「コロナ禍が収束した2023年の夏に、あの頃とこの先を見せてくれた」星くずの片隅で yookieさんの映画レビュー(感想・評価)
コロナ禍が収束した2023年の夏に、あの頃とこの先を見せてくれた
2020年コロナ禍の香港が舞台のヒューマンドラマ。個人の清掃会社を経営する中年男性ザクとシングルマザーのキャンディとの関わり合いを描いた作品。
10年以上前に旅した香港で見た、雑多で活気のある街並みやギラギラとした夜景。私の記憶の中と香港とは異なる、切なくも美しい景色がスクリーンに映し出されていた。それはコロナ禍の新宿や身近な街で見た景色に似ていた。自粛で多くの店が閉まり、マスクや消毒が手に入りにくく、不安や悲しみや憤りが渦巻いていたあの頃を否が応でも思い出す映像だった。だからこそ、登場人物に共感したりできなかったり、やっぱり幸せになって欲しいと願ったりした。
所謂エッセンシャルワーカーであるザクとシングルペアレントのキャンディは、自らを「神様にも気づかれないような塵のような存在」と台詞にあったように、誰もが大変だったコロナ禍で、より厳しい状況にあっただろう人達だ。ただでさえ楽じゃない生活にコロナ禍が襲いかかり、懸命に生活を続けるも、家族の死・廃業・夜逃げなど、追い込まれていく様子はいたたまれなかった。二人が清掃に行く富裕層のマンションとの対比、更には彼等よりもっと貧しい人が孤独死した部屋の清掃シーンなど、厳しい格差も見せつけられ、ずしりとくる。これはありふれたお涙頂戴ものではない。
そんな中でもザクと母親、キャンディーと娘のジュ―、ちっぽけな家族それぞれの日常のやりとりは心温まるシーンのひとつであり、特にキャンディとジュ―が暮らす小さなアパートの部屋はポップで明るく、彼等だけの小さな宇宙が広がっていて、自分たちなりの幸せを見つけて何とか生きていこうとする姿には、強張っていた頬が緩む場面だった。
自分を更に不幸にした張本人でもあるキャンディの不器用さや正しくなさを受け止め、彼女を許し信じるザクの行き過ぎた優しさに、少々驚き呆れながらも、こうしたザクの行動が、彼やキャンディや彼等が生きる世界を最終的には良い方向に導いてくれるのかもしれない。そう信じたいと思わせてくれた。
主演のルイス・チョンがトータルテンボスの大村に似ている事が若干のノイズではあったが(笑)彼を含め、ザクの母親役やキャンディの娘役など俳優陣の演技が素晴らしかった。キャンディ役のアンジェラ・ユンはトップモデルと俳優を兼業しているだけあって、そのスタイルの美しさに目を奪われた。VaundyのMVにも出演しているらしく、今後の出演作や活動にも注目したい。時々話す日本語もキュートだった。