PERFECT DAYSのレビュー・感想・評価
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雨ニモマケズ
平山の世界にじんわりと浸り、彼の人生を楽しむひととき。いつもと違う東京をドライブし、公園(のトイレ)を巡り、下町の生活に浸る。
いつもは忙しなく感じる東京だが、映像も音楽も実にビムベンダースらしい、穏やかで古くさくて、ゆったりした気が流れている。
映画館でじっくり観れてよかった。
平山のシンプルで豊かな生活。完璧なルーティンだ。
それでも四季や天気やハプニングがあり。少しの驚きと、少しの切なさと、時には大きな悲しみや、時には大きな喜びも。
同じ1日は二度とない。そうやって人生は続いてゆく。
汗をかいて、丁寧に仕事をして、銭湯で汗を流して、いつもの場所でお気に入りのご飯を食べて、好きな音楽と文学を合間に楽しんで。
平山の笑顔を見ているとわかる。彼は人の幸せを喜べる余裕があり、困ってる人に手を差し出すことができ、美しき世界に微笑むことができる。
そうか、これこそが完璧な人生なんだ。これでいいんだ。
宮沢賢治の雨ニモマケズ の現代版のような。
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシ「モ」ナリタイ
心に静かに染み入る作品
この映画の中で印象的なものは、主人公が好んで聴く60~70年代のロックとそれを再生するカセットテープや古本の文庫本である。
過去は捨て去るものでは無く、本質として良いものは良いという価値観。時代の最先端を行く大都会に於いても、時代に無理に追いつこうとせず、自分の価値観を大切にして生きる主人公に次第に共感さえ覚え、平凡にくりかえし生きる生活の意味や何気ないものから見出す美意識に気付かされる。それらは物質主義や大量消費社会へのアンチテーゼかもしないが、決して声高に叫ぶのではなく、静かに語るヴェンダース監督の世界に引き込まれていく。
今、この繁栄する現代社会にあって、色々なことに亀裂や矛盾、天変地異や不穏な動きが世界中で広がりつつある中、この映画の視点は何か大切な事を見る者に伝えている気がする。
今の社会につかれた気分の時に、この映画はそっと和ませてくれる、そんな作品である。
とにかく役所広司の演技を観るための映画
名作みたいな2時間のCM
全て良いのがパーフェクトでは無い
のですね。
若者も老人も
良い事も悪い事も
新しい事も古い事も
明るい場所も暗い場所も
金持ちもそうで無い人も
光と影の両方が共存してパーフェクトな日になる
いつもと違う事がいつもの毎日で起きても
我思う故我あり
自分がどうしたいのか、自分がどう見えているのか
周りの評価より大切にしたいと思いました。
明日からがどう生きようか楽しみになる映画でした。
一期一会
いい映画です
平山さんの品格。
画面ににじむ諦めに注目
この映画がある種の静謐さを感じさせるのは、その撮影手法に理由があるんですね。ヴェンダースはさすがに手練れで、カメラはもちろん美術も照明も編集も、あるべきものをあるべきところにきちんと置いている。脚本も演技も、主人公の生活をひとつに解釈してしまわずに、広がりをもたせるように作っている。主人公は生活の小さなことに喜びを見出しているかもしれないが、人に言えない暗い思いを抱えてもいる。その余白が、うまいのです。
だから、これを「底辺労働者が低賃金で満足するよう企業家が画策してるプロパガンダ」だとか自称映画評論家がネットで繰りかえしてるのは、自分のフシ穴ぶりを喧伝しているのと同じ。画面にしっかり刻まれている、主人公のあきらめ、後悔、押し隠された不満、それらをぜんぶ見落としているだけなのです。画面をきちんと見ていれば、「貧しい暮らしを美化」などまったくしていない。
べつにどんな感想を持ったって好きにしたらいいんだけど、少なくとも「金持ちが労働者を美しく描いている」とかのコメントは、「主役俳優がかつて自分を振った元カノ/元彼に似ているから気に食わない」みたいな感想と同じで、この映画とはぜんぜん関係ありません。
もちろん好き嫌いというものはあって、ロンドンやニューヨークでも、社会描写の踏み込みが足りないと文句を言う人はいます。だけど、東京は、映画のプロですらこの種のひがみっぽいコメントを言う人が多すぎますね。とくに「トイレが99%の公衆トイレとは違ってきれいすぎる」と言う人は、ハリポタ映画をみても「大半の現実の子供はこんなに美しくない」と怒るんでしょうか? たぶんそうじゃない。自分のビンボーな暮らしをあてこすられたと感じたから怒るのです。でももちろん、日本の経済が上向かないのも平均賃金が上がらないのも、この映画に責任はありません。
十数回登場する主人公の「夢」の映像なんか、うまく作られていますよね。それは単純な貧しさの賛美ではないし、静寂主義への逃避でもありません。もっとしたたかに周到につくられている。映画史に残る傑作だとも思わないけど、そういう巧みさはきちんと評価しなければ。少なくとも映画のプロを自称する人は、ちゃんと画面を正確に精密に見られるようになるべきなのです。そうでないと日本の映画批評は、英語圏の批評に永遠に追いつけないままです。
これも一つの幸せの形?
前半はほとんど記録映画。トイレ清掃員の主人公が「朝起きて身支度して仕事に出かけて清掃して帰ってきて銭湯行って居酒屋でチョイ飲みして寝床で本読んでから寝る」日々がひたすら繰り返される。本当にこのまま最後まで行くのかと思っていたら、後半になると色々関わる人間も増えます。ただ、主人公の境遇自体は変わらない。非常に淡々としていますね。
地味な生活を送る主人公を演じるのは役所広司。そのせいなのかどうなのか、劇中では三人の女性に好意を持たれている。まあ、一人は親戚(姪)だし他の二人からの好意も淡いものとして描写されているわけですが、初老の域に達していながら色気のある男性像を見るとクリント・イーストウッドのようです。してみると、役所広司は日本のイーストウッドなのか。役者としてはちょっとタイプが違う気もしますが。
それはともかく、映画としては台詞回しがぎこちないというか洗練されていないし、演技もところどころ棒読みっぽかったりして、いかにもエンタメでない芸術作品感はあります。ただまあ、これは一種の雰囲気映画だと思えばそこまで気にはならないかな。登場人物が皆、基本的にはおしゃれでもなく、かっこよくもないのは見る方にもわかることだし。
演技について補足するなら、主人公がセリフなしで肯定と否定を示すときに首をふるところはすごくいいと思いました。娘を連れ戻しに来た女性が別れ際に見せる表情とかもそうだし、セリフなしの場面のほうが伝わるものが多いとすら感じます。
主人公が休日に行くスナックのママが石川さゆりで、接客中、急に歌い出したのにはびっくりというか、妙なおかしみがありました。歌ったのは本職の演歌ではなく洋楽(歌詞は訳してある)だけど、それがまた面白い。
古本屋の店主が売れた本に一言コメントをしたり、フィルムを現像する店の店主とはお互い挨拶ともつかぬつぶやきでやりとりをしたり、慣れた者同士の飾らないコミュニケーションがいい。そんなものでもあれば、少なくとも社会的には完全な孤独ではないということでもあるし。
ちなみに、自分は似たような仕事をしていて、そこから興味を持って見に行ったわけですが、仕事そのものの描写は丁寧でリアルだと思います。強いて言うならゴミを拾う時は素手ではなく軍手でもつけたほうがとは思いましたが。
仕事がトイレ清掃であることに特別な意味はない気もします。あくまでも地味で社会的には上等でない仕事という意味でちょうどよかったのでしょう。その日常を描くことで人生とか幸せとは何か、と押し付けがましくない感じで問いかけているのだと思います。
今度は今度、今は今。
何もない。そんなものは無いのかもしれない
こんな映画はじめてかも
ここ最近、何が起こるのかを楽しみにしながら映画を観ていたことにこの映画を観て気がつかされた。大体の映画は主人公が平凡な日常を過ごしているところから始まり、何かが起こったり誰かに出会ったりすることでその人生が大きく変わる。この映画ではそのようなことは起きない。それなのに、主人公の平山の人生は変わっていく。大陸移動のようなゆっくりとしたスピードかもしれないが、それでも変わらないものはない。考えてみれば人はどんどん歳をとるし、変わらない日常なんてものはないのに。あー毎日同じだとか、変化を求めてしまうとか、それもきっと悪いことではないけど、今周りにあるもの、周りにいる人のことにもう少しちゃんと向き合いたいなと思わされた。
家を見渡したらカセットテープを聞けるオーディオがあったので、眠っているカセットテープを引っ張り出してみようかな。
For your hard work!!!
バンクーバーの映画館は毎週火曜が安く、しかも今月だけ毎週火曜は全作品8ドルで観られる、スーパー感謝デー。
バンクーバーにはたくさん映画館があるのですが、ウチからちょっと離れた不便なところ一軒でしかこの作品が公開されておらず、私はシネプレックスの年会員なのでいつでも8ドルだし、毎月1本無料だし…ということで、とりあえず空いてそうな月曜の開店直後に行きました。
えー、最前列と端っこ以外、全部売れてる…。しかも、日本人はほとんどおらず、白人系かインド系ばかり…。トイレではかなり年配のマダムから「私は『生きる』が好きなの。『7人の侍』も観たわ〜」と声をかけられましたw
静かな冒頭から六畳一間のアパート?カセット?銭湯?え、昭和の話?と思ったら、スカイツリーはあるし、最新のオシャレトイレはあるし…、一瞬こんがらがりました。
ただ、カナダにもうすぐ2年近く住んでみて、改めて日本を誇らしく思えることがいっぱいありました。
公衆トイレまでウォシュレットがついてること、
外に自販機があること、
自転車を外に停めておけること、
裸で銭湯に入れること…
道っぱたをチャリでダラダラ蛇行運転できるのは、日本人が丁寧に舗装した平らな車道のお陰です。バンクーバーはアップダウンが激しいし、道は凸凹で、来たばかりの時はよくつまづいてましたw
というか、自転車なんてチェーンで繋いだってあっという間に盗まれるし、ヘルメットも必要なのでずっと乗ってません。チャリでどこまでも行けた日本が、とても恋しくなりました。特に治安が悪いってわけでもないんですけどね。日本が安全過ぎるんですw
果たしてこの作品が、カナダ人の琴線に触れたかどうかはわかりません。私もみなさんのレビューで引かれた補助線がいくつもあったし、日本文化にどれくらい親しみがあるかわからないし。ただ、エンドロールでの観客席からのパラパラという拍手の量に、言葉にならない平山の人生の深みが理解できたのかもと感じることができて嬉しかったです。
三浦友和も嘘でしょ?っていうくらいカッコいい。石川さゆりのママ役もキャスティングした人に感謝したし、「朝日の当たる家」の日本語バージョン、もっと聴きたかったなあ。石川さゆりの艶やかな歌声、カナダ人もウットリ聴いてました。
それにしても、役所広司は冴えないおじさん役なのに、ありえないほど色っぽいですね。失楽園の時から、大して年取ってない!www
湯船に浸かって顔半分隠してるのに、ほっぺにチューされてニヤケてるのを、目尻のシワで表現したのも素晴らしかったな。もちろん最後の笑い泣きシーンも。
That's how life ends, I suppose. 日本語のセリフは忘れちゃったけど、影踏み前のシーンで、とても印象的な英訳でした。
英訳と言えば、一杯飲み屋で最初に「お疲れさん」って言葉と一緒に焼酎が出てくる時の字幕が
For your hard work!
でした。「お疲れ様」って英訳できないけど言われたら気持ちが温かくなる日本語も恋しいなあとしみじみ思いました。この日本語、世界共通語にならないかな。「カローシ」なんかより、よっぽど使いどころあるのに。
帰りの電車で平山みたいに空を見上げたら、日本の空と繋がってるんだなぁと思って、またウルっとしてしまいました。いやー、誇らしい。どうりで日本人好かれるわけだ。
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