「(問題の核心部分に触れるのでネタバレ扱い)一人の法律系資格持ちの考察」湖の女たち yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
(問題の核心部分に触れるのでネタバレ扱い)一人の法律系資格持ちの考察
今年190本目(合計1,282本目/今月(2024年5月度)24本目)。
(前の作品 「猿の惑星」→この作品「湖の女たち」→次の作品「碁盤切り」
※ 以下、検証、考察のために特定の固有名詞がでますが、それは検証・考察のものであり、特定個人や企業ほかを責めるものではないことを強く断っておきます。
さて、こちらの作品です。かなり難解なのではないかなといったところです。
多くの方にとって理解が難しいと思われる「薬害問題」「政治家の介入」「731部隊」ほかの論点に絞っていきたいと思います。
文字数がいくらあっても足りませんし、ストーリーについては他の方が書かれているので、考察の一助となればということでさっそく採点および考察に入ります。
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(減点0.8/「通達」の意味の誤用について)
・ 通達は、上級行政庁が下級行政庁に出すものであって、国民はそれに縛られることはありません(墓地埋葬事件)。 ※ 「編集部からの通達で~」のくだりのラストあたりの部分
(減点0.2/いかなる理解をするにしても複雑すぎる)
・ 以下の私の考察も一つの「こうではなかろうか」というもので正解とは限りません。ただ、おそらくそうではないかという筋のものですが、いずれにしてもここまでマニアックな内容は、映画を見ることを娯楽の一つとする一般的な立場では理解しがたいのでは…と思います。
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(減点なし/参考(考察)/この映画が述べる「薬害事件」「731」「圧力」などの意味についてのひとつの考察)
・ 以下は、行政書士試験合格者レベルの考察です(ある程度の基礎知識と文献調査が可能なレベル)。また最初にも書いた通り、考察のためのものであり、特定個人や企業を批判する趣旨のものではないことは強く断っておきます。
さて、多くの方はおそらくこの映画でいきなり出てくる「薬害事件」「731部隊」「厚労省からの圧力」といった、介護士の話とまるで違う話をいきなりはじめるこの映画は厳しかったのではないかと思いますが、個人的には以下のようにみました。
まず、「731部隊」は多くの方が知っている通り、第二次世界大戦中に存在した実在する部隊です。
ここで、この映画が指す「薬害事件」や「血液製剤」といった語が何を指すかは、映画内では明確にされていませんが、個人的には「ミドリ十字」(現在は廃業)ではなかろうかというのが見解です。
戦争終結とともに、731部隊の解散とともに日本は戦後復興していきますが、731部隊のおこなった「実験」はさておきも、そこで発達した医療の知識ほかは、戦後になっても一部、官民とわず活用はされています。実際に731部隊の元所属者が創立した製薬会社はいくつかありますし、厚労省(便宜上、現在の名称。以下全て同じ)の役人もまた、そうした知識をもっていました。実際問題、731部隊解散後に官民の「官」についた側も「医学知識の使い先」が問題になっていた(糾弾されるべき点)ことは知っていたはずです。
ところが、旧ミドリ十字のいわゆる薬害事件や血液製剤の事件は、会社側もいろいろ隠ぺいを図ったし、厚労省の役人もまた、一定程度の癒着があったことは薬害事件をめぐる裁判で明らかになっています(特定の会社を極端に優遇して他の会社の治験の審査を意図的に遅延させたり止めたりするようなことがあった)。そしてどちら(ミドリ十字や、他の類似する会社、官民の「官」の側)も裁判で裁かれたのはご存じの通りです。731部隊が発祥になる医療機関や医療機器メーカー、製薬業界の「すべて」が悪いのではないのですが、明確に知識を悪用したのがこのケースです。映画内では少し違った描写になっていますが、いずれにせよ血液製剤をめぐる薬害事件について厚労省やそのトップに近い立場の人が裁かれたのもはご存じの通り事実で、そこで問題になったのは単なる「口利き」や「わいろ」といった「ある意味」どうでもいいもの、あるいは「731部隊をお互い知っている中だからこそできたズブズブ関係でできた癒着」でもなく、「そうしたズブズブな関係をつづけた結果、被害者が拡大したこと」が問題になったわけです。
そして実史ではどちらもが裁かれ、実質的に国が被害者を救済する形となったことはご存じの通りですが、それは類似するケースでも参考にされたリーディングケースであり(B型肝炎訴訟ほか多数)、この事件は多くの方を傷つけた一方で、被害者に対してかなりの配慮がされた(補償金のほか、この事件が契機となって「免疫障害」という概念が内部障害の一つとして定まり一定の福祉制度(身体障がい者手帳の取得による税金の優遇ほか)がつくられた)経緯があり、今にいたります。および、これにより一定程度の救済が得られ「隠すべき存在」とされた薬害事件(というよりも、そこから発生した各種の感染症ほか)も、当事者が実名をあげて国会議員として立候補し、その後の薬害事件防止のため諸法律が整備されるように議員立法等で活躍したことは、誰しもがしることでしょう。
映画が述べている点はこうした部分ではなかろうかということはある程度の知識があれば推測がつきますが、ここまで求めるのは酷ではないのかな…といったところです。