「映画二本分の面白さは味わえるが、カタルシスがないのは物足りない」愛にイナズマ tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
映画二本分の面白さは味わえるが、カタルシスがないのは物足りない
いくつかのチャプターには別れているものの、話としては、主人公が映画監督として挫折する前半と、その主人公が自分の家族で映画を撮ろうとする後半の、明確な二部構成となっている。
話のトーンも、主人公が自分を押し殺して映画を撮ろうとする前半は、息が詰まりそうな重苦しさが感じられ、家族が本音でぶつかり合う様子を撮影しようとする後半は、開放的でドタバタ喜劇のような面白さがある。
内容的にも、映画の話に限らず、前半は、生きることに不器用な男女が、ふとしたことで知り合い、関係を深めていくラブ・ストーリーになっていて、後半は、バラバラだった家族が久しぶりに集まり、母の失踪の理由や父の余命を知ることで、再び絆を取り戻していくという家族の話になっている。
主人公の兄役の池松壮亮や若葉竜也が、後半になって初めて登場するところも含めて、前半と後半が、まったく別の2本の映画のように感じられるのである。
ただ、だからといって、前半と後半とで、話の辻褄が合わなかったり、流れに違和感を感じたりといったことはなく、むしろ「一粒で二度美味しい」的な楽しさを味わうことができた。
その一方で、後半の家族の物語は、みんなでハグをしていたことが明らかになるところで、一つの結末を迎えるのであるが、前半の、自分で映画を撮って富と名声を得るという主人公の夢は、最後まで達成されずじまいで、不完全燃焼な感じが残る。
ここは、やはり、家族を題材にした映画で主人公が成功を収め、いけ好かないプロデューサーと助監督にギャフンと言わせて欲しかったと思えるのである。
更に言えば、オレオレ詐欺の闇バイトの話をしていた食堂の客に殴り込みをかけるくだりは、もっとしっかりと顛末を描いて欲しかったし、あの程度の中途半端な描き方しかできないのであれば、それこそ「カット」してしまった方が良かったのではないかと思う。
そもそも、殴り込む以前に、彼らの会話を録音して、警察に通報する方が先なのではないか?
母の携帯電話を解約しようとする時の店での騒動にしても、どう見ても、父や兄より店員の理屈の方が通っているように思えてならない。
監督が意図した「笑い」に心地よく乗ることができない自分に、主人公が助監督に対して抱いたような価値観の違いと、居心地の悪さを感じてしまうのである。
いずれにしても、ラストに、ドタバタを締めくくるようなスカッとしたカタルシスが感じられなかったのは、やはり物足りなかったし、残念だった。