「だからカンヌ作品は観逃せない」青いカフタンの仕立て屋 TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)
だからカンヌ作品は観逃せない
私が現在のように映画鑑賞を「趣味」にしたのは2014年くらいからです。当時はまだ監督はおろか、俳優すら知識が殆どなく、海外の映画を観ていて「キャストの見分けがついてない」ことすらありました。それが徐々に認識して名前を覚え、興味を持ち、調べるようになると映画のデータベースやレビューサイトにもアクセスするようになり、ジャンルだけでなく、製作国などにも興味の幅が広がって、行き着けば映画祭・映画賞の受賞作品などに触れる機会が増えてきます。
ただ、その中でも「カンヌ」にはしばらく苦手意識があった気がします。おそらくそれは、観慣れない国が舞台のことが多く、言葉・文化・宗教など多くの解らないことに触れて「自分レベル」と卑下するふりをして逃げていたのだと思います。ところが、慣れてくると「知らない世界」を観られる楽しみに気づいたり、解らないと思っていた先入観を捨てるだけで、映画の中の登場人物が自分と同じようなことを悩んだり、幸せだと思っていることに共感でき、そして喜びを感じることが出来ます。
今作の舞台はモロッコ。モロッコは大西洋と地中海に面した北アフリカの国で、ベルベル文化、アラブ文化、ヨーロッパ文化が融合していることで有名です。(ただ、観ている最中は正直途中までトルコかどこか?と思っていましたw)そして、題名にもある「カフタン」とはゆったりとした丈の長い衣服のことで、 近東諸国やイスラム文化圏で着用されていた民族衣装に由来します。
モロッコで結婚式衣装としても用いられるような「複雑で美しい手刺繍」を施したカフタンドレスの仕立て屋を営む夫婦ハリムとミナ。最初のうちは観ていて二人にやや「とっつきにくさ」を感じますが、そう感じるのは二人ともに言葉数が少ないから。ただ、観ているうちに気づくのは、二人ともしゃべらずとも目は雄弁に語っていて、お互いが敢えて言葉にしないだけで相手を強く想っていることが感じられます。さらに、二人の店に使用人として関わりはじめるユーセフがまた真面目さ、誠実さ、優しさなどが強く感じられる人物で、その魅力に強く惹かれる気持ちが解ります。
反面、特にミナの「議論さながらの接客」は、彼女の負けず嫌いさを感じ、観進めて後半における「彼女が闘ってきたもの」と「乗り越えて赦してきたもの」を知ることで、なるほどと頷けます。特に彼女の華奢な背中、そしてその「背中を向ける意味」に驚愕するのです。
そして、後半から最後の展開にみるハリムの行動は「そうなるだろう」と思って観ていますが、改めて魅せられるミナの美しさと、ハリムの決意の顔が忘れられません。
以前は解らなかったカンヌも、今はある程度多くの映画を観てそれなりに理解できるようになると、若干通ぶってるかもしれませんが「だからカンヌ作品は観逃せない」と思ってしまいます。心洗われます。