「ミュージシャン群像が魅力的。そしてキリエを演ずるアイナ・ジ・エンドのハスキーな唄声が心を震わせる。」キリエのうた Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
ミュージシャン群像が魅力的。そしてキリエを演ずるアイナ・ジ・エンドのハスキーな唄声が心を震わせる。
岩井俊二 原作・脚本・監督による2023年製作(178分/G)の日本映画。
配給:東映、劇場公開日:2023年10月13日
岩井俊ニがこの映画で何を意図していたかは、正直なところ良く分からなかった。けれど、見終わった後、上手く言語化し難いが、なんかいいな、好みの映画だなとの気持ちは覚えた。
孤独な存在であったアイナ・ジ・エンド・希(キリエ)/路花(ルカ)と広瀬すず・逸子/真緒里の心の触れ合いや路花と松村北斗・夏彦の擬似的な家族愛に、自分は共鳴したのだろうか。それとも10年以上の時の流れを超えて存在した友愛的なものの表現に、強く惹かれたのだろうか。いずれにせよ、「ラストレター」でかなり嫌いになっていた岩井俊ニ監督の評価は、再度上昇した。
キリエ・路花姉妹と夏彦の物語に東日本大震災を真正面から絡めて来たのには、感心させられた。津波映像こそ無かったが、地震後の津波が悲劇的壊滅的であったことを知っているだけに、お姉さんが地震後に町を動き回るストーリー展開に、ドキドキとさせられてしまった。監督の分身らしい松村北斗・夏彦が過去を泣きじゃくって語る演技には、少々ウンザリしたのだが。
挿入されてくる音楽のセレクトには感心させられた。特に、安藤裕子による「帰れない二人」と大塚愛による「FUN」のお洒落な歌声には、井上陽水ファンとしてはぐっと来るものがあった。音楽監督小林武史の貢献が大ということか。
そして、元BiSHの歌手アイナ・ジ・エンドという存在を、恥ずかしながら初めて知った。普通には話せないストリート・ミュージシャンを意識した声の出し方は、相当にあざといとも思ったが、彼女のハスキーがかった楽器の様にも思える唄声に、すっかりと魅了されてしまった。彼女自身の演奏かどうかは不明だが、クラシックギターのリズミカルな音色も、とても良かった。彼女自身作曲作詞のオリジナル曲が6つも本映画に提供されたとのことにも、随分と驚かされた。彼女にキリエ(ギリシャ語で“主よ”)或いはルカ(ドイツ語圏で”光を もたらす者“を意味)と名付ける岩井監督の想いの強さに応えたのだろうか。
ただ、二役を演じ分け、セーラー服の高校生が今だ良く似合う広瀬すず・真緒里は驚異的と思いつつ、結婚詐欺師で元カレや婚約相手の家を渡り歩く一条逸子というキャラクター設定には、無理くり感を覚えてしまった。女を前面に出して生きている母親の様にはなりたく無いと語って、勉強し大学合格を果たした意思は何処に消えてしまったのか?その理由を明らかにせず、結局母親の血筋のせいにしているようで救いが無い嫌なものを感じてしまった。
岩井監督が元ストリート・ミュージシャンでもある歌手アイナ・ジ・エンドという魅力的な素材から音楽に夢中になって、他の部分はおざなりになってしまったのだろうか。実際、アイナの演奏仲間のミュージシャンを演じた村上虹郎や粗品、ギターを弾く松村も含めて、音楽をやる連中の魅力は、眩しく感じさせられた。
監督岩井俊二、原作岩井俊二、脚本岩井俊二、企画紀伊宗之、プロデュース紀伊宗之、音楽
小林武史、主題歌Kyrie。
出演
アイナ・ジ・エンドキリエ(路花)、松村北斗潮見夏彦、黒木華寺石風美、広瀬すず一条逸子(真緒里)、村上虹郎風琴、松浦祐也波田目新平、笠原秀幸松坂珈琲、粗品日高山茶花、矢山花イワン、七尾旅人御手洗礼、ロバート・キャンベルマーク・カレン、大塚愛小塚呼子、安藤裕子沖津亜美、鈴木慶一、水越けいこ、江口洋介潮見加寿彦、吉瀬美智子潮見真砂美、樋口真嗣潮見崇、奥菜恵広澤楠美、浅田美代子広澤明美、石井竜也横井啓治、豊原功補イッコの元恋人、松本まりかイッコの元恋人のガールフレンド、北村有起哉根岸凡、武尊武尊。