縁の下のイミグレのレビュー・感想・評価
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勉強になる。おもしろくはない
テーマに関心あり観賞。見る前はタイトルから入管行政に関する話かと思ったが、広く日本の移民受け入れ政策、特にその代表としての技能実習生制度をめぐる問題に焦点を当てる作品だった。
といっても現場の実情にカメラが迫るドキュメンタリー風な作りではなく、行政書士事務所を訪れる関係者(実習生と日本人の友人、行政書士、監理団体、政治家)の会話を通じて問題を浮き彫りにするというもの。実際、アバンを除いて全てのシーンは事務所ビルで完結している。給料未払いの相談から始まるものの、仕事の内容や待遇など個別具体的な問題には触れず、実習生の出身地も明示されない(タガログ語を話しているように見えるが、名前はベトナムっぽい)。大きな構図、つまりシステム全体の問題にフォーカスするために意図してそうしているのだろう。
結果として、論点が分かりやすく説明され、この問題をよく知らない向きには理解しやすく、他人事ではないと気づかされる出来になっているといえる。
個人的には、説明過剰な台詞で語られる中身のほとんどが知っている内容だったのと、各関係者役に求められた役割と演技が図式的すぎて、途中まではまるで延々と続く教育番組を見せられているかのようだった。一転、監理団体職員が現れてから実習生が母語で毒を吐くまでの感情のぶつかり合いは見所だったといえる(ラサール石井のうまさが支えていた)。
紹介ページの解説に「ブラックコメディ」とあるが、エピソードとして笑える要素は見当たらず。強いていえば、このシステムそのもののおかしさを嗤う、ということか。前述のようにアプローチが違うからしょうがないが、(例えば「ドンバス」のように)現場の非道さ、理不尽さを笑いに転化するような技も見たかった。
一つ学んだのは、そんな狂ったシステム――制度がゴミで関係者がクズで実態は奴隷的搾取――であることは百も承知で、それでも未来を買えるとしてこの国を目指す人々がいるのもまた事実であること。
(少なくとも制度が変わる方向なのは一歩前進ではあるが)まだこの国を選んでくれる人がいる間に、少しでもましなシステムに変えるために自分は何ができるだろうか。
笑っている場合ではなのに笑ってしまいます
現代の奴隷制度として悪名高い技能実習生制度を扱った映画ということで興味を持ち、見に行ってきました。
ベトナム人技能実習生たちの来日前の母国での暮らしや、彼・彼女らが日本で働いてる際の様子などを見ることができるのだろうと思って映画を見てみると、あにはからんや、最初から最後までほぼ全編が行政書士事務所での登場人物同士の、まるで掛け合い漫才を思わせるようなセリフのやり取りの連続になっていて驚きました。
画面の見た目にあまり変化がないので退屈なのかと言えばそうではなくて、セリフのやり取りがなんとも軽妙で面白おかしく、気がつくと笑っている自分がいました。
ただ、映画で扱っているテーマそのものは非常に重々しいもので、なぜ技能実習生たちが借金を背負っているのか、技能実習生の生存権や労働権、そして私たちが安い製品を買うことができるその理由などについて、普段の生活では全く意識していなかった、あるいは意識するこを避けてきたことを知ることができました。私たち日本人が王侯貴族のような暮らしをするには、外国人奴隷が必要なのだという事実、なんだかんだ言っても、私たち日本人は搾取する側の人間だったのだという事実を。
思えば、1990年代のバブル景気の頃から、当時3Kと言われたきつくて、汚くて、危険な仕事は外国人に任せればよいという風潮が現代まで受け継がれてきたような気がします。
もちろん、きつい仕事より楽な仕事の方がいい、危険な仕事よりは安全な仕事のほうがいい、汚れる仕事よりはきれいな仕事のほうがいい。それは当然のことだと思います。ですが、そういった私たちが生きていくうえで必要とされる仕事すら、大変だからという理由で、奴隷に任せてしまえばいい、○○国の奴隷がだめなら、次は××国の奴隷を連れてくればいいというのは、それでいいのだろうかと違和感を覚えてしまいます。
この日本という国が奴隷にとってうまみのある国であるうちはいいでしょうが、うまみがなくなり、奴隷が一人も来なくなったとき、私たちはどう暮らせばよいのでしょうか。
そしてまた、この物語の主人公のハインはとても強い女性だと思いました。彼女の決断を聞いたとき、涙がこぼれました。漫然と生きている自分にはとてもできない決断をする彼女に心打たれました。
などと感動した一方で、気づくと帰り道の100きんで買い物をしている自分がいました。しみついた習慣や意識といったものは、簡単には変わらないものですね。
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