PERFECT DAYSのレビュー・感想・評価
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今度は今度。今は今。
感想
久しぶりに
ヴェンダースの国際興行作品を鑑賞した。やはり、監督はモノクロームの映像表現が秀逸であるのだという事を再認識させられた。
但し、今回は現代日本と日本人が主人公なので色彩美や、個性的な建築群、また東京の風景を表現するには鮮やかさが不可欠であり、旅という視点からも印象的となるカラーを選択したのだろう。
だか、監督において、事の発想と映像化の基本路線はモノクロームが主体でありまた、テーマは様々な世界で生きている多様な人そのものであり、人間模様を旅として表現している事は首尾一貫している。
監督の変わらない視点にいつのどの時代の作品も感動を与えられた。今回も人間模様の旅をしている雰囲気を充分に感じることができた。
また、アジアにしか生息していない銀杏や楓の木漏れ日を主人公は好んで白黒写真に収めており、光と影の描写が、作品のいたるところに表現されていてとても感動した。
『自由』の表現と捉え方
『さすらい』ではヒッピームーブメントの名残りとモラトリアム的自由の表現が主体であったと思う。
『ベルリン天使の詩』で全ての、あらゆる、天上界、人間界を含むあらゆる世界で生きる人々が想う『自由』を映像表現し、時に世界を複雑化させる原因が『自由』である事を考えさせられた。思考も表現も成長してそれぞれの立場、世界が理解できるようになったのだ。
今回の映画では日本人が基本的に持ち合わせている信念の中にある、単なる勝手な『自由』ではない、規律を持ち合わせた『自由』をよく表現している。
多くを語らず信念を持ち、規律を苦とせず、持ち合わせて自分なりの『自由』を謳歌している主人公。
彼の生き方はむしろ時代遅れの感が如実に出ているが、ここには監督なりの人生觀のような、『生き方を常に新しくしなくても良い。温故知新の文明で人は充分に事が足り、むしろ変えなくて良いのだ。』という信仰の様な、敬虔とも言える信念を感じる。
日本人の中には新し物好きで、常に革新を求めて動くという世界観を持った人達が少なからずいて、その様な人達が現代の東京を創った。
その人達の事もリスペクトしながら、監督は温故知新を大切にする日本人も、多いのだという事を今回の作品で教えてくれたような気がする。
よく日本人を理解してなければ、ここまでの映像表現はできない。勿論、役所さんの名演も含めて。
当たり前のように今を生きることがいかに大切な事で、世界でも貴重な事であることが簡単に理解できる。というところで、
⭐️5
2023年度 新作自己最高評価となった。
目に入っても目に止まらない、知らない世界から
世界のあり方が変わったコロナ禍を経験した私たちにならわかる"現代人が忘れがちなもの"を大事に大事に拾い集めるような2020年代の人生讃歌
今度は今度、今は今…何も変わんないなんて、そんなバカな話ないですよ!例えば音楽をカセットで聴いたり、古本屋で買った本を読んだり、いつきけのお店で飲んだり、仕事終わり銭湯に行ったり -- 都度一つ一つのことに時間を使っては(自分は割と"ながら"で並行しがち) -- そんな何気ない日常の大切さをふと思い出させられる。
一周回って"エモい"と"クサい"=(思ったより)いかにも普通の劇映画っぽさを交えつつ懐かしさと新鮮さ、温故知新に我々が忘れてしまったもの。一日一日、一瞬一瞬を大事に生きると生き生きと色づき始める世界。見慣れた景色も途端に変わってくる。目を向け、耳を傾けると見えてくるものをトイレ清掃員の平山が教えてくれる。忙しない現代社会から切り離された、規則正しい生活を送る平山。一見同じ日々、そのくりかえしの中にも差異を伴う反復があって、役所広司さんの(なかなか一言目を発さないセリフの少ない)完璧な演技と佇まいがその機微を掬い取るよう。毎朝、家を出た瞬間に空を見上げる表情や、スカイツリーを見上げる仕草、昼休憩のときに写真を撮る様子、そのどれもが愛しい。
その中でも飽きさせない作り・仕掛けもあって、笑えることもあったけど、そうした海外の人から見た"らしさ"こそ、むしろこういう作品の成り立ちそのもので存在意義とも感じる。中でもルー・リード、パティ・スミス、ヴァン・モリソン…など、朝焼けと名盤カセットの相性の良さ。個人的にも好きなラインナップで、音楽の趣味が最高にツボ・ハマる主人公。従来のヴィム・ヴェンダース作品同様、鼻につく人もいると思うけど、ただ本作の"なんちゃって日本"が鳴りを潜めて、私たちの知る日常風景の中で淡々と、そして丁寧かつ繊細に紡がれるドラマは詩的で情緒豊か、かつ静かに胸を打つものがあった。しっかりとした組み立て・構成があるから、途中少し脇道に逸れたように感じられても、それもまた人生だなと思えるように、最後には感情が溢れてくる。
欲やいっときの感情に踊らされるのでなく、自分ももっとちゃんと生きたいなと。柄本時生の役柄にムカついたけど、そんな感情もまたくだらない。田中泯さんには無論踊らせる。今この一瞬あなたは本当に"生きてる"と胸を張って言えますか?
The Tokyo Toilet
おつかれさん!
木漏れ日
勝手に関連作品『すばらしき世界』『ベルリン・天使の詩』
さすが役所広司さん
ミニマルな中のちょっとした悲しみとささやかな幸せ
おじさんたちの心優しさと、さり気ない繋がりが微笑ましい。
常連同士のアイコンタクトがある生活空間が懐かしい。
外国人監督には微細な日本人の心を写し出すのは難しいだろうことが見える。
何といっても役所さんの顔がデカい!
あの派手で彫りの深い顔は外人だわ。
しかも、カメラがより過ぎだなぁ
そして全ての所作に日本的ミニマリストしての心在らずで忙しない。
唯一楽しめたのは、
三浦友和と影を重ねると濃くなるのか?
の問いに、
西洋絵画と日本画と墨絵の謎々を影踏みで戯れたところは愉快だった。
ならば、
肝心の木漏れ日や早朝の空気、
朝日に雲間の陽光のいい情景があってもいいようだが、
ターナー以下の景色しか映し出せないのは残念だ。
そして、あのカセットテープで昭和アナログを懐かしむのは良いが、
選曲と音量バランスが映像を更に酸化するようで、
なくてもいいのではない?
それに、
モノクロで映写した方が良かったのではないか!?
まあ、こんな不気味で違和感は、
全編に鎮座するあの新東京タワーと奇抜なトイレ群の奇妙さが時代の変遷を色濃く感じさせ象徴的ではあった。
何に充足を感じるかは、
野球と宗教は自由だと飲み屋のオヤジが怒鳴っていた。
敢えて言えば、
寡黙で大人しく、
兎小屋で盆栽いじりして、
薄ら笑いしている奇妙な日本人をよく撮っていた。
それで、平山さんは何をしでかして更生生活に入っているのだろうか?
( ̄∀ ̄)
PERFECT DAYS
「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」などで知られるドイツの名匠ビム・ベンダースが、
役所広司を主演に迎え、東京・渋谷を舞台にトイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いたドラマ。
2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、
役所が日本人俳優としては「誰も知らない」の柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞した。
東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。
淡々とした同じ毎日を繰り返しているようにみえるが、彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちている。
昔から聴き続けている音楽と、
休日のたびに買う古本の文庫を読むことが楽しみであり、
人生は風に揺れる木のようでもあった。
そして木が好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるかのように木々の写真を撮っていた。
そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、彼の過去に少しずつ光が当たっていく。
東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを、
世界的な建築家やクリエイターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に賛同したベンダースが、
東京、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描いた。
共演に新人・中野有紗のほか、田中泯、柄本時生、石川さゆり、三浦友和ら。
カンヌ国際映画祭では男優賞とあわせ、キリスト教関連の団体から、人間の内面を豊かに描いた作品に贈られるエキュメニカル審査員賞も受賞した。
日本がもっと好きになる、優しく、重い映画
眠くなるだろうなあと思いながら、とても、楽しみにしていた。
予想通り、途中までセリフがほぼない映画だが、役所広司の表情、動き、すべてが物語っており、ぐっと惹かれた。
そうそう、日常でそんなにたくさん、話さないことのほうが多い。
外を眺めてみたり、なんとなく音楽流したり、(理想的な)日常そのものであり、インタビューのないドキュメンタリーのようだった。
そして、もう一つのメインである、トイレ。
透明なトイレは話題になったが、東京にいながらこんな独特なトイレがたくさんあることを知らなかった。トイレを観ているだけで楽しい。
新しいものと古いもの、変わるものと変わらないもの。その象徴である浅草周辺という舞台で見事に描かれている。
日本人にとっては、というか都会に住んでいる人にとっては、ニコの母のように、「こんなところ」という感覚だった。下町を意識することも薄かったがこうしてみるととても魅力的だ。
これは海外の人から観たPR的な日本として描かれているのかもしれないが、再認識させられる。
細かい日常と話さない平山の対比として、個性的な登場人物たちがさらに印象的にうつる。どれもほっこりするキャラクターで、微笑ましく観られる。
しかし途中から、変わらないようにする平山に、様々な変化が外から訪れる。その不穏さと儚さにこちらまで心のバランスが乱れてくる。
トイレの清掃という、どこかで社会の影と捉えている、自分に対しても何かを語りかけられている気がする。
それがラストシーンへとつながっていく。
静かな映画だけど、じわっと、ずしっと心に届く、映画だった。
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〈追記〉
パンフレットや様々な批評を見てから、2回目鑑賞。
世界観、空気感は個人的には刺さっており、何回でも観たいのは間違いないのだが、やはり綺麗な面しか見せていない、というのはひっかかる。
トイレにもたくさんのお金が注ぎ込まれ、東京都による壮大なグローバルまちおこしの一環であるのは否めない。
トイレ清掃員という労働階級とを扱いながら、問題提起が足りないのもあるし、恵まれている自分が満足してしまっているのに認識させられる。
映画の社会性というのを今一度考えてしまう。
2023年劇場鑑賞113,118本目
ヴェンダースの青
朝、主人公が整える口髭は、中年サラリーマン役の笠智衆の口髭そのものだった。もうそこで私は笑いをこらえることができなかった!この後も沢山笑った。泣かせるより笑わせる方が難しい。これは笑わせてくれる映画でした!
小津安二郎ラブの監督だけあって、
赤を意識してるな~と楽しかった。主人公が好きなお菓子の本店は鎌倉、紙袋は赤で店の名前も!でもこの映画では赤よりも青だった。青が主人公の世界を表す色、静かで透明で光を映し出す水、空、風、青々とした木々の葉、仕事着も普段着も青。「青騎士」の作品、例えばフランツ・マルクの絵画のように心を落ち着かせてくれる色。
音楽もよかった。あまり詳しくないジャンル&時代の音楽だったけれど、最初にカセットテープから流れたのは娼館の歌だった。ドキッとした。
畳、布団、箒、縦縞の柄の湯飲みを映してワーイ!と嬉しくなっている(と勝手に自分が想像する;小津映画小僧の)監督の顔が目に浮かぶようだった。
監督はドイツ人、言語は日本語で出演者もロケ地も日本のこの映画は邦画?洋画?そんなのどっちでもいい、いろんな世界があってそれが重なると味わいが濃くなって面白くなるよ、というメッセージなのかな。
「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」は大好き。他作品は別に~、ですが見てよかったかな。とにかく役所広司はいい顔してます!
人生とはありふれた尊い日々の積み重ねである
トイレの清掃員である平山(役所広司)は、ごくありふれた同じような日常を送っていますが、特徴的なのが寝ている時に必ず挿入される映像です。不思議な感覚になり癒されますね。
木洩れ日のようなサブリミナル効果に似ている映像の中には、物語の先の内容を暗示している物が含まれています。
後半に2つほど出来事が起こりますが、時間というものは、自分が支配している時間と他人に支配されている時間があることに気づきます。
ありふれた日常でも自分が支配している時間は、その一瞬一瞬が特別な時間であり、後になってかけがえのない時間であることを実感しました。
平山は観葉植物を育てているように人生はありふれた日常の積み重ねなのだと思います。
観終わった後、久しぶりに大きな衝撃を受けました。
豊かさってなんだろう?
トイレの清掃員をしている一人暮らしの初老の男の、単調で質素な毎日が淡々と描かれる。
しかし、男は、そうした生活に不満を抱いたり、悲嘆したりするどころか、満ち足りた幸せな人生を送っているように見える。
しかも、そうした、余計なものが削ぎ落とされたミニマルな生き方に、知らず知らずに憧れを感じるようになっている自分に気付かされたりする。
ここで、改めて、「豊かさってなんだろう?」、「幸せってなんだろう?」ということを考えさせられる。
それは、日常の些細な出来事にも感動でき、「世界は美しい」、「人生は楽しい」と思える心の持ちようなのだろう。
朝、家を出て空を見上げる時の主人公の表情や、昼、神社の境内で木漏れ日を写真に収める時の主人公の様子や、夜、馴染みの居酒屋でチューハイを引っ掛け、銭湯で湯船につかる時の主人公の姿を見るにつけ、そう実感できるのである。
それにしても、主人公は、これまでどのような人生を送ってきて、どうして今の仕事をしているのだろうか?
苗木を育て、カセットテープでオールディーズの音楽を聞き、フィルムカメラで木漏れ日を撮影し、寝る前に単行本の文学を嗜む主人公の姿からは、豊かな感性と高い知性の持ち主であることが伺い知れるし、ラストの彼の泣き笑いの表情からは、様々なことを経験し、積み重ねてきた人生の年輪を感じ取ることができる。
実は、彼は、事業に失敗した実業家だったり、妻子を事故で亡くした大学教授だったり、刑期を終えて出所してきたインテリ・ヤクザだったりしたのではないかと、色々と想像を膨らませことができ、そういう点では、余白を楽しめる映画ではある。
ただし、キャラクターの掘り下げという点では、彼の過去について、もう少しヒントがあってもよかったのではないかとも思ってしまった。
泣けた 地元が舞台なので満点
作品中、1960~70年代のロックや日本のフォークソングが流れる。
そのうちの1曲、68年、オーティス・レディングが歌った「ドック・オブ・ザ・ベイ」。
今から37年前、今と同じく「無職」だった僕が車に乗りながら聞いていた歌である。
25歳の無職だった僕、62歳の無職である僕。37年の年月――。
泣けた、泣けた、泣けた。
今も、昔も、そこにあるのは「PERFECT DAYS」なのだ。
今、そしてあの時も。あの場、この場に居た僕。そしてあなた、見たこともない、彼ら彼女ら。
すべてが生きていることが、PERFECT DAYSなのだ。
そう思い、そう感じると、涙が出てきてしようがなかった。
カンヌで主演・役所広司が最優秀男優賞を受けてから、特報、予告編として流れるシーンで彼が自転車に乗る、それが、隅田川にかかる人道橋「桜橋」なのだ。
ここは、僕が住む自宅マンションから900メートル、走って7分の場所にある。いつも、今朝も走って来た場所――だ。
東京の下町・押上はスカイツリーのおひざ元。そこに役所演じる主人公が生活する。
京島の銭湯に行き、業平のコインランドリーを使い、地下鉄浅草駅の地下商店街で一杯やる…。
それでいて、経ワゴンで高速を使って渋谷までトイレ掃除に行くというのは、現実にはない話だが、映画として見た場合、出てくる近代的で清潔な公衆トイレと崩れかかった下町のボロアパートやごちゃごちゃした街並みのギャップがよい。
物語に筋らしい筋はなく、役所が口にするセリフもほとんどない。
それでいて、漂うこの雰囲気はなんだ! 彼の表情、泣けたよ。
2023年後半、僕が見た映画はどれもいいものが多かったけれど、これがベストかも。
小津を敬愛するヴェンダースの作品は、見る人によっては退屈極まりないだろう。本作も、そう感じる人は多いかもしれないが、心にしみる作品なのである。
作品傾向が似ている感じの、アキ・カウリスマキの「枯れ葉」も見たが、あれは僕にとって退屈だった。★2つでレビューを書こうと思ったが、やめた。
退屈と感じる人も、そう感じない人もそれぞれ。
墨田区が舞台というのに、錦糸町の映画館で上映されないのが非常に残念。亀有まで行ってきたよ。
ある日ではなく日々ですね
まさにパーフェクト。
さすがヴェンダース監督。最近見ないスタンダードサイズの映像の中で、おじさんが生活してるだけ。なんでもない日常を切り取っただけなのに、恐ろしく感情が同期される映画だった。私がおじさんだからというのもあるだろうけど、それだけでもないし、作風の好みや相性が良かっただけではないだろう。(と、思いたい)
話は、公衆トイレ掃除人の、変わり映えのしない日々が展開されるだけなのだが、いつのまにか引き込まれていた。
朝起きて、車に乗り好きな音楽を聴きながら仕事に行き、昼休憩と、帰り道、仕事終わりの銭湯や一杯飲み屋での、ちよっとした息抜き。夜は布団の上で好きな本を読んで、眠くなったら明かりを消して眠り、夢を見る。そしてまた朝を迎えて…。そんな彼のまさに完璧な日々。バタバタ仕事をしている我が身からは羨ましく思える、まさにパーフェクトな日々。
そんな平穏な日常に、周囲の人々から差し込まれるさざなみのような出来事。それらを温かく受け入れて、また平穏な日々に溶け込んませて行く。ルー・リードのPerfect dayが流れ、いつしかトイレの掃除人の人生に共感し、憧れすら抱いている自分に気付く。
もちろん、役所広司さんが素晴らしい。寡黙な男の設定なのだけど、それにしても最初の30分くらい一言も喋らない。おじさんが早朝に目覚め、布団を畳み、歯磨きや身支度をするだけの映像が淡々と流れる。普通なら、これ誰が見たいの…なのだが、さすがの役所広司さん。玄関を開け、空を見上げて深呼吸、自販機で缶コーヒー(もちろんBOSS)を買って、作業車へ乗り込む。(車はダイハツだったな)だいたいこのあたりまでが朝のルーチン。何度も繰り返されるのだが、それがなんか心地よい。詳細は控えるが、ラストも名シーンだと思う。
同じ役所広司さん主演で「素晴らしき世界」(西川美和監督)がある。あちらも社会復帰を目指して一人暮らしのおじさんの話。性格はほぼ真逆な足を洗ったヤクザの設定でしたが、良い映画でしたので、役所さんの演技を見比べてみるというのも面白いかも。
年の瀬に良い贈り物をいただいた。
海外から見た場合の作品であることに注意しないと変な見方になる…
今年427本目(合計1,077本目/今月(2023年12月度)28本目)。
(参考)前期214本目(合計865本目/今月(2023年6月度まで))
表題に書いたのが全てを物語っているような気がして、大手のシネコンで放映されている割に極端にセリフが少なかったり展開が変だったり(一度しか出てこなかったり、ストーリーの筋と関係のないものが出てくるなど混乱させる)という、音響設備がぶっ壊れたんじゃないかというほどにセリフが少ない映画です。
結局のところ「海外から見た日本を描く」作品なので、インターネット、スマホ他で広がった「人と人との間隔」、あるいはコロナ事情によるそれ、あるいは、映画内で何度も描かれる多機能トイレほかを描くのか(多機能トイレ「自体」は海外にもあるのでしょうが、映画のように何度も出てくるというのは、建築物としてのそれに着目したものと思います。ただこの為に見方によっては何を述べたいのかわからない)、色々な見方があろうと思いますが、個人的には折衷的な見方でみました。
かつ、上記の「極端にセリフが少ない、何を言いたいかわからない」他が意味するところは、映画の最後の最後になってはじめて「海外から見た日本を描く作品」である点であり、このことはなかなか最初ではわかりづらいので、途中で脱落する方も多数出るんじゃないか…という気がします(実際、3割くらいの方が途中で抜けていた)。
個人的に気になった点としては、やはり以下のような点があります。
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(減点0.3/(日本において)多機能トイレの抱える問題に触れていない)
これだけ多機能トイレを舞台(?)にした映画であるのに、日本においてよく言われるこの問題、つまり、健常者(ここでは、身体障がい等があっても意味もなく占有する類型も含む。以下同じ)の方の「多機能トイレの占有」や「家と化する」問題(この問題は一部、ホームレス問題(福祉行政)と絡む)、あるいは「想定されていない使われ方をする」(そこで焼肉をやったりといった極端な類型があった)といった問題が「日本には」存在することは事実で、映画内ではこれらの行為は描写されていませんが、これだけ多機能トイレを描写するのなら、その点は当然監督の方も日本サイドとのやり取りでこの論点を知っていたと思われるため、この点にはエンディングロールでも触れておいて欲しかったです。
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なお、上記のように「成り立ちが特殊」な作品なので、作品とは無関係な人物や描写(すなわち、ノイズ的描写)が他の映画と比べて多いのですが、謎解きものでもないですし、「そういう作品」と割り切るしかないです。
※ このことは実は「映画好き」ほど混乱させる要素が強く、作品内では途中、音楽カセットテープのお店に行くシーンで、ルーリードのテープの写真が出てくるところがあるのですが、某作品…というか、「初代ベイビーわるきゅーれ」を彷彿とさせる部分(主人公のまひろが作内で何度か着ているTシャツの柄がそれ)など、「ネタ映画なのか」と思ったりと混乱度合いはそこそこあります(まぁ、これもマニアなんでしょうが…)。
面白みなどかけらも無し。役所広司だからこその作品。
完璧な選曲に酔い、味わい深い佳作
ジム・ジャームッシュの佳作「パターソン」2016年を否応なしに想起する。何でもない日常を淡々と描く。「パターソン」でもそうであったように、本作でも音が極めて効果を発揮する。竹箒で早朝掃くガサガサ音を皮切りに、ダイハツ(嗚呼)の軽のエンジン音、終始首都高を走る車の音。生活の生の息吹がひたひたと伝わってくる。思えばドイツのヴィム・ヴェンダースとアメリカのジム・ジャームッシュとはその名前の韻からして混同し易く(少なくとも私は)、制作スタンスも指向も何やら共通点が重なる。ともに既に70代、実際のところ過去の華々しいカルト扱いの輝きを未だ背負っての新作でしょうが、本作の静謐から立ち上る肯定感は深い味わいを残す。
主人公の名前が「平山」とあるとおり、小津安二郎ファンであるヴェンダースにとって変形の東京物語の様相となった。都なのか区なのか民間会社なのかまるで不明ですが、都心の公衆トイレを定期的に清掃する仕事をしている中年と言うより初老のルーティンを密着で描く。この平穏にどんな波風がドラマとして起きようなんて、観客からして思っていないはず。何にも起きないけれど多少の避けがたい事象で、平山のスタンスをクッキリと形作ってゆく。
その関わる人々がまた豪華で柄本以外はほとんどチョイ役ですが、印象を残す。柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり(なんと唄ってくれる!)、三浦友和、田中泯、甲本雅裕、松居大悟、研ナオコ、モロ師岡、あがた森魚、安藤玉恵などが、画面の中で息づく。それぞれのエピソードに挟まれるように、モノクロの平山の追憶が漠然とインサートされる。決して平山の過去を暗示しようなんて端から意図はない。
最初の妄想シーンで示されるのが「影」の文字、以降は漠とした木漏れ日にオーバーラップ映像で雰囲気だけの提示が続く。しかしいよいよのラスト近くで大トリのように登場する三浦友和との出会いの時に「影が重なると濃くなるのか?」の問いに対し、いい大人2人で影踏み遊びをやってのけるシーンが興味深い。「影が重なったらより濃くなってくれなきゃ」と吐露する平山がそこにおり、本作中最もと言うより唯一自分の言葉として吐く。一転して、新たな一日が始まり車を運転するが、これまでずっと助手席側からのカメラ映像だったものが、ラストのみ真正面から運転する平山を長廻しで捉える。笑ったと思えば軽く涙ぐんだりの、さり気ない演技の変化が絶妙で、悲観より肯定感で締めくくる。
それにしても今時カセットテープで、しかも曲によっては中古でも1本1万円で売れるご時世とは驚きました。なによりそのカセットから流れる曲が振るっている!世代的に近いこともあり、「THE HOUSE OF THE RISING SUN」が唐突に流れたら血流が逆走するかのようでした。「THE DOCK OF THE BAY」、「SLEEPY CITY」、Lou Reedの「PERFECT DAY」、「FEELING GOOD」などなど、よくぞの選曲に涙涙です。邦画ですと超有名曲の使用許諾に二の足を踏む場合が多く、流石のドイツとの共同制作の賜物でしょう。
当然にドイツ人から見た東京が視点ゆえに、終始画面のセンターに鎮座するスカイツリーをはじめ、首都高の複雑な曲線を好んで捉え、肝心のトイレも最先端のオシャレなものばかりで、古びたトイレがまるで出てこない辺りは少々複雑ですが。もし病気になったらの懸念も解消はされない。念のため毎朝の缶コーヒーは見えないように手にしてますが、明らかにサントリーのBOSSで役所広司的には安心しました。
唯一彼の妹(麻生祐未)が運転手付きの高級車に乗っており、「本当にトイレの掃除をしているの?」と差別意識を滲ませるシーン。平山のかつての地位を忍ばせるが、深追いはしない、そんなことは実にどうでもよく「今」の充実の静謐が小津安二郎に繋がるのです。
『おじさんが便所掃除してるだけ』
アベンジャーズ映画を「世界を救うだけ」と言わないように、おじさんだって日々いろいろな出来事を経験して喜んだり悲しんだりするし、便所掃除だってぐっと近寄ってみれば知らなかったいろいろなことに気づく。
我々がついひとくくりに「だけ」と軽視しがちな事も、こんなに細かい要素から成り立っていて面白いんだという事を教えてくれる。
役所広司の演技に支えられている部分も大きい。映画の前半彼はほぼ無言だが、たしかな演技力によっておじさんの人となりが表現されている。所作はどことなく上品で、整った部屋の様子などを見ても分かるが貧すれど鈍していない。これは中盤で理由が示唆されるが、はっきりと伝えず視聴者の想像に任せる形になっている。
エンディングで彼が泣いていた理由は何だったのだろう。朝日が眩しかっただけかもしれないし、出会った人々のいろいろな出来事に対して自分の日常があまりに平坦で虚しくなったのかもしれない。
終わったあと気持ちが良い映画だった。
まさに、─イズム
日々の記録を淡々と─、まさしくどこぞのあの監督の思想を反映させたかのような作品。あまりにも平坦で、もしかしたら、つまらん!と一刀両断されるかも・・・そういう意見もまた納得してしまうのですが・・・
光と影の表現とかスチールとか、個人的にドンピシャな表現があまたあったので相当引き込まれました。小津映画も大好きなので─
確かに、東京の公衆トイレって最近新調されているなぁとは感じていましたが、あんな種類があるなんて─。移りゆく東京、変わらない東京、過去に住んでいたアパート、いまエントランスから見えるスカイツリー、程度が違えど自分とリンクするものばかりで非常に心に響きました。この風景を日本人ではなく外国人が撮ったことに少しガッカリ・・・でもそれがヴェンダースであるということに歓喜。色々と味わい深い作品です。
役所さんは最高なんですが、もう少し、彼だけに頼るのではなく、話自体にストーリー性を与えてくれればもっと小津的感動を味わえたのかなぁと生意気な気持ちも生まれちゃいましたが、そんな自分勝手な欲望なんて関係なく、文句なく素晴らしい作品です。
缶コーヒーはBOSS!
足る、を知る。
東京という情報の多い場所で、日々の
生活の中にある幸せや、ちょっとした人との
コミュニケーションの温かさを、とても豊かに表現している作品。
役所広司さん演じる平山はトイレの清掃員として
丁寧にきちんと仕事をこなしていきます。
公衆トイレという事もあって、同僚のタカシ(柄本時生)からは「どうせ汚れるんだから」なんて言われるけど自分の仕事を実直に全うしていく姿は清々しいです。
木漏れ日、が随所に出てきます。
陽の光の使い方がとても美しいです。
平山が空を見上げる表情は言葉なくても
幸せだな〜と語っているようで、幸せホルモンのセロトニンがバンバン出ているようでした。
そして今既にある生活の中の幸せや大切なことを
教えてくれます。
スマホに目を落とすだけでなく、
空を見上げたいものです。
平山のシンプルライフ
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