劇場公開日 2023年12月8日

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「現代人に特攻の時代を体験させる稀有な大傑作」あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0現代人に特攻の時代を体験させる稀有な大傑作

2024年1月20日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

小説投稿サイトで発表されたものが話題となって単行本化され、漫画化され、さらに映画化されたという珍しい作品である。この映画の公開日は 2023 年の12月8日という意味深い日付で、すぐ見に行くこともできたが、翌月に鹿児島まで旅をして海軍特攻基地のあった鹿屋と、陸軍特攻基地のあった知覧を訪れる予定だったので、敢えて見ずに出かけて、戻ってから見た。結論から言うと、この映画を見てから旅立てば良かったとつくづく思った。

驚いたことに、公開から1ヶ月以上経つのに、客席は半分以上埋まっており、そのほとんどが女子高生などの若い女性たちで、私のようなオッさんは数えるほどしかいなかった。コロナウィルスの影響が下火になったせいで、映画館も間に空席を置かずに客を入れるようになったが、何と、私の両隣と前後を女子高生に囲まれるという普段ではあり得ない状況に陥った。聞いてみたら、何度も見に来ている子らがほとんどだという。

主人公の女子高生・加納百合は、幼い頃に父親が見知らぬ子供が溺れているのを助けようとして落命してしまった家庭に母親と二人で暮らしている。暮らしは決して楽でなく、スーパーの魚売り場で終日魚を捌いて生活費を得ている母親に対してあからさまに「臭い」と嫌悪感を表し、父親は自分たちより他人の子を救う人生を選んだと悪態をつく。どこかの反日野党の代表のような精神の持ち主である。高校の三者面談の夜に母親に反発して家を飛び出し、近所の洞窟のような場所で寝落ちして目が覚めると見知らぬ土地にいて、日付は昭和 20 年の6月になっていて、近くに陸軍特攻の基地があるという経緯で物語が始まる。基地の名前は桜田陸軍基地という架空の基地である。

訳がわからず、空腹でフラフラと彷徨っていた彼女を見かねて近くの食堂に連れて来てくれたのが、秋田出身の特攻隊員・佐久間彰だった。連れて行って貰った食堂で住み込みで働くことになり、その後の物語はほぼこの食堂を舞台に展開される。特攻基地の近くの食堂というと、「ホタル館」として広く知られる知覧の「富屋食堂」かと思われるが、現代の百合が社会見学で訪ねたのが、私も行ったことのある茨城県阿見町にある「予科練平和記念館」であったことから、タイムスリップした際に位置の移動を伴わないとすると、特攻基地は昭和 15 年から鉾田市にあった陸軍飛行学校であろうと考えられる。この学校は戦況が悪化した昭和 19 年から「鉾田教導飛行師団」となり、陸軍で初めての特攻隊「万朶隊(ばんだたい)」が編成されて鉾田を飛び立ったのを初めとして、その後、終戦まで次々に特攻隊が編成され、出撃した兵士の多くがフィリピンや沖縄などの洋上で戦死している。映画のロケは茨城県行方市で行われたようだが、強烈に記憶に残る白百合の咲き誇る丘のロケ地は静岡県の袋田市にあるらしい。

タイムスリップ後も百合が戦時中の価値観を理解できずに現代的な言動に終始するのには時々イラッとさせられるが、大きな包容力で守ろうとする佐久間の魅力は終始光っていた。自身も空襲で死ぬ目に遭い、戦災孤児に遭遇し、佐久間やその仲間との別離を経験するにつれて、百合の人柄も劇的な変化を見せる。

驚嘆すべきことに、この映画の物語は決してお涙頂戴に甘んじず、当時の価値観や希少な飲食物の有難さをリアルに描き出している。このような映画を現代の若い子たちが繰り返し見て、館内にすすり泣きが溢れているというのは、実に素晴らしい状況だと思わずにいられなかった。声高に上から教えても逃げ出す子たちが大多数だろうが、自分たちの目線で当時の状況を体験しているのに近いのだと思う。勿論、「日本は戦争に負ける」などと口にするのを警察官に聞かれてしまった場合は、あんなに生易しい処分では済まなかったはずであるし、軍人たちはもっと張りのある大声で叫ぶように喋っていたはずであるが、口当たりを優しくしようという配慮なのだと思う。

音楽担当は初めて目にするお名前だったが、物語を邪魔しない曲を付けていた。タイムスリップものでは定番の時を隔てたメッセージの切なさは、本作でも涙を絞っていた。エンドロールで流れる福山雅治の歌は、映画の内容を見事になぞるものとなっていて、聞いてる間中涙が止まらなかった。本編中よりエンドロールの方が泣けたなどというのは初めての体験だった。
(映像5+脚本5+役者5+音楽5+演出5)×4= 100 点。

アラ古希
アラ古希さんのコメント
2024年1月21日

知覧の方が有名ですが、鹿屋の方が多くの特攻兵が飛び立っていたそうです。両方とも見て来られたのは何よりの幸運でした。

アラ古希
トモタロスさんのコメント
2024年1月21日

本編を観る前にCMと主題歌で泣けました。自分が観に行った時は平日のためか高齢者が多かったです。映画を観て後日、知覧に見学に行く機会があり、再度映画を観たくなりました。

トモタロス