とすら思えるほどの美しさです。低い位置からフィッシュアイ・レンズでの移動撮影という僕の大好物の映像も今回はてんこ盛り。そんな世界で、エマ・ストーンが制限なしの弾けっぷりです。スッポンポンだろうとあからさまな性描写だろうとお構いなしに突っ走るのです。スクリーン前の我々を一体どこへ連れて行こうというのだろうとワクワクします。
ただ、常識に縛られぬ彼女の行動には伝統的な女性性の打破というテーマもあるのでしょうが、そういう観点で見ると舞台がパリに移ってからの展開にはちょっと小さくまとめてしまったのではと残念な思いも。もっと外に向かってドンドンぶち破って欲しかったです。