「笑っている場合ではなのに笑ってしまいます」縁の下のイミグレ 正山小種さんの映画レビュー(感想・評価)
笑っている場合ではなのに笑ってしまいます
現代の奴隷制度として悪名高い技能実習生制度を扱った映画ということで興味を持ち、見に行ってきました。
ベトナム人技能実習生たちの来日前の母国での暮らしや、彼・彼女らが日本で働いてる際の様子などを見ることができるのだろうと思って映画を見てみると、あにはからんや、最初から最後までほぼ全編が行政書士事務所での登場人物同士の、まるで掛け合い漫才を思わせるようなセリフのやり取りの連続になっていて驚きました。
画面の見た目にあまり変化がないので退屈なのかと言えばそうではなくて、セリフのやり取りがなんとも軽妙で面白おかしく、気がつくと笑っている自分がいました。
ただ、映画で扱っているテーマそのものは非常に重々しいもので、なぜ技能実習生たちが借金を背負っているのか、技能実習生の生存権や労働権、そして私たちが安い製品を買うことができるその理由などについて、普段の生活では全く意識していなかった、あるいは意識するこを避けてきたことを知ることができました。私たち日本人が王侯貴族のような暮らしをするには、外国人奴隷が必要なのだという事実、なんだかんだ言っても、私たち日本人は搾取する側の人間だったのだという事実を。
思えば、1990年代のバブル景気の頃から、当時3Kと言われたきつくて、汚くて、危険な仕事は外国人に任せればよいという風潮が現代まで受け継がれてきたような気がします。
もちろん、きつい仕事より楽な仕事の方がいい、危険な仕事よりは安全な仕事のほうがいい、汚れる仕事よりはきれいな仕事のほうがいい。それは当然のことだと思います。ですが、そういった私たちが生きていくうえで必要とされる仕事すら、大変だからという理由で、奴隷に任せてしまえばいい、○○国の奴隷がだめなら、次は××国の奴隷を連れてくればいいというのは、それでいいのだろうかと違和感を覚えてしまいます。
この日本という国が奴隷にとってうまみのある国であるうちはいいでしょうが、うまみがなくなり、奴隷が一人も来なくなったとき、私たちはどう暮らせばよいのでしょうか。
そしてまた、この物語の主人公のハインはとても強い女性だと思いました。彼女の決断を聞いたとき、涙がこぼれました。漫然と生きている自分にはとてもできない決断をする彼女に心打たれました。
などと感動した一方で、気づくと帰り道の100きんで買い物をしている自分がいました。しみついた習慣や意識といったものは、簡単には変わらないものですね。