「評としては禁句だが、制作サイドが本作で何をしたかったのかさっぱり判らない」湖の女たち ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
評としては禁句だが、制作サイドが本作で何をしたかったのかさっぱり判らない
エンドロールでは『松本まりか』と『福士蒼汰』の名前が併記され
両者が主役の物語りであることが提示されるも、
実際はタイトルの「・・・・たち」が指し示すように
琵琶湖の畔に集う複数の女性の{群像劇}。
それも{輪舞}のように語りは進み、
観終わった時には焦点のぼやけた
何も残らない作品になってしまった。
原作はどうなのかは知らぬが、
監督・脚本の『大森立嗣』には猛省を促したいところ。
湖岸の町の介護施設で入居者の死亡が発生。
人工呼吸機の故障は考えられないことから
警察は殺人を、それも内部職員による犯行を疑う。
ここで見立てによる強引な捜査が行われるのはお約束。
犯人と目された『松本郁子(財前直見)』は、連日のように署で尋問にも近い取り調べを受ける。
ここで取り調べに当たる刑事の一人『伊佐美佑(浅野忠信)』の過去が語られる。
五十人以上の死者を出した薬害事件を上からの圧力により立件できなかった、とのトラウマ。
しかし、正義を目指し刑事になった男がなぜ
その一件だけで、以降は思い込み捜査をするようになったのかは釈然とせず。
ここに、その薬害事件に再びスポットライトを当てようと取材を進める記者が現れる。
彼女は嘗て闇に葬られた事件の黒幕に「731部隊」の関係者が居たことを突き止めるが
関連して披瀝されるエピソードもまた唐突。
あまりに寓意に満ちて、他の出来事とどう繋げれば良いのかさっぱり理解に苦しむ。
数十年前と同様、上からの圧力が再び掛かり、
取材を続けられなくなった『池田由季(福地桃子)』は、
投宿先の同地で起きていた先の事件に目を向け
真相らしきものに辿り着く。
が、それを証明する術は、なぜか見つからない。
同時並行でやはり施設の介護士『豊田佳代(松本まりか)』と
捜査に当たるもう一人の刑事『濱中圭介(福士蒼汰)』の関係が描かれる。
二人の出会いは了解も、その後の流れの不自然さは特筆もの。
とりわけ『佳代』が羞恥プレイを嬉々として受けるようになった背景が釈然とせず、
口をぽかんと開け見守るばかり。
五人の女性の過去と今、夫々が抱える葛藤、
世間での生き辛さに言及されるも散文的。
また官憲の圧力や、(直近でもあった)介護施設での一方的な思い込みによる殺人も
盛り込まれるが、何れも深く立ち入ることはないので
表面的な語りに終始し、鑑賞者の心に刻まれることはない。
唯一、義憤を感じさせる警察による威圧的な捜査も
無理筋に過ぎ、結局は白けてしまうほど。
そものもの発端となった薬害事件ですら、
規模の大きさを勘案すれば、そんな幕引きがホントに可能なのかは
首を傾げる。
制作意図すら判然としない、散らかりまくった一本。
主要な二人の関係性がどうにももやっとしているのも一要因。
『松本まりか』が〔夜、鳥たちが啼く(2022年)〕に引き続き
カラダを張った演技をしていることだけが評価点か。