「リアルとリアリティー」愛にイナズマ 横浜太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
リアルとリアリティー
仕事が予想以上に早く終わったため、ちょうど良い時間帯の映画を探して遭遇した本作。
全体としては、否定的な意見の方と近い感想で、前半部の嫌なキャラ&展開にイライラさせられて本作を選んだことを後悔しかけるも、佐藤浩市さんの出
番が増えてくるあたりから持ち直し、なんとか最後まで見届けられた……という印象でした。
恥ずかしながら、石井監督の作品は初体験だったので、偉そうなことはまったく言えませんが、合う・合わないで言うと合わなかったです……。
(俳優の皆さんの演技は最高でした!)
しかし、不思議と視聴後にも複雑な後味が残る作品だったのも確かで、いろいろと場面を反芻して考えたくなる内容でもありました。
個人的に、どうも落ち着かなかったのは、冒頭、主人公が「だって私、見たんです」と話す、飛び降り自殺を煽る野次馬の下り。これを見て以降、各所に登場する「え? こんなやついる?」というステレオタイプに感じられてしまう脇役を見るたび、「だって私、見たんです」と監督に言われているような気がしてしまい、それが妙な雑音になってしまった感は否めません……。
確かに、現実になさそうな出来事が、現実に起こることってあると思います。それが、きっとリアルでしょう。
ただ、そのリアルをそのまま映像で突き詰めるのであれば、それはノンフィクション、ドキュメンタリーの領域になるのかな……と思ったり。
(もちろん、それでも、そのまま映像にはできないのだと思うのですが……)
作品をフィクションとして世に出すならば、ただ「私、見たんです」と強弁するのではなく、視聴者が「あ、これは確かにあるかも」というリアリティを持たせてあげることが、やっぱり必要なのではないかと。。
でも、そんなことを思えば思うほど、あのクソいまいましい助監督に加勢をしているようで、またなんかモヤモヤしてしまったり……。
(演じた三浦貴大さんはすばらしかったです!!)
物語後半の、オレオレ詐欺の主犯格グループに対し、いきなり喧嘩をふっかける家族って、そこだけを抜き出せば「そんなやついないだろ」という話なんですが、鑑賞中は「ん?」と思ったものの、そこまでの抵抗感は感じなかったので、やはり、そこに至る経緯を自分が知っているかどうか=作中で描かれているかどうか、が大事なんだなと。。。
もしかしたら、飛び降り自殺を煽る野次馬も、秘書の親族を人前で侮辱する社長も、必死に解約をお願いする老父と家族を前に笑いをこらえる受付スタッフも、大声で悪事を暴露するオレオレ詐欺の主犯格グループも、映像になっていないだけで、そうせざるを得ない事情があったのかもしれない。
ただ、それが描かれていないだけ。
そしてきっと、そこが自分にとって、物語にスッと入れるかどうかの分かれ道なのかな……とも。。
もしくは、非常にリアル寄りの背景や映像の質感の中に、突然、ステレオタイプ感の強い人物が登場することで、自分のリアリティーラインがぐらぐら揺れて気持ち悪かったのかもしれません。
(これが、映画の冒頭でいきなりオレオレ詐欺グループと家族の大立ち回りから始まって、そこから時間を過去に戻していく……みたいな作品だったら、そこまでリアリティーラインは気にならなかったのかも。別の作品になっちゃいますが……)
そういった意味で、映画を観る、フィクションを楽しむ際の、自分自身の好みがあらわになる、そんな面白い機会になったとも言えるかもしれません。
出演陣は豪華ですし、演技も魅力的。
前半と後半で作品ががらっと変わり、前半部の溜飲を後半部で下げてくれることはなく、なんとなく「私の冒険はこれからだぜ!」的な終わり方ではありましたが、最後は温かい気持ちになれる作品。
前半の嫌な気分は二度と味わいたくないので、もう一度観ることはないと思いますが、これからしばらく、ふとしたタイミングで思い出しそうな、そんな作品ではあったかなと思います。
どこかで吐き出さないと気持ちが悪かったため、駄文をつらねてしまいましたが、万が一、最後まで読んでくださった方がおられましたら、本当にすみません。。そして、ありがとうございました!!