劇場公開日 2024年2月16日

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「ボーが恐れている理由」ボーはおそれている TOKIESさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ボーが恐れている理由

2024年2月18日
iPhoneアプリから投稿

ヘレディタリー、ミッドサマーに続く怪作で、制作費3500万ドルという前作の4倍近くの予算規模となる本作。

アリアスターの短編映画BEAU(2011)が元になった作品で、冒頭の『自宅の鍵をかける途中でフロスを忘れて取りにいって戻ってきたら鍵が盗まれている』というプロットはこの時の着想が元になっていることが分かる。

今回も「母性」がテーマとして描かれ、聖母の置物や銅像のモチーフは、まるで母が神のような立ち位置なのだ。途中で ”Jesus sees your abominations”と出てくるのも、チャンネル78で過去現在未来が監視されているのも、まるで母親が神となって、「あなたの悪事を監視している」かのようだ。これはエンディングにも大きく関わるので注目しておきたい。

もう一つの要素として見過ごせないのが「水」の描かれ方だ。冒頭の羊水、アパートの水が止まる、薬のための水(クレジットカードを止められ、買えないため通報される)、浴槽の水(水浸しになる)、大洪水、回想シーンでの船、浴槽、そしてエンディングに繋がるわけだが、モナ・ワッサーマンのwasserman はドイツ語で『水の精』を表すため、母親が絶対的な権力者であることも示唆している。

本作は4つのセクションでできており、最初の3つはそれぞれボウが気絶して終了する。①車に撥ねられる②森の木に激突する③脚のGPS装置が爆破する(劇中の大洪水のシーンでも気絶しているので、それを含めると4回気絶している)

ボウはパラノイア的で、強迫観念や被害妄想がひどく(もしくは薬の副作用)、母親に依存し、極めて優柔不断な性格なのだ。母親という足枷を外して自らの人生を歩もうとするボウの建設的妄想も描かれるが、最終的には親子の葛藤・軋轢に帰結する4部構成となっている。

アリアスターならではのゾッとするサイコスリラー描写が散りばめられ、展開の移り変わりも早いので、間延び感はさほどない。

ボウの一人称視点のため、現実と妄想の境目がなく、付いていけない観客は、最後まで真相分からず愕然とするだろうが、世界観に入り込める人なら、ボウの内面に穿ちいって、心地よささえ感じるだろう。

ホアキンは当時アカデミー賞を獲ったばかりだったのもあり、出演を渋っていたそうだが、アリが説き伏せて、形になったそうだ。次回作の西部劇がテーマのeddingtonの出演も決まっているらしいので、今から楽しみである。

アリアスターの交響曲とも言うべき音色に、身を委ねてほしい。

TOKIES