劇場公開日 2023年12月8日

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「恋愛ファンタジーでも新しい戦争映画としてみられることは良し。しかし......」あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。 marumeroさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0恋愛ファンタジーでも新しい戦争映画としてみられることは良し。しかし......

2025年8月14日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

単純

まず、本作は、「戦争」というものを、或いはそこに生きた誰かを、その思いを、まざまざと観せては私たちに何を想わせるかという所謂これまでの「戦争映画」ではないと思います。
タイムスリップにしても、主観的に主人公がそうなる意義みたいものはあまり感じられません。現代の悩みと戦争はあまりにかけ離れているからです。
終戦から今年で80年ですから、戦争の記憶を伝えられる方というのは少なくなってきているでしょうし、テレビでは『火垂るの墓』はもう随分と放送されていませんでした(と、書いていたら今年は放送されるみたいです!追記)。
もしかしたら、いまの若いひとたちが感じる戦争というのは変わってきているのかもしれませんし、伝わる伝え方というのも変わる必要があるのではないかと思います。
その答えの一つとして、本作のような作品が生まれたように思います。
あくまで現代を生きる主人公の物語であるということです。現代の若いひとたちが、ー戦時下の誰かではなくー同じく現代の主人公を通じて戦争を知り考えるきっかけになる。
何が起こったかを学び知ることも大事ですが、なぜそれを学ぶ(知る)必要があるのか、歴史が現状を理解するためにあるという視点でみるならば、そのきっかけは、現代的な感覚で良くて、例えば恋愛のような感情的なものでも良いと思うのです。その中で「現実離れ」した不条理を肌で感じることができれば一つの正解だと思います。そういう意味では本作のような作品が映画としての価値を持っているように思います。

言っちゃいけないとはわかっていてもやっぱり「行かないで」と言ってしまう「ダメな妹」の百合と、涙しながらも笑顔で「明日、お見送り行きます」という千夜。二つの時代に生きる女の対比がよくわかる。千夜のこの一言には多くのメッセージが込められているでしょう。とても強くて儚くて悲しくて美しい。しかし観る者は、何も千夜ばかりに同調する必要はないと思うのです。現代人の感覚で、百合に共感していいと思うのです。
これが本作が描く新しい戦争映画のカタチだと私は感じました。

しかし、シンプルに物語として、どうしても詰まらないと感じてしまったことがあります。
心や物事の機微の描き方が粗雑で軽薄に感じられるのです。
タイムスリップや彰との出会いにおける心の動きが、実に淡々としていて趣に欠けますし、特に印象的だったのが、現代人の感覚をストレートにぶつけ過ぎている点です。
観る者は現代人の感覚で共感して良いと前述しましたが、これは話が別です。過去の人々の価値観や信念を否定的に捉えることは、軽々しく描いていいということではないと思うのです。
百合が警官に盾突くシーンがありますが、どれほどの覚悟があったでしょうか。客観的にみれば、何も知らない若い娘が戯言をぬかすなって話です。殺されてもおかしくはありません(現代の価値観でいえば勿論おかしいですが)。警官だけでなく、そこにいた多くの人々だってそう思うはず。特攻兵を神様扱いしているのですから。ましてこれだけの信念(の是非はともかくとして)を持っている警官が「今回は見逃してやる」なんてダサいセリフは絶対に吐かないはずです。これでは、彰が体を張って守ってくれる胸キュンシーンのためだけに悪役として警官を立てただけに過ぎないのではないでしょうか。実に軽薄な描写だと感じました。

戦争とタイムスリップという論理性や緻密性を要するテーマを扱っている割には、恋愛に重きを置いただけに感情的というか直感的になってしまって、デリカシーのバランスが崩れ放漫になってしまった印象です。
それでもホロリと泣いてしまったのは、私が涙脆いということだけではなく、切なくも優しい空気感が確かに心地良かったからです。

marumero
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