「「お前は何故ここにいるのか」 「ここしかいる場所がないからだ」」インスペクション ここで生きる ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
「お前は何故ここにいるのか」 「ここしかいる場所がないからだ」
1982年の映画〔愛と青春の旅だち〕は
居場所の無い主人公『ザック・メイヨ(リチャード・ギア)』が
航空士官候補生学校に入学し
パイロットとして生きるよすがを見つけるまでの物語り。
女工の『ポーラ(デブラ・ウィンガー)』との恋愛エピソードも挟まれるが、
それ以上に脳裏に焼き付いているのは
鬼軍曹『フォーリー(ルイス・ゴセット・ジュニア)』の苛烈とも表現したい「しごき」。
言葉で体罰で、生徒たちを心身両面で極限状態にまで追い込む。
勿論、それは生半可の状態で送り出した生徒は、
自身にも仲間にも、ひいては国家にも悪影響を与えるとの背景。
そして、生徒たちは、卒業した途端に軍曹よりも上位となり、
逆に敬礼をし、「サー」と称える皮肉な立場でもある。
もっとも、過酷な訓練が行き過ぎると
{フルメタル・ジャケット(1987年)}のような悲劇を生むのだが。
本作の主人公『エリス・フレンチ(ジェレミー・ポープ)』は
ゲイであることから実母に捨てられ、十年間のホームレス生活を経て
海兵隊に志願入隊する。
寄る辺ない身上は、先作とも類似。
その後の鬼教官の過酷な「しごき」についても。
既視感のあるシーンが
繰り返し眼前に展開される。
ただ、ゲイであることが周囲に知られ
それが為に差別を受け、更には
言われない暴力も振るわれるのは大きな違いで、
イマらしいエピソード。
それでも彼は敢然と立ち向かい
海兵になることを目指す。
作品のの舞台は「イラク戦争」の「大規模戦闘終結宣言」が出された二年後の2005年。
LGBTQ+への理解は今ほど進んでおらず、
アメリカ国内のイスラム教徒への偏見の目も厳しい。
小隊に志願したのは19名も、
最終卒業者は11名、8名は落伍との厳しい訓練。
『エリス』はどちらの側になるのか、と
母親は変わった彼を認めてくれるのか、が
ストーリーの見どころも、
過程で主人公はかけがえのない仲間を得る。
それは互いの背中を預け合えるとの絶対的な信頼。
今後何十年にも渡り続いて行くであろう宝なのに違いない。
冒頭、「実際の出来事にインスパイアされた物語」であることが提示され、
エンドロールでは主人公のモデルとなった人物の青年期の写真と
その母親の写真も提示、更には彼女への献辞も示される。
幾多の歳を越え、母親と息子の確執は氷解したのだろうか。
元々、子供への愛は揺るぎないものだったのだから。