劇場公開日 2023年9月29日

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「日本では現代朝鮮史をほぼ扱わないので理解が難しい…。」ハント yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0日本では現代朝鮮史をほぼ扱わないので理解が難しい…。

2023年10月1日
PCから投稿

今年336本目(合計986本目/今月(2023年10月度)1本目)。
(参考)前期214本目(合計865本目/今月(2023年6月度まで))

 韓国映画といえばシネマート、ということで1か月ぶりくらいに行ってきました。とはいえ、結構な数の映画館で放映はされているようです。

 結局タイトルに尽きる点があり、韓国映画といえば恋愛ものだったりアクションものだったりするものが多いですが、南北統一というテーマがリアル韓国(および、北朝鮮、便宜上、国扱い。以下すべて同じ)において残っているものであり、それを扱う映画もあります(「コンフィデンシャル~」も同じ枠とはいえる)が、扱う内容は日本では世界史になるところ、現代史については朝鮮史に限らず教科書ではカリキュラムの関係で「時間切れ」になることが多く知らない方も一定数おり(これは「高校3年3学期」が事実上存在しない、という実際の問題で、センター試験にせよ国公立・私学の2次試験でもこの点は配慮される)、かつ、その部分をモロについてくる展開になるのが厳しいところです。

 以下、在日韓国・朝鮮人の方が多く住む地域にいる、行政書士の資格持ちという立場からの採点になります。映画の理科の一助になれば幸いです。
なお、以下においては、「映画の理解の助けになること」を述べるものであり、特定の思想や立場を押し付けるものではないことは明確にしておきます。

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 (減点0.6/日本において視聴するにはかなりの知識を要する、韓国国内において特殊な事情を扱う割にフォローが少なく「特定の層」に怒りが生じうる)

 まず、この映画は「1980年代に起きた出来事に着想を得たフィクションです」と登場しますが、明確に「光州事件」(1980年5月18日~)が念頭に置かれています(「光州」と「5月18日」だけはなぜか出てくる)。

 また「チョルラナムド(全羅南道)が何とか」「アカが何とか」がかなりの方が詰まるのでは…というところです。以下、復習や予習もかねて近現代史に触れていきます。

 日本が敗戦を迎えると、それまで支配されていた朝鮮半島は「とりあえず」落ち着きましたが、やがて新しい国を作る作らないという考え方で対立が発生しました。また、統治時代に(当時の朝鮮半島にも一部修正適用されていた)治安維持法で「反共」であった点は日本と共通していたこと、また日本による統治時代が終わると、逆に朝鮮半島自体がソ連(当時)、中国と共産主義国家に囲まれていたため、再び「反共」の考え方を取ることになります。しかしそもそも「政治思想」について上下関係はそもそも存在するものではありません。

 当時の反共製作はすさまじいものがあり、済州島事件(1948年4月3日)、麗水・順天(れいすい・じゅんてん~)事件(10月19日)と「アカ狩り」という名のもとに無関係な人まで多くの方が犠牲になり、これらの度を越した行為に対して仕方なく逃げ込んできた人達が一定数日本にいます。日本の鶴橋はまさにそれに当たります。またこれらの事件から結局思想の対立が激化し、朝鮮戦争に繋がっています。

 ※ 大阪市にあるコリアタウンの鶴橋は、済州島と麗水・順天出身の方で大半を占めます。

 日本では「アカ」といえば「共産主義者」を指すか、それをののしる語程度にしか使いませんが、韓国では「悪魔」といった意味まで含みうる語です。そしてこれらの地域がちょうどチョルラナムド(全羅南道)で起きたため(済州島は当時。現在では特別区扱いだが、この事件当時がそうであったため、文脈によっては含む場合がある)、「アカばかりが住んでいる」などといわれのない差別を受けた時期があり、現在では当事者への補償などはじまったばかりで(2022年成立。ただし、コロナ事情もありなかなか進んでいない)、この映画は「ストーリーは架空です」といいつつ、扱っている内容が「特段意味もなく特定の地域に対する差別の実態」を扱っているところがあり、「架空なのか架空ではないのか不明」「当事者に対する配慮が足りない」「日本においては当事者(3世など)が見ることも想定できるが、配慮が明確に足りない」といった部分はどうしても指摘せざるを得ないところがあります。

 実際、日本の鶴橋におられる2世、3世の方も、「現在でも」(2022~2023年でも)差別意識が残っている現状では現地にはとても帰れない(ちなみに、現在(2023年)でも、これら現地地域では一部立ち入り禁止の区域があります。白骨化したものが埋まっている可能性等が否定できないため。被害の全容すらいまだに解明されていないありさま)という事情があり、また本来「思想良心の自由として立ち入るべきものではない」「政治思想がどうこう」といったことで差別されかた方がいらっしゃることはこれは紛れもない事実で、「本作品はフィクションです」等で逃げて何も描かないのはどうなのか…(少なくとも光州は明示的に単語が出るが…)といったところで、鶴橋などこれらの事件で渡ってきた当事者の方からすれば「どうでもいいからちゃんと名誉回復せよ」であり、それを映画で娯楽として扱うことには(私は日本人ではありますが、大阪市に住んでいる、外国人問題を扱うのがメインの行政書士の資格持ちの立場からは)、かなりの違和感を感じます。

 (減点0.2/暗号解読について)

 韓国、北朝鮮においては、日本語でいう「ひらがな表」にあたるもの(専門用語では反切(はんせつ~)表という)は違いますので、北朝鮮語(便宜上の名称。正しくは「文化語」などという)との直接の解読はできません(以下も参照)。

 (減点0.2/日本が出てくるシーンに配慮が足りない)

 日本では、いわゆる「帰国事業」を国を挙げて行った割にたいした成果も得られないどころか、ここで多くの人が密入国しています。そして、これが日本における拉致問題を引き超すことになります(何らかの方法で入国してスパイ的活動をする人を、専門用語で「土台(どだい~)人」といいます。日本では1980~90年代ではラジオが24時間放送ではなく、ラジオ(NHKでも何でも)が終わると、「どこぞの国の暗号放送」が流れていましたが、それは「想定受信者がきわめて狭い」という事情です(よって、韓国語と北朝鮮語(文化語)が違うため、例えば鶴橋の韓国の方がそれを聞き取っても(乱数表を手に入れたとしても)「言語が違うので」「どうしようもできない」(何とか類推できる程度にしかならない)が正しい)。

 なお、いわゆる「拉致問題」は日本では日本のことが多く報じられますが、韓国、中国、ロシア(旧ソ連)をはじめとした他の国にも存在します。

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 ※ 麗水(ヨス):人口30万人ほど。島が非常に多くあることで知られ、「韓国で海産を食べたいならここ」といった立ち位置。日本ではおよそ長崎県のようなイメージ。
 ※ 順天(スンチョン):人口25万人ほど。古い時代のお寺や庭園が多く残っており、「古い時代の建造物などを見たいならここ」といった立ち位置。日本ではおよそ京都・奈良のようなイメージ。

 ※ この2つは隣接しています(「麗水・順天事件」の表記からも明らか)。よって、韓国においてこの地域の観光旅行パックは一般に2都市を含んで紹介されることが一般的です(1日で2都市回れます。列車でも3駅しか離れていない)。

yukispica