劇場公開日 2024年1月26日

「人体実験の被験者の成長譚である奇譚」哀れなるものたち まつだ𝕏ですがなにか?さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5人体実験の被験者の成長譚である奇譚

2024年2月26日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

ストーリーが奇想天外かつ演出が強烈で『奇譚』という表現が似合う作品だろう。

人体実験の被験者としてマッドサイエンティストである外科医・ゴッドウィン(ウィレム・デフォーさん)により脳の部分に赤ちゃんの脳を移植された成人の身体を持つベラ(エマ・ストーンさん)。
ベラの行動は言われてみれば/子育て経験があれば分かるだろうが子供の成長過程をなぞっていくものである。
ベラの成長は周囲の大人からみると急激であり、人間の欲求のひとつである性欲もストレートに表現するようになっていった。

ベラの行動は少しずつ成人の行動に近づいていくが、
・ゴッドウィンの教え子の医学生・マックス(ラミー・ユセフさん)
・ゴッドウィンとマックスを結婚させるための手続きを担当した弁護士・ダンカン(マーク・ラファロさん)
・ベラとダンカンの旅行中にクルーズ船で出会った乗客
・船から追放された後のパリの売春宿の客や労働者
などとの出会いや交流の中で、本能的行動と人格形成のアンバランスに周囲が振り回されながらも、ベラがひとりの人格を持った成人に近づく過程が興味深く観ることができる。
性欲の発露の描き方が故・大島渚さんの『愛のコリーダ』とは違う描き方ではあるが直接的であり、R-18指定も止むなしかと思った。

人体実験の被験者がストーリーに登場する作品としては個人的には大友克洋さんの『AKIRA』や貞本義行さん+庵野秀明さんの『新世紀エヴァンゲリオン』が印象的だが、この2作品をご覧になった方はベラの生き様と『AKIRA』の被験者たち・『エヴァンゲリオン』の綾波レイの姿と比べてみるのもアリかと思う。

元々彼等が非人道的な実験の産物であり、物語の終盤に登場するある人物の最後の姿の描き方が妥当かどうかは意見が分かれるだろう(個人的にはあまり好ましいとは思わなかった)。ベラにとっては明るい結末だが…

ピンホールカメラや魚眼レンズを使ったカメラワークや、モノクロから総天然色に移行する映像は、ヨルゴス・ランディモス監督の得意なスキルが反映されているようである。

まつだ𝕏ですがなにか?