劇場公開日 2023年12月22日

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PERFECT DAYSのレビュー・感想・評価

全678件中、1~20件目を表示

5.0トーキョーではない東京

2024年7月5日
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驚いた。この映画、スクリーンの向こう側に東京が広がっている。それはTokyoではなく、ましてやトーキョーでもない、誤魔化しのない東京だ。長年東京の下町に暮らした私がそう感じたのは劇中の距離感が現実的だったからではないだろうか。
映画館を出て直ぐ様スマホで地図を検索、主人公・平山の暮らす古いアパートを探し出す。更に狭い路地を歩き廻り隅田川に架かる橋を渡って彼の通う銭湯や浅草地下街の飲み屋にも足を延してみた。この行動、もしやただのロケ地巡りなのかもしれない。だとしたら中年が1人でなんだかもの悲しい。でも私はそうせずにいられなかった。
そこで気がついたのはスクリーンに流れるひとつひとつの場面が街のイイトコドリをしてチグハグに繋ぎ合わせたものではないと言う事。平山が自転車を漕ぎ馴染みの場所に辿り着くまでの景色と距離をありのままに映し出してくれている。
トーキョーでなく東京、どうしてそんな事に驚くのかと尋ねる人もいるだろう。私はこんな風に応えたい。「この映画を撮ったのは異国の人なのだよ」と。偏見だと叱られるかもしれないが東京がトーキョーになりうる可能性だってあったはず。だからこそ私はこの映画を撮ったヴェンダース監督に伝えたい。
「私のよく知る愛すべき東京を撮ってくれて、ありがとう」と。
ヴェンダース監督にこの気持ちが届く事は決してないだろうが、私はただただ、そう伝えたいのである。

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ychiren

2.5全てをもった人のPERFECT DAYS

2024年4月19日
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ヴィム・ヴェンダース監督作品。

30年後の自分をみているような感じだったな…全然ありえる。
ただ「こんなふうに生きていけたなら」と思うぐらいがちょうどよくて、実際にそう生きたら「完璧」なんて思えない。トイレは汚いし、ずっとはいられない。「木漏れ日」に美しさなんて感じない。ヴィム・ヴェンダースが日本を美しいと感じることと同じだと思う。遠い異国を旅行するぐらいが一番美しく感じるんですよ。現にヴェンダースは日本で暮らしてはいない。だからリアリズムではなく、全てをもった(have it all)人の憧憬やノスタルジーとしての「Perfect days」とみるほうがいいと思う。ただ本作が、オリエンタリズムな眼差しで「美しさ」を撮ったとも言いづらいから全否定するのが難しい。「ニホン凄い論」とは全く違う、ヴェンダースの眼差しで現れる「美しさ」。けれどそれもまた別様のオリエンタリズムのような気もするし…いいとは思うんですね…。ただやはり、質素を楽しめるのは富裕者だけだと思うし、「こんなふうに生きろ」と言うなら便所掃除を仕事にしてからいってくれ。

生活に根ざした清貧さを主題にした映画は、何だか批判できない構造に陥っている。
清貧さを理想化し過ぎているとか社会構造に目を向けていないと批判すると、反論が起こる。「お前は清貧さの尊さに気づいてないし、鈍感であれるほど裕福で映画という『芸術』を何も分かっていない禄でもない奴だ」と。〈あなた〉と清貧さの距離の遠さの反論。真っ当のように思える。これが批判できない構造だ。けれど実はそのように反論する人ほど清貧さから最も距離の遠い人だ。だからこそ貧しい者が貧しいままで階級上昇ができず、それ故、貧しいことを美化しようとする富裕者の傲慢さがとても鼻につくのだ。

本作の出資者や宣伝者は、「こんなふうに生きているの?」。そんな疑問の答えは、渋谷のスクランブル交差点に節度もなくでかでかと広告を出している時点でお察しである。そしてこういった態度は「俗にいうつまらない邦画一般」にも言えることだと思う。

人生は何も解決しない。分かり合える家族をもつことはできないし、世界をひっくり返す仕事もできない。だからかりそめの他者と親しくなって貧しいけれど清い生活の美しさを噛み締めればいいのだ。そんな未来のないノスタルジーを抱えるのは、私が78歳のおじいちゃんになってからでよくて、今は未来のあるノスタルジーを信念に生きていたいです。

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まぬままおま

5.0「足るを知る」人生こそが最強

2024年2月13日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

幸せ

観終わって思うのは、「足るを知る」人生こそが、最強なのだということ。「満足することを知っている人は、たとえ貧しかったとしても精神的には豊かで、幸福であるものだ」という意味の言葉です。役所広司さんが務めた主人公ヒラヤマの人生は正にこれでした。
立派とはいえないが、清掃の行き届いた一人暮らしには十分な広さの家。
かっこいいとはいえないが、後輩から尊敬され誇りを持って続けている仕事。
たくさんとはいえないが、数少なくとも日々の日常を彩ってくれる知人たち(行きつけの居酒屋の店長、行きつけの古本屋の店主、行きつけのバーのママなど)
大きな喜びとはいい難いが、朝の缶コーヒー、仕事終わりにの一杯、毎晩寝る前の読書、観葉植物たちの水やり、週末の行きつけバーでのひととき、毎日のお昼休みの木漏れ日の撮影などなど、ヒラヤマを幸せにするささやかな喜びたちがたくさん登場する。幸せとは、なにも特別な日を飾る赤いバラである必要はないのだと思わせてくれる。
ないものをいつまでも欲しがってダダをこねたり、不必要な人間関係に疲弊して自分をすり減らしている現代社会に生きる人たちとは、ある意味別次元で生きているヒラヤマの生き様は尊くすら見えてくる。
全ての人がこんなふうに生きられるとは思えないが、幸せの根本とは、こういうことなんじゃないかと思わせてくれた作品。
心からとてもいい映画を観たと、他人に言いたくなるとても素晴らしい映画でした。

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ななやお

4.0「ふつう」という事

2024年1月12日
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悲しい

怖い

難しい

とくに何も起きないです。いや、嘘です。嘘というか、語弊のある言い方でした。
「映画」という娯楽において、「展開」という意味で「何も起きない」です。
生きる限り、なにかしら起きているのが世の常。小さな悩みや失敗だったり、しあわせな出会いだったり大きな成功だったり、それは人によって一大事になったり、他愛のないことだったりするけど、大小は関係ない。はたまた、それへの対処の仕方も、人それぞれ違います。
本作は、何事においても「後悔のないように」たんたんと生きなさい、と諭しているに感じました。一所懸命でも真面目にしていても、失敗することはあるだろうし、他からもたらされる予期せぬ出来事や、病気や事故・事件、自然災害、避けられない不幸というものがあると思う。
そういうのも含めて、人生だから。後悔のないように、真摯に生きましょう。出来れば笑顔になれる自分でいなさい、どうしたって生きなきゃならないんだからね。そんなことを言ってる作品に感じました。
ふつうって、そういうことと思います。ふつうって、難しいですよね。

観たかった作品が通う劇場に無かったので、気になっていたこちらを観賞しました。
すごく良い作品だと思うけど、エンタメ作品が好きな自分にとっては失敗、、。観賞後、説教されたような気分になってモヤモヤしました。そしてすごく悔しい気持ちになっています。こういう衝動に駆られるのは、良い作品に出会えたとき。そこもまた悔しい。。

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くまの

4.0スマホで下向いてばかりだと、木漏れ日に気づくこともできない

2023年12月23日
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楽しい

知的

幸せ

近所の人が道を掃く音が目覚まし代わり。布団を畳んで隅に置き、隣の部屋で育てている鉢植えたちに霧吹きで水遣り。狭い階段を降り、狭い台所で歯磨きを済ます。髭を鋏と電気カミソリで整え、玄関に並べている持ち物を順番にポケットにしまいドアを開けてボロ屋の表へ。そこで空を見上げて微笑む。駐車スペースの横にある自販機でBOSSのカフェオレを買い、仕事道具を積んだ軽バンに乗り込む。本日のカセットを選び、シートベルトを締めて出発。早朝の東京の道路とカセットから流れる洋楽が合う。

担当する1件目の公衆トイレに到着。荷物を持って車を降り、「清掃中」の看板を立てて作業開始。まずゴミ拾いをクイックにおこない、便座、手洗い場と順に掃除していく。鏡をつかって裏側の汚れも確認。便器の中も拭き上げる。バケツに水をはり絞ったモップで床掃除。トイレのドアや取っ手も丹念に拭き上げる。これを何か所か移動しておこなう。

昼はルート上にある神社でサンドイッチ。大木の木漏れ日をフィルムカメラに収める。
清掃がすべて終わると自宅へ戻り、すぐに着替えて自転車に乗って銭湯へ。たっぷりのお湯に顔まで沈める。さっぱりして脱衣所で相撲を見ながら火照りを冷やす。帰りに自転車で地下にある大衆居酒屋に。ビールとつまみを頼み、TVから流れるプロ野球をみながら簡単な夕食。千円とちょっとを払い、自宅へ戻る。布団に入って休日に古本屋で買った幸田文やパトリシア・ハイスミスの本を電気スタンドの灯りで読みながら、うとうとして入眠。そして、朝がきて、また道を掃く音で目覚める。。。

仕事が休みの日は「フィルムを現像に出す&受け取り」「焼きあがった写真の選別」「コインランドリー」「古本屋で本を吟味」「ちょっと贅沢して小料理屋へ」になる。

慎ましいけれど、とても幸福で豊かな日々。(まさにPERFECT DAYS。)
自分に与えられた仕事・社会への貢献を全うし、充実感をもって銭湯とビールで労う。
植物を育て、様々なジャンルの古本で知的好奇心も満たし、音楽も楽しむことができる。木漏れ日や空をちゃんと感じることもできる。。何より木漏れ日に気づけるということは、うつむかずに上を見上げているということ。「上を見上げる」というのは気が良くなるよ。自分も見習おう。

高級車とタワマンをローンで買い、企画やプロジェクトやら1日で区切れない仕事にあくせくして達成感もなく、スマホのために下を向いてばかりで木漏れ日に気づくこともできない。肥大化して、余裕を失った日々。。
何のための人生か?何のために働いているのか?本当に幸せなことは何か?
忘れていたものを再度気づかせてくれた映画。
思わず笑みがこぼれる一服の清涼剤のような映画。

※関東平野の朝焼け。壮観な広大さ。綺麗。
※フィルムカメラ、現像、カセットテープ、ラジカセ、ガラケー、アナログ文化が滅茶苦茶かっこいい! スマホがない生活、いい。豊かだ。
※若い娘を銭湯に連れてきた平山を見た、銭湯の常連たちが微笑ましい。
※石川さゆりの小料理屋。絶対通うよ! むっちゃ似合う。歌うますぎ。(当たり前か。)
 「ギターでちゃったかあ~。」たまらん!
※三浦友和とのやりとり微笑ましかった。何も変わらなかった、意味はなかったなんてことはない。影は濃くなっている! (大人のオッサン二人の影踏み、微笑ましい)
「謝りたいではちょっと違う。会っておきたくなった。」この思い、なんとなく分かる。
※1日のルーティン。でもいつも同じ日ばかりではない。色々ある。
※家の戸締りをしないのは気になるよ。
※一緒に働いている若者のタカ、いい加減なやつかと思ったら性根の優しい面も。こりゃ憎めないわ。
※浅草の下町、いいわー。スカイツリーがいつも見える町。紫や赤の電気がまた似合う。
※トイレ掃除の格好をしていても、雨合羽を着ていてもカッコ良くなってしまう役所広司。
※色んな公衆トイレあるんだなあ。ドアが透明から色付きに変化するトイレには驚いた。

下記の涙の意味は大事に考えたい。
・軽バンの中でのアヤの涙
・平山の妹と、妹と別れるときの平山の涙。
・最後のシーン。車のハンドルを握りながら涙ぐむ平山の涙。(ここ名演だった。)

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momokichi

5.02023年末に日本で公開された、2023年公開作品で最高峰の「世界的に評価されるべき奇跡的な作品」!

2024年1月20日
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本作で主演の役所広司が2023年・カンヌ国際映画祭で「男優賞」を受賞したのは十分に納得できます。
本作の主人公は普通に話すことができるのに、基本、話さずに表情やしぐさで訴え掛ける物静かな人物。
それもあり、役所広司の演技力が極めて自然な形で国境を超えるレベルにまで発揮されていています。
2006年・カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した「バベル」で、話すことができない役の菊地凛子が、アカデミー賞の「助演女優賞」にノミネートされたのと似た構造を感じます。

東京の公衆トイレをクリエイティブに改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に関連した映像化の話にドイツのビム・ベンダース監督が賛同する奇跡的な動きが生まれ、トイレの清掃員の日常を描き出す流れで「トイレ清掃員のプロフェッショナルな平山」に命が宿りました。
赤いライトを中心に独自性のある自然なライティングによって、より深みのある映像に仕上っているのも重要な要素ですが、何といってもエグゼクティブプロデューサーも務める役所広司の存在感が最大のカギだと感じます。
リハーサルを一切せずにドキュメンタリー映画の如くいきなり本番という最も効率的で役者力が試される現場で、わずか16日の撮影で「最高峰の映画」が完成するという奇跡が起こりました。
世界の人たちが本作を見れば、日本に関心を持って「平山に会いに日本を訪れる」など日本経済にも効果をもたらすことでしょう。
ちなみに、平山が毎日飲んでいる缶コーヒーは、やはりアレなのですね(笑)。

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細野真宏

4.5これほど説教臭くなく、生き方や価値観を静かに揺さぶる映画は久しぶり

2023年12月31日
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日本でこのような作品が生まれるのは驚きであり喜びだ。主人公の平山は無口であまり言葉を発しない。だがその分、彼の生き様は、朝起きてから夜の微睡に包まれるまでの一挙手一投足でもって、観る者の心に深く染み入っていく。彼は決して世捨て人ではない。無心になって仕事をこなし、瞳には優しさと温かさが宿り、彼なりのやり方で物事を無駄なく楽しみ・・・そうやって築かれた最小限の日常で、すべてを大切に受け止め、決して悔いを残さない。こんな暮らしに少なからず憧憬の思いが込み上げるのは、我々が何事も過多な現代社会で多くのものを取りこぼし、後悔を感じて生きているからだろう。トイレから人々を見つめる平山の姿はどこかヴェンダース映画における天使のよう。と同時に、日々を真っ新な気持ちで生きようとするその姿は、人生という旅路をひたすら歩み続ける、これまたヴェンダース作品特有のロードムービーの主人公のように思えてならなかった。

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牛津厚信

4.5街の息づかいを撮った作品

2023年12月31日
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鑑賞方法:映画館

寡黙なトイレの清掃員の日々を美しく撮っている。渋谷のデザイン・トイレのパブリックリレーションの役目を負った作品であるが、トイレの先進的なデザイン性とその清掃員の住む古い木造アパートは対照的である。しかし、ヴェンダースは新しいものを良く見せているわけでも、古いものをみすぼらしく見せるでもなかった。むしろ、新旧のものが共存している東京の街並みに関心を寄せている。カセットテープの音楽を聴き、フィルムのカメラを趣味とする役所広司演じる主人公は、古いもの代表なわけだが、周囲の新世代に振り回されながらもなんとなく共存していく。東京という街は、近代的なものと古いものが混在している場所として多くの海外旅行者にも認識されているのだが、そういう目線がここにはある。しかし、旅行者目線とは異なる視線でそれを成立させていることにこの作品の美点があるだろう。街を撮るというのはなかなか難しいことで、そこに生きる人の息づかいみたいなものがないといけない。この映画はそれが感じられる。

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杉本穂高

4.5“日常”の有難さを知った2020年代に響く人間賛歌

2023年12月22日
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鑑賞方法:試写会

泣ける

知的

幸せ

昨日と今日、そして明日もだいたい同じ一日が繰り返される。当たり前だったそんな日常が、コロナ禍で一変した。職場や学校に通い、人に会って話をし、店で飲み食いする、そんな普通のことでさえも困難になったあの時期を経て、日常の有難さが世界中で認識された今、この「PERFECT DAYS」が世に出るのはまさに完璧なタイミングだ。

成立過程はかなりユニーク。2018年に「THE TOKYO TOILET」プロジェクトがスタートし、渋谷区内17カ所に著名な建築家やクリエイターらが設計した公共トイレが順次設置された。そのPRの一環としてまず短編映画の企画が立ち上がり、役所広司とドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースの参加が決まってから長編劇映画として再構想されたという(おおよその経緯はWikipediaの「THE TOKYO TOILET」と「PERFECT DAYS」の項で確認できる)。

小津安二郎への敬愛をドキュメンタリー「東京画」で示したヴェンダース監督らしく、本作の主人公であるトイレ清掃員の平山は実直で心優しく日常を大切に生きる男で、物語はさほど大きな事件が起きることもなく淡々と進む。近所の老婆が通りを竹ぼうきで掃く音で目覚め、仕事道具を積んだ車で担当する渋谷区の公衆トイレに向かい、丁寧に便器や手洗い場や床を清掃する。樹木を好み、木漏れ日をフィルムのカメラに収め、銭湯に通い、馴染みの飲み屋に寄り、文庫本を読んで寝落ちする。そこには、平山というひとりの人間の生きざまをそっと見守り讃える温かなまなざしが確かに感じられる。

寡黙な平山の心情を代弁するかのように、彼がカーステレオや自室のラジカセで流すカセットテープの60~70年代の洋楽が、夜明けと朝日の美しさ、一日の始まりの高揚や感謝、日曜の午後の気分などを歌い上げる。どの曲もシーンに合っているが、とりわけラスト近くで流れるニーナ・シモンの「Feeling Good」と役所広司の表情の相乗効果が抜群で、ヴェンダース作品としてだけでなく邦画史においても屈指の名場面として大勢の観客の心に残るはずだ。

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高森 郁哉

4.5役所広司が差し出す新たな引き出し

2023年12月22日
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鑑賞方法:試写会

悲しい

幸せ

毎朝、木造アパートの一室に敷いた布団から起き上がり、植木に水をやり、自販機でコーヒーを買って飲み、トイレ清掃に向かう男。平山というその男性の日々のルーティンが、関わる人々とのやり取りによって微妙に揺れ、それでも基本型はキープしたまま進んでいく。

なんとミニマムで上手い構成かと恐れ入る。与えられる情報の積み重ねによって、平山の背景が垣間見えて来るのだ。なぜ、彼はアパートに一人暮らしなのか、なぜ、トイレ清掃員なのか、という疑問が、本当に微かではあるが、腑に落ちて、ビム・ベンダースの脚本と演出の妙に心を奪われてしまった。

世界的な建築家たちが携わった東京・渋谷にある17のおしゃれトイレが舞台というのも上手いと思う。しかし何よりも、平山を演じる役所広司の、人を遠ざけず、かと言って近づけず、日々の生活を存分に楽しんでいるようで、実は心の底には深い悲しみを湛えている、ハッピーでアンハッピーな表情と演技が凄くてまいる。ベンダース演出の下、彼はまた新たな引き出しを差し出してきた。

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清藤秀人

4.0映画の光と影、孤独=自由を享受する

2023年12月20日
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鑑賞方法:試写会

泣ける

萌える

 役所広司が演じる平山は寡黙な男であり、規則正しく、ルーティンをこなす。毎朝植木に水をやり、仕事を終えると銭湯に行き、居酒屋で酒を飲み、部屋では古本を読みながら寝落ちするのもその一つ。極力他人と関わらないことで“孤独”であることを忘れようとしているのかもしれませんが、“孤独”=自由を享受しているようにも見えます。

 50歳をゆうに過ぎているであろう男が、なぜアパートで一人暮らしをして、清掃員の仕事を黙々としているのでしょうか。その研ぎ澄まされたような姿は悟りに至った僧侶のようにも見えます。

 でも、そんな彼が見ている世界、ふとした時に向ける視線の先には木々や光が溢れているのです。朝日、木漏れ日、夕日、街並みや公園、トイレ、運転中の車のフロントガラスなどの光の屈折や反射。ヴィム・ヴェンダース監督の過去作品を見ていれば、ここに過去のシーンを重ね、敬愛する小津安二郎監督作品の面影も感じ取ることができるのではないでしょうか。

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和田隆

4.0Snapshot of Today's Tokyo

2023年11月22日
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Wim Wenders' slice of life drama about a toilet janitor in Shibuya shows an appreciation for one the city's most prestigous whilst undervalued services. The act of toilet cleaning gets a lot of screentime while showing off the city's rich assortment of commode architecture. Lighthearted and at times cheesey, the mystery behind Koji's cleaner's past is left to interpretation upon veiled sadness.

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Dan Knighton

3.5いつもと変わらぬ何気ない日常。その中にふと身を潜める楽しみ、幸福。...

2024年12月27日
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いつもと変わらぬ何気ない日常。その中にふと身を潜める楽しみ、幸福。そんなのを描いた作品かと…
が、そんな何気ない日常にもやはり日々の些細な変化がある。そんな変化をどう感じて過ごすのか。嫌がるのか、楽しむのか。

私も主人公のように、日々を大事に愛おしく、そこに何が起ころうともそれを受け入れ楽しみ生きていきたい。
どんどん残りが限られていく人生、生ききる。

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はむひろみ

4.5パーフェクトな生活に思えてくる不思議

2024年12月27日
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 主人公は、都内の公衆トイレ清楚人の中年男性。アパートで一人暮らし。毎日の食事は、昼に公園で食べるサンドイッチと晩御飯は焼きそばとビール。仕事終わりの午後の早い時間に銭湯に行く。週末には、小料理屋に行く。趣味は、読書とフィルム写真による風景撮影。この彼の日常生活がずっと繰り返されていく映画。
 こう文字にしてみると、この映画の何が面白いのかまったくわからなくなる。でも、2時間以上の短くない上映時間の間、飽きることがない。そしてラストには、この主人公の社会からドロップアウトしたような日常生活が、羨ましくも思えて、たしかにパーフェクトデイズだよなぁ、という想いが心に満ちる。
 ヴィム・ヴェンダースのマジックみたいな映画。

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Toninu

4.5斬新な表現

2024年12月26日
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鑑賞方法:VOD

これがドイツ人監督の作品だと知って驚いた。
相変わらず自分の無知さに笑ってしまう。
その独特の表現方法には、普遍的な人間の感情と変化というものが描き出されている。
ただ、
数々の物語はあるものの、それらの一瞬を切り抜いたに過ぎず、主役の平山の物語でさえも、その一部分が切り取られているに過ぎない。
人との出会いは、インパクトがあればそれだけ記憶に残りやすいが、それがその瞬間だけということもある。
強烈な出会いによってある程度の期間一緒に過ごすことになっても、死ぬときは一人になるし、事情があって別れてしまうことは、この世の常だ。
この世界は同じに見えて絶えず変化しているのだというのが、この作品のテーマなのかもしれない。
平山が休日に飲みに行く先の女将と元夫
余命宣告と、どうしてももう一度だけ会っておきたかった元妻への思いは、彼にしかわからない。
しかし、
そんなことのいくつかが、自分の人生にもあるということは誰にでもあることで、その感覚を共有した時に、平山のように人は気づきを得て優しくなるのかもしれない。
さて、
妹の娘ニコは、なぜ平山を訪ねてきたのだろう?
彼女は平山の事情を知っていると思われる。
彼女の住む世界
少なくとも裕福で、恵まれているはずだ。
それでも家出をしたのには、家の事情があり、その事情故に家を出た平山の気持ちがニコにはわかる気がしたのだろう。
その貧乏で清掃員という仕事に身を置くことで、ニコは今後の自分の人生をシミュレーションしてみたのかもしれない。
ニコは昔平山からもらったバカちょんカメラを持って家出をした。
それは、当時の平山と今の平山は同じなのかそれとも違ってしまったのかというのを確かめたかったのだろう。
良かったのか、後悔しているのか? ここが彼女の視点だったように思う。
今でもバカちょんカメラで木を撮っているおじさんを見て、カメラをくれたときのシチュエーションを憶えているはずがないと言ったのは、あの時とちっとも変っていないおじさんを、とても信じられなかったからだろうか?
そもそも彼女を憶えているはずがないと考えたはずで、カメラを見せれば思い出すかもしれないと考えて持ってきたと思われる。
平山が何も変わっていなかったことは、ニコにとっての安心感と同時に、ひどく怖くなったのではないだろうか?
妹が訪ねてきた際、平山と父と確執があることがわかるが、その確執さえも変えられないおじさんに対し、ニコは彼女なりに思うことがあったのだろう。
だから素直に荷物を取って車に乗ったのだ。
このことについて古本屋の店主は「恐怖と不安は別物」と言ったのだろう。
おそらく不安が最初に起きることで、それが余計な憶測を交えたときに恐怖になるのだろう。
監督はこのパトリシアの本を読めと言っているのだ。
そしてニコはこの不安と恐怖が一緒になってしまった状態を迎えることになるが、それは誰にでも起きることで、これが彼女の成長点、つまり人生の伏線になっていくのだろう。
その本を読もうとする平山は、ようやくその事に気づき始めたということだ。
それが三浦友和さん演じた元夫の影の話と重なる。
平山は、清掃員の仕事を始めてから、ほぼほぼ毎日変わらないローテーションで生きている。
その世界は一般人とはまた少し違う世界だが、一般人から弾かれた人々とは微妙に接点があるのだ。
毎日たった一人公園でお昼を食べる女性
てぐちゃん
アヤ
特にアヤはいわゆる一般からはみ出しそうになっている女性で、だから彼女の世界にはないカセットテープのような年代物に憧れを抱くのかもしれない。
アヤはギャルというのか、今どきの格好をしているが、おそらく孤独だ。
他人からはレッテル眼鏡で見られ、同世代とは感覚が合わない。
カセットの曲がどれだけ彼女を慰めたのかはわからないが、1970年代ごろに触れたことで、彼女は少し勇気づけられたのだろう。
そして紙に書いた〇×ゲームも、誰かとの接点
平山の就寝と重なるモノクロ映像は、今日一日の出来事などが夢となって表れているようだ。
今日一日
また今日一日
そのローテーションは変わらないが、同じ出来事などない。
平山自身も、一瞬たりとも立ち止まってなどいない。
それはまるで「木」と同じなのだろう。
毎日が同じ中でも毎日違う。
「何も変わらないなんて、そんな馬鹿なことないですよ」
平山は自分の言った言葉に自分自身が驚きと気づきを得たのだ。
それが最後の映像へとつながっていく。
気づきの喜びの笑み
それが次第に涙に変化する。
カセットから聞こえるのは、New me/New day/New world/bad world…
平山の涙は、自分の人生は決して間違ってなどいなかったという感じだろうか。
木と自分と元夫の男、そして出会った人々とが重なり合い、影が濃くなっていく。
自分も一つの影であり、一つの濃さを作り出している。
平山はきっとそう思って涙を流したのだろう。
表現方法が独特なので解釈も難しいが、人生の一瞬一瞬の貴重さと、人の表面上の認識、そして背後に広がっている実際の奥深さと重なりに気づけと、監督は言いたいのだろう。
中々考えさせられる作品だった。

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R41

3.0なんにも変わんないなんて、そんなバカな話無いですよ

2024年12月24日
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知的

淡々と過ぎゆく平山の日常。
変わらない毎日をこなして行く日々。
毎日々々影を重ね続ける。

そんな積み重ねが尊い、なんて誰も言ってないのだが、ソレが善行の様に映る。
難しい所業ではあるだろうけど、憧れはしない氣がする。
穏やかに流れる空気感には、うっとりさせられるが、永続的では無いからイイんじゃないか?

音楽的には、コレが劇場の音響だったら、評価が変わったかも…とは思う。

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奇妙鳥

4.5タイトルなし

2024年12月24日
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鑑賞方法:VOD

泣ける

知的

小さな幸せは見つかる

見ていないだけ

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いのしし

3.0この映画のオーディエンススコアがなぜこれほどまでに高いのか、 自分にはわからないが、 役所広司という役者の演じる人物の好感度に大いに関係があると思っている。

2024年12月22日
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鑑賞方法:VOD

単純

動画配信で映画「PERFECT DAYS」を見た。

2023年製作/124分/G/日本
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2023年12月22日

役所広司(平山)
柄本時生
中野有紗
アオイヤマダ
麻生祐未
石川さゆり
田中泯
三浦友和
研ナオコ

平山は渋谷区のトイレの清掃員。

朝起きると、歯を磨き、ヒゲを整える。
草に水を遣る。

アパートの1階の部屋から出ると、
家の前にある自動販売機から缶コーヒー「BOSS」を1本買って飲む。

青い塗色のダイハツ・ハイゼットに乗り込むと仕事に向かう。
青いハイゼットは珍しいと思う。
ほとんどのハイゼットは白かシルバーだろう。

このての車を買う場合、
ダイハツ・ハイゼットとスズキ・エブリイの2択で
大いに迷う人が多いと思う。

自分もそうだった。
どちらの車にも捨てがたい魅力がある。

トイレを掃除し続ける平山。
セリフはほとんどない。

この映画の最初のセリフは平山の同僚(柄本時生)のもので、
開映から28分後くらいだったと思う。

仕事を終えた平山は家に帰り、
自転車で銭湯に向かう。

10数分で入浴を終えた平山は銭湯のテレビで大相撲を見る。

銭湯を後にして、駅にある居酒屋に入る。

そこで一杯やりながらプロ野球中継を見る。

家に帰ると、文庫本を読む。

就寝の時間になると眠りにつく。

これが平山の平日の1日のサイクルである。

平山という人は間違いなく善良でいい人だろう。
しかし結婚はしていない。
子どももいない。

休日には、平山はコインランドリーで、

つなぎの制服などを洗い、
古本屋で文庫本を1冊買い、

いきつけのスナックで1杯やる。

家に帰ると本を読む。

就寝時間になると眠りにつく。

この映画はひょっとして何も事件や大きな出来事は
起こらないんじゃないかと危惧した。

だいたいその通りだった。

同僚が突然やめたり、

家出をした姪が訪ねてきたり、

その姪を妹(麻生祐未)が迎えに来たりしたが、

ほとんど何も起こらない平山の日常を
淡々と描く映画だった。

ビム・ベンダース監督といえば、
「パリ、テキサス」などで著名な人物だが、
その作品を見たことは一度もなかった。

「台北の朝、僕は恋をする」という映画は見てみたい気がする。

この映画のオーディエンススコアがなぜこれほどまでに高いのか、

自分にはわからないが、

役所広司という役者の演じる人物の好感度に大いに関係があると思っている。

満足度は5点満点で3点☆☆☆です。

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ドン・チャック

4.5遠くに行った我が父に思い馳せる

2024年12月22日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

難しい

ヒラヤマの姿と生活ぶりは、今年2月に亡くなった私の父親を思い出しました。彼は妻(私の母)を早くに亡くした後は一人暮らしでした。生家は小さく古い家で、私はあまり好きではなく早々に都会に出ました。

ずっと遠く離れて暮らしていたので、一人暮らしの彼が何を楽しみに毎日暮らしていたのかわかりませんでした。いつか質問したいと思っていたが、なかなか私は帰郷しませんでした。そんな中に彼は脳卒中で倒れてしまって言葉を発せなくなり、そのまま息を引き取ってしまいました。

遺品整理すると、彼(父親)のPCとスマホから大量の草花の写真が出てきました。
それでも私はわからなかった。彼が幸せだったのかどうかを。

この映画を見て、父親の過ごしたであろう日々に私は少しだけ思いをはせることができました。だから草花の写真をたくさん撮っていたのだろうかと。

しかし、まだ私にはわからない。この映画を見ても解決はしていない。
父親が幸せに暮らし、死において後悔したのか否かを。ずっと心に引っ掛かっています。
映画のラストシーンでは、新しい人生が毎朝始まるという曲に包まれる、ヒラヤマの表情からは両方に読み取れました。だから、わからなかった。

ただ、幸せだったのかどうかはわからないけど、毎日しっかりと生きる、Perfect daysだったのだろうとは思えました。

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申酉

3.0プライムビデオで見ました

2024年12月22日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

難しい

幸せ

大体のストーリーが分かっていたのと、そのうちプライムビデオかネットフリックスで見られるようになるだろうという理由で映画館上映時はスキップしましたが、今日気がついたらプライムビデオで見られるようになっていました。話題作でしたので見ました。
ポツポツとエピソードをつないで、でも全体を見てねという「詩」のような作りの映画ですが、直ぐに退屈になってしまい、何回かに区切って見終わりました。こういう映画を作りたかったんでしょうね。それは分かります。
ラストシーンの涙は分かるのですが、妹と別れた後の涙は悔恨の涙だったのか、私の理解を超えていました。

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C.B.