「【”私も結婚の時にあの青いカフタンを来たかったわ。”とカフタン職人の妻は言った。”モロッコの伝統工芸カフタンの仕立て屋の夫婦愛。そして、仕立て屋の夫と若き職人の秘めた性癖を静謐なトーンで描いた作品。】」青いカフタンの仕立て屋 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”私も結婚の時にあの青いカフタンを来たかったわ。”とカフタン職人の妻は言った。”モロッコの伝統工芸カフタンの仕立て屋の夫婦愛。そして、仕立て屋の夫と若き職人の秘めた性癖を静謐なトーンで描いた作品。】
ー カフタンを手縫いで縫う職人ハリムの丁寧な仕事ぶり。それを賞賛の眼で見る気の強い妻ミナ。そして、若き職人で筋の良いユーセフ。
職人がシルク地に金糸で刺繍して行く姿をクローズアップで映し出してくれるだけで、モノ作りの好きな私は魅入ってしまった作品である。-
◆感想<Caution ! 内容に触れています。>
・カフタンの仕立て屋の夫婦は、お客に対しても一切妥協しない。お金を積んで、他の人のカフタンを欲しいという客には、とっとと帰って貰い、”納期を速く!”とせかす客にも”手縫いですから。”と言っている。
ー ハリムは、ミシンを使わない。全て手縫いである。一刺し一刺し、気合を込めてけれど丁寧に金糸をシルク地に刺繍して行く。そんな夫の作業を誇らしげに観る、病気がちのミナ。-
・ハリムとミナは同じベッドに寝ているが、肌をお互いに触るだけ。けれども、それで二人の絆は繋がっているのである。二人の間には子は居ない・・。
ー 後半のワンシーンでミナの病気が分かる。乳癌だったのである。多分、癌が全身に転移しているのであろう。
これは私の推測だがハリムは妻の健康を気にやり、性交渉をせず、公衆浴場の個室で男色に耽っているのであろう。但し、猥雑なシーンは一切描かれない。ー
・ユーセフも又、丁寧な仕事で信頼を得ているが、ミナが病に臥せっている時に、ハリムに言い寄る。だが、ハリムはそれを受け付けず、彼を店から追放する。
ー ユーセフは、男前だが明らかに同性愛者である。ミナが”直ぐに辞めるわよ”と言っている中、彼の手先はしなやかにシルク地に金糸をさして行くのである。-
・ミナが倒れ、店を閉めていた際に、心配したユーセフがやって来る。そして、ハリムは何もなかったかのように、彼を家に入れるのである。
ー これも、私の勝手な解釈だが、ミナはハリムが同性愛者であると分かっていたのだと思う。故にハリムが涙を流しながらその事実を告げた時も、優しく微笑んでいるのである。
そして、ユーセフは二人の為に、美味しそうなタジン料理を作る。
まるで家族の様な3人の姿。品性あり、人間性溢れるシーンが続く。ー
■白眉のシーン
・ミナが亡くなった時に、ハリムが取った行動。それは、妻の遺体を覆っていた白布を外し、美しき青いカフタンを着せ、ユーセフと共に墓まで運ぶシーンであろう。
哀しいが実に美しいシーンである。
ハリムがミナの想いを汲んだが故に取った行動であろう。
<今作は、とても静謐な品性高き作品である。そして描かれる二組の恋もスムーズに観る側に入ってくる逸品なのである。>
<2023年8月5日 刈谷日劇にて鑑賞>