「【アメリカのサッカーコーチが世界最弱だった米領サモアのコーチに就任した訳。今作は哀しき過去を持つコーチと多様性溢れる負け犬根性が染みついた選手たちとの交流と再生を、笑いと共に描いた作品なのである。】」ネクスト・ゴール・ウィンズ NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【アメリカのサッカーコーチが世界最弱だった米領サモアのコーチに就任した訳。今作は哀しき過去を持つコーチと多様性溢れる負け犬根性が染みついた選手たちとの交流と再生を、笑いと共に描いた作品なのである。】
■舞台は太平洋に浮かぶ島国、米領サモア。
ワールドカップ予選でオーストラリアに0-31で大敗した過去を持つ世界最弱チームを立て直すために来た米国人ロンゲン(マイケル・ファスペンダー)は就任早々、余りにマイペースなメンバーと衝突し、キレまくる。
◆感想
・今作が優れた指導者が、弱小チームを栄光へと導くというステレオタイプな作品になっていないのは、ロンゲン自身が(後半、彼自身の口から言われるのであるが。)2年前に愛する娘を交通事故で失って居たり、フォワードのジャイヤが”第三の性”を持つ選手であったり、他の選手たちも過去の大敗にトラウマを持って居たり、登場人物夫々が問題を抱えている点だと思う。
・今作ではそれをユニークに表現している点が良いと思う。島の車の速度が異様に遅かったり、(クスクス。)サモアの人達のマイペースな生き方に、最初は苛苛しつつも徐々に抱えた傷を癒されて行くロンゲン。
- この物語はロンゲンが、愛する娘を亡くした過去を再生し、人間としても成長する物語なのである。故に彼は念願の一勝を上げたチームに別れを告げ、新たなるアメリカチームのスカウトになる決心をしたのである。-
・彼は案内された海岸沿いの家に、妻(エリザベス・モス)と娘と自身の写真を飾る。そして、携帯電話に残された娘が残した、彼女の明るいメッセージ。
”パパ、携帯電話のかけ方知ってる?忙しいかもしれないけれど、連絡してね。”
ー 何気なく見ていたこの数シーンが後半に効いてくるとはなあ・・。沁みたなあ。ロンゲンが選手の皆に娘の死を告げ、後悔する気持ちを告げたシーンは泣けたなあ。-
・ロンゲンは、最初はチームを引っ張るフォアードのジャイマヤにキツク当たるが、彼が”第三の性”の人間であると知り、彼の生き方を認めていく姿。
ー ジャイマヤが泣きながらホルモン剤注射を辞めた事を告白するシーン。”何だか、どんどん醜くなっていく気がして・・。”ロンゲンはそんな彼を優しく抱きしめるのである。-
・ロンゲンは自分の意志通りに動けない選手たちを見て、試合中に椅子はぶん投げるし、クーラーボックスまでぶん投げる。
ー だが、彼はアメリカのチームの監督だった頃からキレるようになっていたのである。娘の死が切っ掛けだろうか。それを見てサモアの選手たちがビビる姿も何だか可笑しい。-
・W杯予選の一回戦。相手はトンガ。お互いにラグビーのシバタウで威嚇しあい(イマイチ、揃っていない所も可笑しい。)試合開始。ジャイマヤの活躍もあり、初得点を挙げ、屈辱の31得点を献上したゴールキーパーのニッキーが見事なセイビングをする。
・だが、前半の試合ぶりを見て激怒するロンゲンを、米領サモアのサッカー会会長のタビタ(この人、色んな役割をしている。一生懸命なのだろうが、何だか可笑しい。クスクス。)は必死に説得し、選手ルームに戻ってロンゲンが行った事。
それは、ホワイトボードに書いていた試合作戦の図を消し去り、ニッコリマークを書いた事。
ー それまで、プレッシャーでガチガチだった選手たちの表情がその絵を見て変わるのである。-
<今作は、ほぼ実話だそうだが、ステレオタイプ的な”勝利、それは努力、友情に支えられたもの”と言う描き方ではなく、互いを尊重する”多様性”をキーワードにした素敵な様々な葛藤と心に傷を抱えた人達が再生して行く様を可笑しく描いた逸品なのである。>