PERFECT DAYSのレビュー・感想・評価
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再発見
2023年カンヌ映画祭主演男優賞、役所広司。
へえー、すごい。監督は黒沢清? え、ヴィム・ヴェンダースなの? どんな作品? 東京のトイレ清掃員? なにそれ。
おかしくないか?このパッケージ。ヴェンダースがそんな映画を撮るか、普通? 役所広司を起用するのも意外だし、ヴェンダースがトイレ清掃員の映画って、想像の埒外だし。
永瀬正敏に庭師をやらせる、ならすごいよくわかる。
まあ、なにはともあれ、役所広司が主演男優賞なのは祝福すべきことだ。ヴェンダースだし、観に行かない理由はない。
ヴィム・ヴェンダースを再発見した。
サウンドトラックがすごい。
溝口健二を想起させる。
この作品が企画された経緯がどうあれ、その資金がどこから出たものであれ、だ。
優れた作家が、優れたスタッフと、優れた役者で、しかるべき場所でしかるべく撮られると、僥倖となる。
平山は、そうなっていたかもしれないオレだ、と思い入れる中年男性のひとりです。
完璧な一日はきっとどこまでも小さな光が見えるそんな日
この前予約した日を勘違いしてしまって行けなかったので今日は間違えずに行ってきましたw
ヴィム・ヴェンダース作品をロードショー期間中に映画館で見るのは初。
前評判なども気にしつつ映画館に入る。
ドキドキしながら映画が始まる。
冒頭数分でなんだかわからない気持ちになり泣き出してしまった。
この気分は一体なんなんでしょう?
主人公が住んでいる場所が家の近所という事もあったかもしれないです。
そういった親近感にホロッときたのかもしれません。
でもそれだけじゃない。音楽が好きな音楽だったということもあるかもしれない。それもあるでしょう。けれど、本当にそれだけじゃない。あそこにいる役所広司さんのいる部屋。あれはうちの部屋なんじゃないかと錯覚させるような。あの車に乗った自分が本当は自分なんじゃないかと思ってしまうような錯覚を与えるようなそんな寡黙な主人公に寄ったカメラワーク。映画全体を決めるその景色の佇まい。
本当に完璧でした。
オープニングだけでご飯が100杯くらい食べられそうです。
この映画はストーリーとしては何もない映画です。
ネタバレということもないでしょう。
おじいさんがトイレの清掃を毎日やっているというだけの映画です。
ただ、主人公のおじいちゃんの所作をずっと丁寧に見るだけの映画です。
そのためにこの映画は存在していると言っていい。
そんなやついるかよ。って思うかもしれないけれど、世の中にはいるんだよ。
ちゃんとこういうおじいちゃんいるんだよ。
そんなことを思いました。
この映画で色んな人が色んなことを考えるでしょう。
本当にいい映画です。ありがとうございました。
清掃員の日常
知足按分
神は細部に宿る、という生き方
私たちにとって「完璧な日」とは?職場で昇進する、恋が成就する、欲しかった物が手に入る…それは大抵、何か特別なことが起こった単体の「一日」として想像されるだろう。しかしこの映画のタイトルは違う。PERFECT DAYS、それは複数形の「完璧な日々」を意味している。
トイレ清掃員の平山の生活は、一見単調でつまらない。毎日同じ場所で同じ業務をひとり繰り返し、低給独身ゆえの慎ましい生活を送るだけ。そんな彼に憐れみの目を向ける人も少なくない。
しかし、彼の目を通した世界は変化と刺激に溢れている。車で流すレコード、公園の四季模様、街中の人間模様、毎晩のお供の小説、そうした些細なことに彼は心を注いでいるから。映画の最後、「木漏れ日」という日本語特有の表現が紹介される。太陽から木の葉を通して地面に映し出される光と影は、絶え間ないダンスを続け、二度と同じ文様を見せることはない。世界とは、実はそれほどまでに贅沢で底知れないものだ。しかし、私たちはいつしかそれから目を背け、数字とスクリーンを凝視するだけになってしまっていたのではないか。
作中では様々なヒューマンドラマが差し挟まるものの、どれも曖昧に流されていく。起承転結もなければ、伏線と思われたものが回収されることもない。しかし、実際人生で遭遇する物事なんて大抵はよく分からないまま過ぎ去っていくものだ。そんなところも含めて、革新的なほどに「平凡」を極めた内容の映画だった。
役所広司が可愛い
「すばらしき世界」へのアンチテーゼ
一人の生き方を追体験できる作品
現代版の晴耕雨読的生き方
ゴマンと転がる知り得ぬ物語へ
一番のドラマであろう主人公の背景に何があり、
今ここに至っているのか、が描かれることなく物語は進む。
主人公の過去を切り離すことと、
訪れる毎朝と、その度にリセットされたように繰り返される日々は、
過去も未来も関係ない「今ここ」の大切さ、尊さを印象付けているように感じられてならなかった。
むしろそうして収斂することで、ある意味閉じることで、
研ぎ澄まされる感覚の豊かさと、だからこそ「豊かさが完璧な日々」に思い馳せる。
ゆえに主人公に訪れる些細だろうと見逃せない様々な出来事はなんとも美しい。
それは言葉を交わさぬ人との間で起ころうと、
毎日、顔を合わせる間柄で起ころうと、
突然、初めて向き合うことになったとしても。
こんな感覚野のレンズから世界をのぞけるのは、子供の頃だけ?
(知性がたりないから同じにはならないけれど)
対峙したときの主人公のありようを見て、想像せずにおれない過去はなお深く重みを増し、
しかし何ら具体的に解き明かされることがないなら、
何もわからないままおわってゆくんだなぁ、と呟いたクライマックスの三浦さんの台詞がひどく染みた。
そのとおり、描かれることのない主人公の過去のように、日の目を見る事のないトイレ掃除のように、主人公の毎日に彩りを与えるささやかな出来事も、
同時多発と世の中でゴマンと起きているに違いないが、そのほとんどは知らぬ間に、知られぬままに過ぎ去って行く物事だ。そして自身もまた他者から見ればその一つに過ぎない。
けれど、だから、今ここにしかない、わたしだけの日々を生きることができる。
寂しくもだからこそ力強い、強さの向こうから沸き起こる、見えざる希望にじわじわやられた1本だった。
劇中歌がまたよい!
歌詞は絶対に物語と連動していると思えたので、和訳の字幕があった方がよかったのでは。などと振り返りもする。
あと、ところどころ大笑いしてしまったのだが、わたしだけか?
たとえばラスト、川べりでどちらもむせまくるくだり、とか。
世界中の人達に観て欲しい日本を代表する近代映画。 自信を持ってそう...
世界中の人達に観て欲しい日本を代表する近代映画。
自信を持ってそう感じた124分。
(監督はドイツ人だが)
渋谷区内17カ所の公共トイレを、世界的な建築家やクリエイターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に賛同したベンダースが渋谷の街で改修された公共トイレを舞台に描く寡黙な男性が主人公の作品で『PARIS、TEXAS』を思い出した。
水面や木漏れ日、朝焼けの光が美しく撮影されている今作、最初は長編映画ではなくて、短編かドキュメンタリーとして作られる予定だったがベンダースが「長編映画でやるべき」と変わっていったらしい。
第76回カンヌ国際映画祭で役所広司が最優秀男優賞を受賞。
役所広司 1956年生まれ
三浦友和 1952年生まれ
旅しないロードムービー
理由はうまく説明できないがなんかよかった
人生の幸福度ってどんな尺度で測るかでまったく違うものになる。収入がいいとか、家族がたくさんいるとか、趣味が充実しているとか。しかも、この程度で幸せと感じる人もいれば、まだまだ物足りないと感じるか、その満足度も人による。
だから本作の平山が送る日々がとても慎ましくて、地味なものであっても幸せそうに見えてしまう。東京の公衆トイレを清掃する仕事をしながら、余暇として音楽を聴いて小説を読んで酒を嗜む。同じような毎日の繰り返しの中で起こるいくつかの出来事。映画の中で起こる出来事としては大きいと言えるものではない。でも、淡々とする中でキチンと事件として成り立っていたし、物語の起伏の加減が絶妙だった。
本作の見所はなんといってもラストの役所広司の表情じゃなかろうか。カンヌで主演男優賞を受賞したのも納得の演技。人生とは幸せとは、そして人生の締めくくりについて、穏やかな空気感の中で観ている人間に静かに問いかけてくる気がした。
個人的には平山が聴いている音楽がよかったのもポイントが高い。東京の街並みを走る車中でかかる、パティ・スミスやヴァン・モリソン、ルー・リード、サム・クックといったアーティストの曲。これがとても心地よい。姪っ子の名前がニコってのも意味深だったりする。あの妹も昔はヴェルヴェッツとか聴いてたんだろうか。そう考えると彼らの過去に何があったのかも気になるところ(ほぼ触れられないけど!)。
ものすごく感動したわけでも涙を流したわけでもないのになんかよかったなと思える不思議な映画だった。平山とはまったく違う生活を送っているのに、あなたはそのままでいいんだよと優しく肩を叩かれた感じがする。それは年をとったということなのかもしれない。でもそれでいい。これから自分にもまだまだ平凡で完璧な日々が待っているかと思うと楽しみだ。
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