劇場公開日 2023年12月22日

PERFECT DAYSのレビュー・感想・評価

全740件中、1~20件目を表示

5.0トーキョーではない東京

2024年7月5日
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驚いた。この映画、スクリーンの向こう側に東京が広がっている。それはTokyoではなく、ましてやトーキョーでもない、誤魔化しのない東京だ。長年東京の下町に暮らした私がそう感じたのは劇中の距離感が現実的だったからではないだろうか。
映画館を出て直ぐ様スマホで地図を検索、主人公・平山の暮らす古いアパートを探し出す。更に狭い路地を歩き廻り隅田川に架かる橋を渡って彼の通う銭湯や浅草地下街の飲み屋にも足を延してみた。この行動、もしやただのロケ地巡りなのかもしれない。だとしたら中年が1人でなんだかもの悲しい。でも私はそうせずにいられなかった。
そこで気がついたのはスクリーンに流れるひとつひとつの場面が街のイイトコドリをしてチグハグに繋ぎ合わせたものではないと言う事。平山が自転車を漕ぎ馴染みの場所に辿り着くまでの景色と距離をありのままに映し出してくれている。
トーキョーでなく東京、どうしてそんな事に驚くのかと尋ねる人もいるだろう。私はこんな風に応えたい。「この映画を撮ったのは異国の人なのだよ」と。偏見だと叱られるかもしれないが東京がトーキョーになりうる可能性だってあったはず。だからこそ私はこの映画を撮ったヴェンダース監督に伝えたい。
「私のよく知る愛すべき東京を撮ってくれて、ありがとう」と。
ヴェンダース監督にこの気持ちが届く事は決してないだろうが、私はただただ、そう伝えたいのである。

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ychiren

2.5全てをもった人のPERFECT DAYS

2024年4月19日
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鑑賞方法:映画館

ヴィム・ヴェンダース監督作品。

30年後の自分をみているような感じだったな…全然ありえる。
ただ「こんなふうに生きていけたなら」と思うぐらいがちょうどよくて、実際にそう生きたら「完璧」なんて思えない。トイレは汚いし、ずっとはいられない。「木漏れ日」に美しさなんて感じない。ヴィム・ヴェンダースが日本を美しいと感じることと同じだと思う。遠い異国を旅行するぐらいが一番美しく感じるんですよ。現にヴェンダースは日本で暮らしてはいない。だからリアリズムではなく、全てをもった(have it all)人の憧憬やノスタルジーとしての「Perfect days」とみるほうがいいと思う。ただ本作が、オリエンタリズムな眼差しで「美しさ」を撮ったとも言いづらいから全否定するのが難しい。「ニホン凄い論」とは全く違う、ヴェンダースの眼差しで現れる「美しさ」。けれどそれもまた別様のオリエンタリズムのような気もするし…いいとは思うんですね…。ただやはり、質素を楽しめるのは富裕者だけだと思うし、「こんなふうに生きろ」と言うなら便所掃除を仕事にしてからいってくれ。

生活に根ざした清貧さを主題にした映画は、何だか批判できない構造に陥っている。
清貧さを理想化し過ぎているとか社会構造に目を向けていないと批判すると、反論が起こる。「お前は清貧さの尊さに気づいてないし、鈍感であれるほど裕福で映画という『芸術』を何も分かっていない禄でもない奴だ」と。〈あなた〉と清貧さの距離の遠さの反論。真っ当のように思える。これが批判できない構造だ。けれど実はそのように反論する人ほど清貧さから最も距離の遠い人だ。だからこそ貧しい者が貧しいままで階級上昇ができず、それ故、貧しいことを美化しようとする富裕者の傲慢さがとても鼻につくのだ。

本作の出資者や宣伝者は、「こんなふうに生きているの?」。そんな疑問の答えは、渋谷のスクランブル交差点に節度もなくでかでかと広告を出している時点でお察しである。そしてこういった態度は「俗にいうつまらない邦画一般」にも言えることだと思う。

人生は何も解決しない。分かり合える家族をもつことはできないし、世界をひっくり返す仕事もできない。だからかりそめの他者と親しくなって貧しいけれど清い生活の美しさを噛み締めればいいのだ。そんな未来のないノスタルジーを抱えるのは、私が78歳のおじいちゃんになってからでよくて、今は未来のあるノスタルジーを信念に生きていたいです。

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まぬままおま

5.0「足るを知る」人生こそが最強

2024年2月13日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

幸せ

観終わって思うのは、「足るを知る」人生こそが、最強なのだということ。「満足することを知っている人は、たとえ貧しかったとしても精神的には豊かで、幸福であるものだ」という意味の言葉です。役所広司さんが務めた主人公ヒラヤマの人生は正にこれでした。
立派とはいえないが、清掃の行き届いた一人暮らしには十分な広さの家。
かっこいいとはいえないが、後輩から尊敬され誇りを持って続けている仕事。
たくさんとはいえないが、数少なくとも日々の日常を彩ってくれる知人たち(行きつけの居酒屋の店長、行きつけの古本屋の店主、行きつけのバーのママなど)
大きな喜びとはいい難いが、朝の缶コーヒー、仕事終わりにの一杯、毎晩寝る前の読書、観葉植物たちの水やり、週末の行きつけバーでのひととき、毎日のお昼休みの木漏れ日の撮影などなど、ヒラヤマを幸せにするささやかな喜びたちがたくさん登場する。幸せとは、なにも特別な日を飾る赤いバラである必要はないのだと思わせてくれる。
ないものをいつまでも欲しがってダダをこねたり、不必要な人間関係に疲弊して自分をすり減らしている現代社会に生きる人たちとは、ある意味別次元で生きているヒラヤマの生き様は尊くすら見えてくる。
全ての人がこんなふうに生きられるとは思えないが、幸せの根本とは、こういうことなんじゃないかと思わせてくれた作品。
心からとてもいい映画を観たと、他人に言いたくなるとても素晴らしい映画でした。

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ななやお

4.0「ふつう」という事

2024年1月12日
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悲しい

怖い

難しい

とくに何も起きないです。いや、嘘です。嘘というか、語弊のある言い方でした。
「映画」という娯楽において、「展開」という意味で「何も起きない」です。
生きる限り、なにかしら起きているのが世の常。小さな悩みや失敗だったり、しあわせな出会いだったり大きな成功だったり、それは人によって一大事になったり、他愛のないことだったりするけど、大小は関係ない。はたまた、それへの対処の仕方も、人それぞれ違います。
本作は、何事においても「後悔のないように」たんたんと生きなさい、と諭しているに感じました。一所懸命でも真面目にしていても、失敗することはあるだろうし、他からもたらされる予期せぬ出来事や、病気や事故・事件、自然災害、避けられない不幸というものがあると思う。
そういうのも含めて、人生だから。後悔のないように、真摯に生きましょう。出来れば笑顔になれる自分でいなさい、どうしたって生きなきゃならないんだからね。そんなことを言ってる作品に感じました。
ふつうって、そういうことと思います。ふつうって、難しいですよね。

観たかった作品が通う劇場に無かったので、気になっていたこちらを観賞しました。
すごく良い作品だと思うけど、エンタメ作品が好きな自分にとっては失敗、、。観賞後、説教されたような気分になってモヤモヤしました。そしてすごく悔しい気持ちになっています。こういう衝動に駆られるのは、良い作品に出会えたとき。そこもまた悔しい。。

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くまの

4.0スマホで下向いてばかりだと、木漏れ日に気づくこともできない

2023年12月23日
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楽しい

知的

幸せ

近所の人が道を掃く音が目覚まし代わり。布団を畳んで隅に置き、隣の部屋で育てている鉢植えたちに霧吹きで水遣り。狭い階段を降り、狭い台所で歯磨きを済ます。髭を鋏と電気カミソリで整え、玄関に並べている持ち物を順番にポケットにしまいドアを開けてボロ屋の表へ。そこで空を見上げて微笑む。駐車スペースの横にある自販機でBOSSのカフェオレを買い、仕事道具を積んだ軽バンに乗り込む。本日のカセットを選び、シートベルトを締めて出発。早朝の東京の道路とカセットから流れる洋楽が合う。

担当する1件目の公衆トイレに到着。荷物を持って車を降り、「清掃中」の看板を立てて作業開始。まずゴミ拾いをクイックにおこない、便座、手洗い場と順に掃除していく。鏡をつかって裏側の汚れも確認。便器の中も拭き上げる。バケツに水をはり絞ったモップで床掃除。トイレのドアや取っ手も丹念に拭き上げる。これを何か所か移動しておこなう。

昼はルート上にある神社でサンドイッチ。大木の木漏れ日をフィルムカメラに収める。
清掃がすべて終わると自宅へ戻り、すぐに着替えて自転車に乗って銭湯へ。たっぷりのお湯に顔まで沈める。さっぱりして脱衣所で相撲を見ながら火照りを冷やす。帰りに自転車で地下にある大衆居酒屋に。ビールとつまみを頼み、TVから流れるプロ野球をみながら簡単な夕食。千円とちょっとを払い、自宅へ戻る。布団に入って休日に古本屋で買った幸田文やパトリシア・ハイスミスの本を電気スタンドの灯りで読みながら、うとうとして入眠。そして、朝がきて、また道を掃く音で目覚める。。。

仕事が休みの日は「フィルムを現像に出す&受け取り」「焼きあがった写真の選別」「コインランドリー」「古本屋で本を吟味」「ちょっと贅沢して小料理屋へ」になる。

慎ましいけれど、とても幸福で豊かな日々。(まさにPERFECT DAYS。)
自分に与えられた仕事・社会への貢献を全うし、充実感をもって銭湯とビールで労う。
植物を育て、様々なジャンルの古本で知的好奇心も満たし、音楽も楽しむことができる。木漏れ日や空をちゃんと感じることもできる。。何より木漏れ日に気づけるということは、うつむかずに上を見上げているということ。「上を見上げる」というのは気が良くなるよ。自分も見習おう。

高級車とタワマンをローンで買い、企画やプロジェクトやら1日で区切れない仕事にあくせくして達成感もなく、スマホのために下を向いてばかりで木漏れ日に気づくこともできない。肥大化して、余裕を失った日々。。
何のための人生か?何のために働いているのか?本当に幸せなことは何か?
忘れていたものを再度気づかせてくれた映画。
思わず笑みがこぼれる一服の清涼剤のような映画。

※関東平野の朝焼け。壮観な広大さ。綺麗。
※フィルムカメラ、現像、カセットテープ、ラジカセ、ガラケー、アナログ文化が滅茶苦茶かっこいい! スマホがない生活、いい。豊かだ。
※若い娘を銭湯に連れてきた平山を見た、銭湯の常連たちが微笑ましい。
※石川さゆりの小料理屋。絶対通うよ! むっちゃ似合う。歌うますぎ。(当たり前か。)
 「ギターでちゃったかあ~。」たまらん!
※三浦友和とのやりとり微笑ましかった。何も変わらなかった、意味はなかったなんてことはない。影は濃くなっている! (大人のオッサン二人の影踏み、微笑ましい)
「謝りたいではちょっと違う。会っておきたくなった。」この思い、なんとなく分かる。
※1日のルーティン。でもいつも同じ日ばかりではない。色々ある。
※家の戸締りをしないのは気になるよ。
※一緒に働いている若者のタカ、いい加減なやつかと思ったら性根の優しい面も。こりゃ憎めないわ。
※浅草の下町、いいわー。スカイツリーがいつも見える町。紫や赤の電気がまた似合う。
※トイレ掃除の格好をしていても、雨合羽を着ていてもカッコ良くなってしまう役所広司。
※色んな公衆トイレあるんだなあ。ドアが透明から色付きに変化するトイレには驚いた。

下記の涙の意味は大事に考えたい。
・軽バンの中でのアヤの涙
・平山の妹と、妹と別れるときの平山の涙。
・最後のシーン。車のハンドルを握りながら涙ぐむ平山の涙。(ここ名演だった。)

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momokichi

5.02023年末に日本で公開された、2023年公開作品で最高峰の「世界的に評価されるべき奇跡的な作品」!

2024年1月20日
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本作で主演の役所広司が2023年・カンヌ国際映画祭で「男優賞」を受賞したのは十分に納得できます。
本作の主人公は普通に話すことができるのに、基本、話さずに表情やしぐさで訴え掛ける物静かな人物。
それもあり、役所広司の演技力が極めて自然な形で国境を超えるレベルにまで発揮されていています。
2006年・カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した「バベル」で、話すことができない役の菊地凛子が、アカデミー賞の「助演女優賞」にノミネートされたのと似た構造を感じます。

東京の公衆トイレをクリエイティブに改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に関連した映像化の話にドイツのビム・ベンダース監督が賛同する奇跡的な動きが生まれ、トイレの清掃員の日常を描き出す流れで「トイレ清掃員のプロフェッショナルな平山」に命が宿りました。
赤いライトを中心に独自性のある自然なライティングによって、より深みのある映像に仕上っているのも重要な要素ですが、何といってもエグゼクティブプロデューサーも務める役所広司の存在感が最大のカギだと感じます。
リハーサルを一切せずにドキュメンタリー映画の如くいきなり本番という最も効率的で役者力が試される現場で、わずか16日の撮影で「最高峰の映画」が完成するという奇跡が起こりました。
世界の人たちが本作を見れば、日本に関心を持って「平山に会いに日本を訪れる」など日本経済にも効果をもたらすことでしょう。
ちなみに、平山が毎日飲んでいる缶コーヒーは、やはりアレなのですね(笑)。

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細野真宏

4.5これほど説教臭くなく、生き方や価値観を静かに揺さぶる映画は久しぶり

2023年12月31日
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日本でこのような作品が生まれるのは驚きであり喜びだ。主人公の平山は無口であまり言葉を発しない。だがその分、彼の生き様は、朝起きてから夜の微睡に包まれるまでの一挙手一投足でもって、観る者の心に深く染み入っていく。彼は決して世捨て人ではない。無心になって仕事をこなし、瞳には優しさと温かさが宿り、彼なりのやり方で物事を無駄なく楽しみ・・・そうやって築かれた最小限の日常で、すべてを大切に受け止め、決して悔いを残さない。こんな暮らしに少なからず憧憬の思いが込み上げるのは、我々が何事も過多な現代社会で多くのものを取りこぼし、後悔を感じて生きているからだろう。トイレから人々を見つめる平山の姿はどこかヴェンダース映画における天使のよう。と同時に、日々を真っ新な気持ちで生きようとするその姿は、人生という旅路をひたすら歩み続ける、これまたヴェンダース作品特有のロードムービーの主人公のように思えてならなかった。

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牛津厚信

4.5街の息づかいを撮った作品

2023年12月31日
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鑑賞方法:映画館

寡黙なトイレの清掃員の日々を美しく撮っている。渋谷のデザイン・トイレのパブリックリレーションの役目を負った作品であるが、トイレの先進的なデザイン性とその清掃員の住む古い木造アパートは対照的である。しかし、ヴェンダースは新しいものを良く見せているわけでも、古いものをみすぼらしく見せるでもなかった。むしろ、新旧のものが共存している東京の街並みに関心を寄せている。カセットテープの音楽を聴き、フィルムのカメラを趣味とする役所広司演じる主人公は、古いもの代表なわけだが、周囲の新世代に振り回されながらもなんとなく共存していく。東京という街は、近代的なものと古いものが混在している場所として多くの海外旅行者にも認識されているのだが、そういう目線がここにはある。しかし、旅行者目線とは異なる視線でそれを成立させていることにこの作品の美点があるだろう。街を撮るというのはなかなか難しいことで、そこに生きる人の息づかいみたいなものがないといけない。この映画はそれが感じられる。

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杉本穂高

4.5“日常”の有難さを知った2020年代に響く人間賛歌

2023年12月22日
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鑑賞方法:試写会

泣ける

知的

幸せ

昨日と今日、そして明日もだいたい同じ一日が繰り返される。当たり前だったそんな日常が、コロナ禍で一変した。職場や学校に通い、人に会って話をし、店で飲み食いする、そんな普通のことでさえも困難になったあの時期を経て、日常の有難さが世界中で認識された今、この「PERFECT DAYS」が世に出るのはまさに完璧なタイミングだ。

成立過程はかなりユニーク。2018年に「THE TOKYO TOILET」プロジェクトがスタートし、渋谷区内17カ所に著名な建築家やクリエイターらが設計した公共トイレが順次設置された。そのPRの一環としてまず短編映画の企画が立ち上がり、役所広司とドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースの参加が決まってから長編劇映画として再構想されたという(おおよその経緯はWikipediaの「THE TOKYO TOILET」と「PERFECT DAYS」の項で確認できる)。

小津安二郎への敬愛をドキュメンタリー「東京画」で示したヴェンダース監督らしく、本作の主人公であるトイレ清掃員の平山は実直で心優しく日常を大切に生きる男で、物語はさほど大きな事件が起きることもなく淡々と進む。近所の老婆が通りを竹ぼうきで掃く音で目覚め、仕事道具を積んだ車で担当する渋谷区の公衆トイレに向かい、丁寧に便器や手洗い場や床を清掃する。樹木を好み、木漏れ日をフィルムのカメラに収め、銭湯に通い、馴染みの飲み屋に寄り、文庫本を読んで寝落ちする。そこには、平山というひとりの人間の生きざまをそっと見守り讃える温かなまなざしが確かに感じられる。

寡黙な平山の心情を代弁するかのように、彼がカーステレオや自室のラジカセで流すカセットテープの60~70年代の洋楽が、夜明けと朝日の美しさ、一日の始まりの高揚や感謝、日曜の午後の気分などを歌い上げる。どの曲もシーンに合っているが、とりわけラスト近くで流れるニーナ・シモンの「Feeling Good」と役所広司の表情の相乗効果が抜群で、ヴェンダース作品としてだけでなく邦画史においても屈指の名場面として大勢の観客の心に残るはずだ。

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高森 郁哉

4.5役所広司が差し出す新たな引き出し

2023年12月22日
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鑑賞方法:試写会

悲しい

幸せ

毎朝、木造アパートの一室に敷いた布団から起き上がり、植木に水をやり、自販機でコーヒーを買って飲み、トイレ清掃に向かう男。平山というその男性の日々のルーティンが、関わる人々とのやり取りによって微妙に揺れ、それでも基本型はキープしたまま進んでいく。

なんとミニマムで上手い構成かと恐れ入る。与えられる情報の積み重ねによって、平山の背景が垣間見えて来るのだ。なぜ、彼はアパートに一人暮らしなのか、なぜ、トイレ清掃員なのか、という疑問が、本当に微かではあるが、腑に落ちて、ビム・ベンダースの脚本と演出の妙に心を奪われてしまった。

世界的な建築家たちが携わった東京・渋谷にある17のおしゃれトイレが舞台というのも上手いと思う。しかし何よりも、平山を演じる役所広司の、人を遠ざけず、かと言って近づけず、日々の生活を存分に楽しんでいるようで、実は心の底には深い悲しみを湛えている、ハッピーでアンハッピーな表情と演技が凄くてまいる。ベンダース演出の下、彼はまた新たな引き出しを差し出してきた。

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清藤秀人

4.0映画の光と影、孤独=自由を享受する

2023年12月20日
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鑑賞方法:試写会

泣ける

萌える

 役所広司が演じる平山は寡黙な男であり、規則正しく、ルーティンをこなす。毎朝植木に水をやり、仕事を終えると銭湯に行き、居酒屋で酒を飲み、部屋では古本を読みながら寝落ちするのもその一つ。極力他人と関わらないことで“孤独”であることを忘れようとしているのかもしれませんが、“孤独”=自由を享受しているようにも見えます。

 50歳をゆうに過ぎているであろう男が、なぜアパートで一人暮らしをして、清掃員の仕事を黙々としているのでしょうか。その研ぎ澄まされたような姿は悟りに至った僧侶のようにも見えます。

 でも、そんな彼が見ている世界、ふとした時に向ける視線の先には木々や光が溢れているのです。朝日、木漏れ日、夕日、街並みや公園、トイレ、運転中の車のフロントガラスなどの光の屈折や反射。ヴィム・ヴェンダース監督の過去作品を見ていれば、ここに過去のシーンを重ね、敬愛する小津安二郎監督作品の面影も感じ取ることができるのではないでしょうか。

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和田隆

4.0Snapshot of Today's Tokyo

2023年11月22日
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鑑賞方法:試写会

Wim Wenders' slice of life drama about a toilet janitor in Shibuya shows an appreciation for one the city's most prestigous whilst undervalued services. The act of toilet cleaning gets a lot of screentime while showing off the city's rich assortment of commode architecture. Lighthearted and at times cheesey, the mystery behind Koji's cleaner's past is left to interpretation upon veiled sadness.

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Dan Knighton

4.5「今度は今度、今は今」に込められたヴェンダースのメッセージ

2025年3月8日
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鑑賞方法:VOD

泣ける

知的

幸せ

カセットテープが主人公の平山を象徴するものになっている。カセットテープの全盛期は1980年代、バブル景気の頃とぴったり重なる。

また画面が4対3のアナログの画面比率で、カメラが常に平山にフォーカスしているので、何か理由がありそうだ思ってちょっと調べてみた。

そしたら画面比率16対9のハイビジョン試験放送が始まったのが1991年11月で、これはバブル崩壊の時期とほぼ一致する。

これらのことから分かるのは、おそらくバブルの頃に平山の身に何かが起きたということ。
バブル崩壊で多くの人の人生が狂わされたから、平山の人生もそこで大きく変わったんだと思う。

平山がスマホのアプリすら分からないアナログ人間だということは、姪っ子のニコとの会話でも分かる。
(ちなみに平山はガラケーを使っているが通話機能以外使っていない)

つまり、平山の人生はバブル崩壊とともに時が止まっていて、平山はその後30年以上アナログ人間のままで生きてきたってことを画面比率とカセットテープで語ってる。

物語終盤で平山が妹と再会するシーンがある。
運転手付きの高級車から降りてきた妹が、娘のニコがお世話になったお礼に「これ好きだったよね」と言ってオシャレな高級菓子っぽい紙袋を手渡す。

このシーンから分かるのは平山も昔は裕福だったということ。
そしてかつて父親との確執があって、父親がボケてしまった今でも会いに行く気にはならないということ。
つまり父親に対するトラウマが相当深い。

これは勝手な想像になるけど、平山は多分、昔父親が経営する会社で働いていて、バブル崩壊で会社が倒産、その過程で父親と大喧嘩して転職、その後色々あって人間不信になって無口になって、他人と関わらずに済むトイレ清掃の仕事に落ち着いた。
そんな感じじゃないだろうか。

そして妹の方は、自力で事業を起こして今の暮らしを手に入れたか、あるいは裕福な男と結婚して今の暮らしを手に入れたかのどちらかだろう。

では平山はいつからトイレ清掃の仕事を始めたのか?
平山は家出したニコがアパートを訪ねてきた時、最初誰だか思い出せなかった。
「大きくなったなあ」と感慨深げに言っていることから幼い頃のニコしか知らない。

ニコが持ってるカメラも幼い頃平山にプレゼントされた物。
現在のニコが十代後半として、見た目の変化で幼い頃の面影がなくなるほど昔というと、せいぜい9~10歳くらいか。(それよりも幼いと、カメラなんてプレゼントしないと思うし)

だとすると、平山が最後にニコに会ったのは、6~7年くらい前だと推測できる。
つまり平山がトイレ清掃の仕事を始めたのはおそらくその頃から。そして妹がそれを恥じたために妹一家と疎遠になってしまったということだろう。

しかし平山はトイレ清掃の仕事に就いて、慎ましい質素な生活に幸せを見いだせるようになった。

その事は田中泯演じるホームレスの存在で強調されている。
ホームレスは樹木に囲まれた公園ではイキイキとポーズ(光合成のポーズ?)を取っているが、ビルに囲まれた駅前の横断歩道では怯えて戸惑った表情を浮かべていた。

そしてそんなホームレスに対し平山は常に共感の眼差しを注いでいる。ホームレスが楽しそうだと平山も笑い、ホームレスが苦しそうだと平山も目に涙を浮かべる。

つまりホームレスが平山の感情を代弁している。平山は人混みが苦手、というか人間が苦手、そして物言わぬ樹木が好きということだ。

平山の樹木に対する愛情は樹木を育てている部屋の照明でも分かる。朝でも夜でも常に紫色の淡い光が当たっていて、平山が24時間惜しみない愛情を注いで樹木を育てていることが強調されている。

ちなみに物語の中で紫色の光が当たる対象がもう一つだけある。平山が休日だけ通うスナックがあるが、そのスナックのママがカウンター越しに接客していて、平山に近づいた時だけママの顔に紫色の光が当たる。

平山はあまり感情を表に出さないけど、樹木に対するのと同様に、ママに対しても好意を抱いていることが比喩的に表現されている。

平山が仕事についてきたニコと神社で会話するシーンがある。
平山は(格差が広がったことによって)同じ場所に暮らしながら接点のない別々の世界が生まれたことを説明しているが、この映画で描いている問題はそれだけではない。

格差が長引くと身分が固定化しそこから這い上がれなくなる。
平山とニコが自転車で並んで走るシーンでは、ニコが「海へ行こう」と提案したのに対し、平山は「今度」と言ってお茶を濁す。

「今度っていつ?」とニコが尋ねると、平山は「今度は今度、今は今」と笑って答える。

ニコの「海へ行こう」という言葉は現状を変えられるかどうかというメタファー。
ニコには今すぐ何かを始めて何にでも成れる可能性があるが、平山の方は今の年齢(多分60歳前後)で急に生活を変えることもできないし、転職も現実的に難しい。

つまりニコには無限の可能性があるが、平山には何の可能性も残っていない。平山に「今度」はない。だから「いつ?」と聞かれても答えられない。だがニコは「今」すぐにいくらでも新しいことを始められる。

そんな2人の世界がひとつになることはない。自転車で並んで走っていても、二つの線がひとつになることはない。隣どうし並んでいても全く別世界の住人だという残酷な現実がここで描かれている。

だから妹がニコを迎えに来た時、嫌がるニコの味方をせず帰るように促した。
一緒に暮らすのは無理なこと、自分がニコの面倒を見るのは無理なことをよく分かっていたから。

そして妹とニコを乗せた車が去る間際、俯いて涙を流した。家族なのに一緒にいられない現実が悲しくて悔しかったからだろう。

また格差というテーマは他のエピソードでも描かれている。

たとえば平山の下で働くバイトのタカシが「金がなきゃ恋も出来ない」て台詞を何度も繰り返してたけど、そう思いこんでること自体が問題。

「金がないから何もできない」という考え方は「金がないから何もしない」という考え方につながり、タカシが底辺から抜け出す機会を永遠に奪うことになる。

そしてこういう若い世代が増えると、格差は縮まるどころかますます開いていく。
実際タカシには全く労働意欲がなく、平山に金を借りて恋人の店に遊びに行き、最後は突然バイトを辞めてしまう。

恋人のアヤにしてみれば、金を借りてまで店に遊びに来て欲しくはなかったはず。でもタカシにはそれが分からない。
(障害者に偏見なく接する優しさがある一方で、金にばかり固執して他のことに興味がない)
アヤはそんなタカシが悲しくて平山の前で涙を見せたんだと思う。

物語終盤、スナックのママの元夫である友山と平山が影踏みをして遊ぶシーンがあるが、平山と友山、どちらも名前に山の字がつくのは意図的なものだと思う。

友山は末期ガンで顔色は悪いものの身なりはそこそこ良くて、それなりにいい暮らしをしてることが窺える。(少なくとも平山とは対照的)

そんな友山が平山に投げかけた「ふたつの影が重なると濃くなるか」という問い。
平山は「濃くなる。何も変わらないなんてそんな馬鹿なことあるはずがない」とムキになって答える。

格差や職業差別がなくなってふたつの世界がひとつになれば世の中はもっと良くなるはず。
2人の影踏み遊びにはそんなヴィム・ヴェンダースの願いがこめられているように感じた。

この映画って平山自身があまりにも寡黙で自分の過去を何も語らないから、観客が勝手に想像するしかない。
でも役所広司の演技が上手いので平山の感情がつぶさに伝わってくる。

特にラストシーンで役所広司が見せる涙の芝居には深く胸を刺された。長回しの一人芝居で、それまで抑えてた感情が堰を切ったように溢れ出てくる。
バブル後30年以上に渡って続く格差の中で、底辺から抜け出せなくなった男の悲哀が滲み出ていた。

普段は穏やかに暮らしていても、思うようにならなかった人生に何の後悔もないはずがない。
特に仕事に対する差別は平山とって苦痛だろう。
でもそういう生き方をせざるを得なかった、もしくは他に生き方を選べなかったから、その中でどうにか生きがいを見出し、ささやかな幸せを見つけられた。

平山はそのことに満足し充実した日々を送っている。そういう意味でのパーフェクトデイズ。
(金があれば何でもできるのに。と言ってやる気を失ってるタカシとは対照的)

バブル崩壊後広がった格差、二極化した社会、どんな裕福な人間でも公衆トイレにはお世話になっているのに、清掃員の仕事は蔑んでいる。

迷子の我が子を保護してくれた平山を一瞥するなり、礼も言わずにウェットティッシュで我が子の手を拭いた母親。
兄妹としての愛情を持ちながらもトイレ清掃員というだけで平山を拒絶する妹。

ヴィム・ヴェンダースが日本の社会構造をガチ勉して、社会格差と職業差別をテーマに作った映画。

資本主義の象徴のようなスカイツリーの下で、物言わぬ植物のように無欲で質素な暮らしを続けている平山。その姿は物欲に支配されて人間味を失ってる現代人に対する風刺でもあると思った。

※この映画ってほぼ全編平山の一視点のみで描かれてるけど、一部だけニコの視点で描かれているシーンがある。
平山の仕事が他人の目にどう映っているのか、ニコの視点を通して客観的に描く必要があったからだと思う。

2025/3/4
プライムビデオで鑑賞

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デッキブラシと飛行船

2.5何か起きそうで何も起きない。

2025年3月1日
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鑑賞方法:VOD

単純

知的

何か起きそうで何も起きない・・・。
主人公の高潔とも言えるシンプルな生活を、そのまま切り取った映画。
へたに何か起きるより、後味はよかったような。

ただ、わざわざ見る必要があるかな?と。

華やかな生活を送っている、勝ち組の皆さんが見る分にはいいのかもだけど。

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be_free

3.0見る

2025年2月27日
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気持ちで受け取り方が変わりそう
東京ってオシャレなトイレが多いんですね
最後に役所さんがいう言葉に全て詰まってます

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ビタミン

3.0何よりも感銘を受けたのは

2025年2月24日
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鑑賞方法:VOD

主演男優の引き算の演技と、ヴェンダースならではの東京の撮り方。

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BEERBEAR

4.0朝は笑顔で迎えたい

2025年2月22日
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鑑賞方法:VOD

難しい

幸せ

遅ればせながら妻に勧められ鑑賞。

1960年代のロックに彩られた、
労働者の日常を描いたドキュメンタリー風の映画。

カセットテープ、フィルムカメラを愛し、
スマホはもたない。
これもロックな人生である。

印象的だったのは、
この主人公が、毎日朝は笑顔で迎えていたこと。

そんな人生が送れるといいなぁ

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まーわん

4.010段階で8!

2025年2月22日
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鑑賞方法:VOD

単純

知的

5段階で4!気が付いたら終わってた。若かりし頃なら最後まで見れずに寝落ちしていたかも。柄本ファミリーはうまいな。時生の義姉もうまいけど。

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symi

2.5これ、面白いか? 人生の機微を推し量れ的、芸術風傲慢さに満ちた作品...

2025年2月18日
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鑑賞方法:VOD

これ、面白いか?
人生の機微を推し量れ的、芸術風傲慢さに満ちた作品。
時間が溶ける作品。

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伊藤秀樹

5.0毎日同じ日はない

2025年2月17日
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黙々トイレ掃除の仕事をこなす男。
一日、一日決まった事をする毎日でもその中に色んな出来事が起こる。
毎日の決まった仕事の中にも姪の家出や行きつけの飲み屋のママさんの家庭の事情。
毎日同じ日なんてないんだ。
一日、一日を大切にしないといけないと思った。

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