「闇を生み出すイナズマに感謝」愛にイナズマ つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
闇を生み出すイナズマに感謝
まず一番に言いたいのはやはり松岡茉優の演技ということになるだろう。他のキャストも皆良かったけれど松岡茉優は飛び抜けていたように感じた。
特に正夫とバーで最初に会ったとき、二人が会話していく中で花子が恋に落ちるが、マスク姿のままでもその瞬間が分かる演技はスゴい。
元々バケモノじみた天才系俳優だと思っていたけれど、やっぱり本物なんだなと再確認した。
物語のほうは、前半が花子と正夫のロマンスパートのようで、後半は花子の家族の話になっていく。
前後半で全く違う話をしているようで実際はある意味、同じ話をしていた。
この作品はキャラクターが色分けされていた。花子は赤で、正夫は緑、佐藤浩市が演じた花子の父は青だった。キャラクターの個性というか、人はそれぞれ違った色を持っているということだろう。人は一人ひとり違う。
違う多くの色が混ざっていくと黒になる。つまり、他人と交わって理解し共有していこうとすると黒くなるわけだ。
色が混ざる前、花子の家族が集合したときに父と二人の兄の衣装が赤いのが笑える。花子が自分色に染めようと行動したわけではないだろうが、作品のメタ的にはそういうことだろう。
もちろん花子主導のその目論見はうまくいかないわけだが、ここで家族ではない正夫が間を取り持つように存在できていることも面白い。
正夫は本当に変わった、空気の読めない、芯のある面白いキャラクターだった。
作中で何度か停電する。イナズマによって。
夜に停電すれば当然闇だ。闇は黒。黒くなる闇と抱き合うという行為は同じことだ。
コロナ禍で他人との距離が遠くなった中で生まれた距離感の物語であったわけで、前半のロマンスパートも、後半の家族パートも、つまるところ同じテーマだったのだ。
とは言っても、個人的には後半の家族パートは少々失速した印象を受けた。
前半のロマンスパートが最高だった反動かもしれないし、急にストーリーの方向性が変わったような雰囲気になるからかもしれない。
前半は限界突破の満点。後半は普通くらい。星は間を取ろうと思う。