「20代後半の折村花子(松岡茉優)は映画監督デビューを目指して、日々...」愛にイナズマ りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
20代後半の折村花子(松岡茉優)は映画監督デビューを目指して、日々...
20代後半の折村花子(松岡茉優)は映画監督デビューを目指して、日々シナリオハンティング。
シナリオの中核は、幼い時分に家族を棄てて家を出た母親のことなのだが、シナリオに深みを持たせたりできるような題材を探して、一眼レフ・カメラでムービー撮影している。
気になるのは「赤いもの」。
なぜ惹かれるのかはわからない。
ま、理由なんてないのかもしれない。
そんなある日、ビル屋上から飛び降りようとしている青年を発見。
建物下には野次馬が集まり、そのなかでひとりの中年男性が「はやく飛び降りろよぉ」と声を上げた。
直後、青年は警察官に説得されて、飛び降りを中止。
周囲からは落胆めいた声があちこちから聞こえてきた。
それをシナリオに書いてプロデューサーと助監督(三浦貴大)にみせたが、助監督からは「飛び降りの場面で、こんなひとがいるなんて理解できない。どういう意味があるんですか。書いた理由はなんですか」と詰問される。
花子にとって、意味や理由はわからない、ないのが当然なのだから答えられない・・・
といったところから始まる物語。
するうち、花子はひとりの青年(窪田正孝)と出逢う。
青年は館正夫といい、空気が読めず、周囲から浮いている、そんな人物だった。
花子と正夫は気が合ったが、恋愛に発展するようで発展しない。
そのうち、花子は準備中の映画製作から降ろされてしまう。
プロデューサーからの一方的な仕打ちで、後釜は件の「理由・意味」を問う助監督だった。
自分自身の物語を盗まれたような気がした花子は、正夫とともに独自に映画製作を続けることを決意し、ばらばらになった兄ふたり(池松壮亮、若葉竜也)を呼び寄せ、故郷へ戻って、父(佐藤浩市)を含めて、家族だけでドキュメンタリーめいた映画を撮り続ける。
母親から見捨てられた父親、そんな父親を見捨てたような子ども三人・・・
というのが後半。
個人的には、前半がすこぶる面白かった。
「理由」や「意味」などに頓着しない、そんな花子の自己肯定が興味深かった。
理由や意味は、世間が勝手に創出しているだけの幻想ではないのか。
「普通」だとか「常識」だとか、大多数が抱いているだけの「幻想」に縛り付けるための言い訳に過ぎないのではないか。
それに気づかせるために遣わしたのが、正夫という青年なのではないか。
彼は一種の天使のような存在ではないだろうか。
なにせ、花子が正夫と出逢うバーのマスターは『アジアの天使』の天使のひと(芹澤興人)なのだから。
なんて思いながら観進めていくと、後半にはいって映画は、前半で花子が唾棄していていた助監督が言っていた「理由」や「意味」が明らかになっていく。
花子が赤が好きな理由、花子の部屋の蛍光灯のスイッチ紐に恐竜のソフビが下げられていた理由、父親が自堕落になった理由・・・などなど。
あらま、びっくり。
父親、別に自堕落だっただけでいいんじゃないの。
見直さなくてもいいんじゃないの。
家族の絆、取り戻さなくてもいいんじゃないの。
ま、そんな映画だと、企画自体が通ることないのは百も承知なんだけど。
なんてことを思ったわけで。
脚本・監督は石井裕也。