「思春期を迎えようとする少年の心の揺らぎを描いた物語には間違いないが…、と言葉に詰まってしまう一作」ファルコン・レイク yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
思春期を迎えようとする少年の心の揺らぎを描いた物語には間違いないが…、と言葉に詰まってしまう一作
本作の、ざらついた16ミリフィルムの質感と、明度をぎりぎりまで絞り込んだ独特の画調は、省略表現と余白を基調とした原作のバンド・デシネ(フランス語圏で流通している漫画文化)、『年上のひと』(バスティアン・ヴィヴェス作)とは大きく異なった雰囲気を醸し出しており、紛れもなく本作が、原作の映画化作品ではなく、シャルロット・ル・ボン監督の作品であることを示しています。
カナダの風景は美しく、主人公のバスティアン(ジョゼフ・アンジェル)とクロエ(サラ・モンプチ)だけでなく彼らの家族も、さらには湖の避暑地に集う他の人々も、どこか自由人のような雰囲気を漂わせています。
バスティアンとクロエの交流は、どこか幼く、どこか危うげ。長い人生から見たらほんの束の間でしかない端境期の記憶を、永久に心に留めるべきなのか、それともそこから早く抜け出て次に進むべきなのか。本作は結末において、強い衝撃と共に問いかけてきます。彼らのうたかたのような日々にわずかな陰を投げかける「あるもの」は、その問いの先にあるものを意味しているようにも受け取れます。
結末を見届けた後に、作中、バスティアンとクロエがある行動をした直後、バスティアンが見せる非常に無邪気な笑顔を思い出すと、その屈託のなさが、どうしようもなく心をざわつかせる。そんな物語でした。
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