「モイモイウエスタン・SISU」SISU シス 不死身の男 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
モイモイウエスタン・SISU
唐突だが、「SISU/シス 不死身の男」は西部劇である。舞台は1944年、未開の荒野ではなくフィンランドのラップランドだが、西部劇なのである。迫りくる敵はカウボーイでも賞金稼ぎでもなくナチスSSだが、西部劇である!
ゴールド・ラッシュに沸いてアメリカ大陸を西へ西へと横断していくのが西部劇の舞台。それに倣ってアアタミ・コルピもやはり金を掘っている。
過去を捨て、独りひたすら金を掘る。西部劇の主人公がどこか影のある流れ者であるように、アアタミも体中に傷を負い、過去の戦いを匂わせる主人公である。第一章「黄金」はフィンランド版西部劇の幕開けの章なのだ。
もちろん予告で紹介されるように、アアタミの不死身っぷりを堪能する映画でもある。堪能、というか全てにおいて「そんな事ある?!」とツッコまざるを得ない。ツッコミ属性の人は第三章から大忙しなことこの上ないほど、異次元の戦いっぷりを見せてくるのだ。
その異次元さが常軌を逸し過ぎてるがゆえに、一周回って面白いから不思議。不死身の男、とタイトルに銘打たれているものの、どちらかというと物凄い粘り強さなのだ。
肉を斬らせて骨を断つという言い回しがあるが、アアタミの粘りはもはや骨まで断たせちゃったけどギリ神経は繋がってる、みたいな次元である。
戦いぶりも決してスマートに上手を行くわけではなく、自分も大ピンチだけど相手も大ピンチだから問題ない!みたいな戦い。
で、本当に死んでしまうまで絶対に諦めない。
個人的には第三章「地雷原」の後、川での一連のシークエンスがメチャメチャ好きだ。
追手に犬がいると見るや相手のトラックに引きずられながら犬の嗅覚をやり過ごすためにガソリンまみれになり、挙げ句自らマッチに火を付け、火だるまのまま川へ飛び込む。
川の中では、金塊を取りに追ってきた兵士の喉を掻っ捌いて、相手の喉から息継ぎ!もう予想の遥か上を行く生存への飽くなき執着。
「そんな事ある?!」って3回は言ったね、心の中で。
西部劇的な演出を随所に散りばめ、異次元の戦いを描き、バイオレンスでありつつ、スゴすぎてちょっと笑っちゃう。
とても90分とは思えない濃密な娯楽作。個人的お気に入りシーンを書いたけど、それ以外にもツッコミながら堪能できる不死身シーンが盛り沢山。バトルはリアル路線な上にハードなので、痛い系のアクションが苦手な人にはちょっと厳しいかもしれない。
けど、お釣りが来るほど笑えるから是非観てほしい。
音響にもかなり力が入ってるので、劇場で鑑賞する価値アリ!の一本。