「消えない思い」愛にイナズマ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
消えない思い
石井裕也監督、松岡茉優&窪田正孝W主演。
日本映画当代きっての若手筆頭株の監督と若手実力派。
鮮烈さや勢いを感じる作品を期待出来そう。
タイトルからも。愛!イナズマ!
期待に違わず。稲妻の如き喜怒哀楽が迸る。
Wikipediaによると、折村花子は映画監督。
幾つかの短編を経て、長編デビュー。題材は、自身の家族。
若さか個性か、風変わりな見方や感性を持っている。
突発的な事、脈絡のない事だって起こり得る。それが真実。
例えば、コロナ。あれは一体何だったのか…? 奪われた命は…?アベノマスクとか。何か意味があったのか…?
石井裕也が『茜色に焼かれる』に続き、アフターコロナの現日本を問う。
そんな花子に対し、助監督の荒川は考えが全く違う。
突発的な事、脈絡のない事なんて絶対起きない。全てに意味がある。
業界も長く、ルールやこれまで通りが絶対。それが当たり前。
ちなみに花子は下見の時から異端。
プロデューサーの原は花子の才能を買い、いい映画にしようと言いつつも、何処か他人事。唯一のアドバイスは、もっと人をよく見て。まあ、こう言う輩に限って…。
MEGUMIと三浦貴大が超絶技巧のムカつき。
家族の映画を撮りたい花子。自分の主張を通しながらも、自分を押し殺し、悶々悶々が募る…。
ある時花子は、正夫という青年と出会う。
コロナ禍の現状を巡って言い合う人たちを仲裁しようとして、逆に殴られてしまう正夫。
そんな正夫が気になり、正夫行きつけのバーで話し掛ける。
何処かKYな正夫。でも、真っ直ぐ純粋。窪田正孝が素のような好演と魅力。
花子もそうであり、何処か通じるものを感じる。
また正夫のルームメイトが、花子の映画に出演。不思議な縁。
突発的に?何の脈絡もなく?二人はキスを交わす。
しかし、稲妻のような愛の情熱的なラブストーリーに非ず。
好き合ってるのか、ただ意気投合しただけなのか、どっち付かずの関係性がユーモラス。
遂に撮影開始。が、監督は荒川に。
花子は病気で降板。
さらに、花子の降板で正夫のルームメイトも辞退。職を失い、彼は自殺してしまう…。
葬式の時、花子は原Pに抗議。
花子は病気降板ではなく、“上から”の意見で原が荒川を監督に変え、病気を降板の理由にした。業界ではよくある事だから。
納得いかない花子だが、一番食い下がりたくないのは、企画を奪われた事。これは、私の家族の物語。
これも業界ではよくある事だから。次頑張って。
“病気”の私に次があるんですか? この時の花子の返しにちと胸がすいた。
が、原Pは一切気に留める素振りもなく。
騙され、ギャラも貰えず、何より私の映画を奪われ…。
数々の秀作や賞を受賞し、もはや名匠でもあるが、まだまだ若い石井監督。そんな実体験あったのかな…?
この悶々悶々、今にも爆発しそうなやりきれない気持ち…。
ある雷雨の夜。正夫が花子に貯金を…。
花子は拒むが、正夫はこれを夢の為に使って。
花子も夢を諦めたくない。
激しい雷雨の中に、誓う。
前半はアフターコロナや下劣な映画製作裏を訴えるが、後半からは一転して家族の話。
序盤から挿入はされていた。
一人暮らしの花子の父・治。
何度も花子に電話するが、花子は一切出ない。
何か訳あり…?
花子が撮ろうとしていた映画のタイトルは『消えた女』。自身の家族と、花子が幼少時突然居なくなった母について。
父から説明はされたが…、父が傷害事件を起こし、それに愛想を尽かして出て行った。海外に旅に出たとか、明らかに嘘。
映画を通じて、自身の家族と向き合う。真実を明らかにする。何故母は居なくなり、父は嘘を付いた…?
企画は奪われたが(ちなみに荒川新監督では大部分書き直し)、撮影を敢行。その方法は…
正夫と実家に戻り、スマホカメラで、実父を問い詰めるようなリアル・ドキュメンタリー。
カメラを向けられているからか、それともやはりただ話したくないからか、うやむやに言葉を濁す父。
そんな父に怒りを爆発させる花子。
自分を押し殺していた花子だが、家族の前では超強気。その変貌ぶりに正夫もびっくり…!
花子がヒートアップしてから作品も加速。
松岡茉優の演技力、存在感は頼もしいほど。
父も花子に話があった。
これを機に、子供たちを呼ぶ。
長男・誠一は社長秘書。
次男・雄二は神父。
家族が集うのは10年ぶり。が、和気あいあいではないのは言うまでもない。
花子と誠一は感情ぶつけ合って罵詈雑言の言い合い。
雄二は平和主義。
父は右往左往。
KY正夫はカメラを回す。
ピリピリ険悪ムードからの修羅場。
なのに何故か、笑えてもくる。
松岡と窪田、池松壮亮に若葉竜也に佐藤浩市らが織り成す激情アンサンブル。
にしても、白髪しょぼくれの佐藤浩市、もうすっかり三國連太郎だ。
荒川の言葉じゃないが、訳あり問題だらけのあり得ない家族。しかしそれを、異様な高揚感と快テンポと演出で石井監督が見せきる。
稲妻が鳴り響いた後の静けさのように、一旦の休戦。
沸々とした感情燻りながら、夕食。
遂に父が切り出す。
お母さんと話してみるといい。
出て行った後も、父は母の携帯代を払い続けていた。いつか話す日が来る、今日この日の為に。
電話を掛ける。出たのは男性。
その男の話によると、元々病気がちで、3年前に他界したという…。
結婚した時から男と関係があった。父はそれを知りつつも…。
病気が発覚し、男の元へ。
他界していた母。家を出て行った理由は…。
真実なんて時にそんなもん。
花子以外は皆、他界は初耳だが、家を出て行った理由は知っていた。
自分一人だけ蚊帳の外。
何ものけ者にされていたんじゃない。本当の事を知るに花子はまだ幼かったから…。
不器用な男家族たち。
母の遺骨はフェリーから海に撒かれた。
そのフェリーは家族との思い出。
フェリーに乗りに、久々に家族で出掛ける。
その間もずっと、花子はカメラを回し続ける。
携帯を解約しようとするが、担当店員が事務的な対応で解約出来ず。マニュアル通りとは言え苛々募るが、お母さんがきっと望んでいるんだ。
夕食は馴染みの海鮮料理店へ。店主は一人暮らしの父を常々気に掛け、ある恩義があった。
父の傷害事件の真相。店主の娘が男に弄ばれ、自殺。店主に代わり、父が殴って敵を取ってくれた。
それで父は自暴自棄になってしまい、母は出て行った。
またしてもここで、知らなかった真実。暴行は罪だけど、誰かの為にした事。ホント、不器用。
近くの席からクズ男たちの不愉快な話。父の傷害事件を彷彿させる話の内容。ぐっと堪えて店を出るが、あ~やっぱりダメだ。家族全員で行こうとするが、誠一が背負って立つ。
またこの時、父のもう一つの秘密が明かされる。子供たちに話したかった事。
胃ガンで余命一年…。
家に帰り、ビール乾杯で打ち上げ。
あのピリピリ険悪ムードはもう無い。
真実やそこにある真意を知って…。
何だかんだ言っても家族。何か色々あっても家族。
うんざりするほど。でも、どうしようもなく。
突然の停電。後から気付いたが、その暗闇の中で○○してた。
一年後、再び家族が集う。
一年前は花子のきっかけと亡き母が呼んだが、今回は…。
まだ映画を完成させていない花子。
タイトルを変えようかと。“消えた女”から“消えない男”に。
だって、ずっといる。今も。弔う為に家族がまた集ったこの場にも。
このシーン、ジ~ンと来たなぁ…。
訳あり家族の話が、普遍的な家族愛の話へ。
世の中、意味ある事や意味ない事も。
突発的に、脈絡ももなく、あり得ない事だらけ。
でも、それらを全て、ハグする。
それが人生だ。家族だ。映画だ。
だから稲妻のように鮮烈で、面白く、愛おしい。