劇場公開日 2023年12月22日

PERFECT DAYSのレビュー・感想・評価

全665件中、1~20件目を表示

5.0トーキョーではない東京

2024年7月5日
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驚いた。この映画、スクリーンの向こう側に東京が広がっている。それはTokyoではなく、ましてやトーキョーでもない、誤魔化しのない東京だ。長年東京の下町に暮らした私がそう感じたのは劇中の距離感が現実的だったからではないだろうか。
映画館を出て直ぐ様スマホで地図を検索、主人公・平山の暮らす古いアパートを探し出す。更に狭い路地を歩き廻り隅田川に架かる橋を渡って彼の通う銭湯や浅草地下街の飲み屋にも足を延してみた。この行動、もしやただのロケ地巡りなのかもしれない。だとしたら中年が1人でなんだかもの悲しい。でも私はそうせずにいられなかった。
そこで気がついたのはスクリーンに流れるひとつひとつの場面が街のイイトコドリをしてチグハグに繋ぎ合わせたものではないと言う事。平山が自転車を漕ぎ馴染みの場所に辿り着くまでの景色と距離をありのままに映し出してくれている。
トーキョーでなく東京、どうしてそんな事に驚くのかと尋ねる人もいるだろう。私はこんな風に応えたい。「この映画を撮ったのは異国の人なのだよ」と。偏見だと叱られるかもしれないが東京がトーキョーになりうる可能性だってあったはず。だからこそ私はこの映画を撮ったヴェンダース監督に伝えたい。
「私のよく知る愛すべき東京を撮ってくれて、ありがとう」と。
ヴェンダース監督にこの気持ちが届く事は決してないだろうが、私はただただ、そう伝えたいのである。

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ychiren

2.5全てをもった人のPERFECT DAYS

2024年4月19日
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鑑賞方法:映画館

ヴィム・ヴェンダース監督作品。

30年後の自分をみているような感じだったな…全然ありえる。
ただ「こんなふうに生きていけたなら」と思うぐらいがちょうどよくて、実際にそう生きたら「完璧」なんて思えない。トイレは汚いし、ずっとはいられない。「木漏れ日」に美しさなんて感じない。ヴィム・ヴェンダースが日本を美しいと感じることと同じだと思う。遠い異国を旅行するぐらいが一番美しく感じるんですよ。現にヴェンダースは日本で暮らしてはいない。だからリアリズムではなく、全てをもった(have it all)人の憧憬やノスタルジーとしての「Perfect days」とみるほうがいいと思う。ただ本作が、オリエンタリズムな眼差しで「美しさ」を撮ったとも言いづらいから全否定するのが難しい。「ニホン凄い論」とは全く違う、ヴェンダースの眼差しで現れる「美しさ」。けれどそれもまた別様のオリエンタリズムのような気もするし…いいとは思うんですね…。ただやはり、質素を楽しめるのは富裕者だけだと思うし、「こんなふうに生きろ」と言うなら便所掃除を仕事にしてからいってくれ。

生活に根ざした清貧さを主題にした映画は、何だか批判できない構造に陥っている。
清貧さを理想化し過ぎているとか社会構造に目を向けていないと批判すると、反論が起こる。「お前は清貧さの尊さに気づいてないし、鈍感であれるほど裕福で映画という『芸術』を何も分かっていない禄でもない奴だ」と。〈あなた〉と清貧さの距離の遠さの反論。真っ当のように思える。これが批判できない構造だ。けれど実はそのように反論する人ほど清貧さから最も距離の遠い人だ。だからこそ貧しい者が貧しいままで階級上昇ができず、それ故、貧しいことを美化しようとする富裕者の傲慢さがとても鼻につくのだ。

本作の出資者や宣伝者は、「こんなふうに生きているの?」。そんな疑問の答えは、渋谷のスクランブル交差点に節度もなくでかでかと広告を出している時点でお察しである。そしてこういった態度は「俗にいうつまらない邦画一般」にも言えることだと思う。

人生は何も解決しない。分かり合える家族をもつことはできないし、世界をひっくり返す仕事もできない。だからかりそめの他者と親しくなって貧しいけれど清い生活の美しさを噛み締めればいいのだ。そんな未来のないノスタルジーを抱えるのは、私が78歳のおじいちゃんになってからでよくて、今は未来のあるノスタルジーを信念に生きていたいです。

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まぬままおま

5.0「足るを知る」人生こそが最強

2024年2月13日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

幸せ

観終わって思うのは、「足るを知る」人生こそが、最強なのだということ。「満足することを知っている人は、たとえ貧しかったとしても精神的には豊かで、幸福であるものだ」という意味の言葉です。役所広司さんが務めた主人公ヒラヤマの人生は正にこれでした。
立派とはいえないが、清掃の行き届いた一人暮らしには十分な広さの家。
かっこいいとはいえないが、後輩から尊敬され誇りを持って続けている仕事。
たくさんとはいえないが、数少なくとも日々の日常を彩ってくれる知人たち(行きつけの居酒屋の店長、行きつけの古本屋の店主、行きつけのバーのママなど)
大きな喜びとはいい難いが、朝の缶コーヒー、仕事終わりにの一杯、毎晩寝る前の読書、観葉植物たちの水やり、週末の行きつけバーでのひととき、毎日のお昼休みの木漏れ日の撮影などなど、ヒラヤマを幸せにするささやかな喜びたちがたくさん登場する。幸せとは、なにも特別な日を飾る赤いバラである必要はないのだと思わせてくれる。
ないものをいつまでも欲しがってダダをこねたり、不必要な人間関係に疲弊して自分をすり減らしている現代社会に生きる人たちとは、ある意味別次元で生きているヒラヤマの生き様は尊くすら見えてくる。
全ての人がこんなふうに生きられるとは思えないが、幸せの根本とは、こういうことなんじゃないかと思わせてくれた作品。
心からとてもいい映画を観たと、他人に言いたくなるとても素晴らしい映画でした。

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ななやお

4.0「ふつう」という事

2024年1月12日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

難しい

とくに何も起きないです。いや、嘘です。嘘というか、語弊のある言い方でした。
「映画」という娯楽において、「展開」という意味で「何も起きない」です。
生きる限り、なにかしら起きているのが世の常。小さな悩みや失敗だったり、しあわせな出会いだったり大きな成功だったり、それは人によって一大事になったり、他愛のないことだったりするけど、大小は関係ない。はたまた、それへの対処の仕方も、人それぞれ違います。
本作は、何事においても「後悔のないように」たんたんと生きなさい、と諭しているに感じました。一所懸命でも真面目にしていても、失敗することはあるだろうし、他からもたらされる予期せぬ出来事や、病気や事故・事件、自然災害、避けられない不幸というものがあると思う。
そういうのも含めて、人生だから。後悔のないように、真摯に生きましょう。出来れば笑顔になれる自分でいなさい、どうしたって生きなきゃならないんだからね。そんなことを言ってる作品に感じました。
ふつうって、そういうことと思います。ふつうって、難しいですよね。

観たかった作品が通う劇場に無かったので、気になっていたこちらを観賞しました。
すごく良い作品だと思うけど、エンタメ作品が好きな自分にとっては失敗、、。観賞後、説教されたような気分になってモヤモヤしました。そしてすごく悔しい気持ちになっています。こういう衝動に駆られるのは、良い作品に出会えたとき。そこもまた悔しい。。

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くまの

4.0スマホで下向いてばかりだと、木漏れ日に気づくこともできない

2023年12月23日
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鑑賞方法:映画館

楽しい

知的

幸せ

近所の人が道を掃く音が目覚まし代わり。布団を畳んで隅に置き、隣の部屋で育てている鉢植えたちに霧吹きで水遣り。狭い階段を降り、狭い台所で歯磨きを済ます。髭を鋏と電気カミソリで整え、玄関に並べている持ち物を順番にポケットにしまいドアを開けてボロ屋の表へ。そこで空を見上げて微笑む。駐車スペースの横にある自販機でBOSSのカフェオレを買い、仕事道具を積んだ軽バンに乗り込む。本日のカセットを選び、シートベルトを締めて出発。早朝の東京の道路とカセットから流れる洋楽が合う。

担当する1件目の公衆トイレに到着。荷物を持って車を降り、「清掃中」の看板を立てて作業開始。まずゴミ拾いをクイックにおこない、便座、手洗い場と順に掃除していく。鏡をつかって裏側の汚れも確認。便器の中も拭き上げる。バケツに水をはり絞ったモップで床掃除。トイレのドアや取っ手も丹念に拭き上げる。これを何か所か移動しておこなう。

昼はルート上にある神社でサンドイッチ。大木の木漏れ日をフィルムカメラに収める。
清掃がすべて終わると自宅へ戻り、すぐに着替えて自転車に乗って銭湯へ。たっぷりのお湯に顔まで沈める。さっぱりして脱衣所で相撲を見ながら火照りを冷やす。帰りに自転車で地下にある大衆居酒屋に。ビールとつまみを頼み、TVから流れるプロ野球をみながら簡単な夕食。千円とちょっとを払い、自宅へ戻る。布団に入って休日に古本屋で買った幸田文やパトリシア・ハイスミスの本を電気スタンドの灯りで読みながら、うとうとして入眠。そして、朝がきて、また道を掃く音で目覚める。。。

仕事が休みの日は「フィルムを現像に出す&受け取り」「焼きあがった写真の選別」「コインランドリー」「古本屋で本を吟味」「ちょっと贅沢して小料理屋へ」になる。

慎ましいけれど、とても幸福で豊かな日々。(まさにPERFECT DAYS。)
自分に与えられた仕事・社会への貢献を全うし、充実感をもって銭湯とビールで労う。
植物を育て、様々なジャンルの古本で知的好奇心も満たし、音楽も楽しむことができる。木漏れ日や空をちゃんと感じることもできる。。何より木漏れ日に気づけるということは、うつむかずに上を見上げているということ。「上を見上げる」というのは気が良くなるよ。自分も見習おう。

高級車とタワマンをローンで買い、企画やプロジェクトやら1日で区切れない仕事にあくせくして達成感もなく、スマホのために下を向いてばかりで木漏れ日に気づくこともできない。肥大化して、余裕を失った日々。。
何のための人生か?何のために働いているのか?本当に幸せなことは何か?
忘れていたものを再度気づかせてくれた映画。
思わず笑みがこぼれる一服の清涼剤のような映画。

※関東平野の朝焼け。壮観な広大さ。綺麗。
※フィルムカメラ、現像、カセットテープ、ラジカセ、ガラケー、アナログ文化が滅茶苦茶かっこいい! スマホがない生活、いい。豊かだ。
※若い娘を銭湯に連れてきた平山を見た、銭湯の常連たちが微笑ましい。
※石川さゆりの小料理屋。絶対通うよ! むっちゃ似合う。歌うますぎ。(当たり前か。)
 「ギターでちゃったかあ~。」たまらん!
※三浦友和とのやりとり微笑ましかった。何も変わらなかった、意味はなかったなんてことはない。影は濃くなっている! (大人のオッサン二人の影踏み、微笑ましい)
「謝りたいではちょっと違う。会っておきたくなった。」この思い、なんとなく分かる。
※1日のルーティン。でもいつも同じ日ばかりではない。色々ある。
※家の戸締りをしないのは気になるよ。
※一緒に働いている若者のタカ、いい加減なやつかと思ったら性根の優しい面も。こりゃ憎めないわ。
※浅草の下町、いいわー。スカイツリーがいつも見える町。紫や赤の電気がまた似合う。
※トイレ掃除の格好をしていても、雨合羽を着ていてもカッコ良くなってしまう役所広司。
※色んな公衆トイレあるんだなあ。ドアが透明から色付きに変化するトイレには驚いた。

下記の涙の意味は大事に考えたい。
・軽バンの中でのアヤの涙
・平山の妹と、妹と別れるときの平山の涙。
・最後のシーン。車のハンドルを握りながら涙ぐむ平山の涙。(ここ名演だった。)

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momokichi

5.02023年末に日本で公開された、2023年公開作品で最高峰の「世界的に評価されるべき奇跡的な作品」!

2024年1月20日
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本作で主演の役所広司が2023年・カンヌ国際映画祭で「男優賞」を受賞したのは十分に納得できます。
本作の主人公は普通に話すことができるのに、基本、話さずに表情やしぐさで訴え掛ける物静かな人物。
それもあり、役所広司の演技力が極めて自然な形で国境を超えるレベルにまで発揮されていています。
2006年・カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した「バベル」で、話すことができない役の菊地凛子が、アカデミー賞の「助演女優賞」にノミネートされたのと似た構造を感じます。

東京の公衆トイレをクリエイティブに改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に関連した映像化の話にドイツのビム・ベンダース監督が賛同する奇跡的な動きが生まれ、トイレの清掃員の日常を描き出す流れで「トイレ清掃員のプロフェッショナルな平山」に命が宿りました。
赤いライトを中心に独自性のある自然なライティングによって、より深みのある映像に仕上っているのも重要な要素ですが、何といってもエグゼクティブプロデューサーも務める役所広司の存在感が最大のカギだと感じます。
リハーサルを一切せずにドキュメンタリー映画の如くいきなり本番という最も効率的で役者力が試される現場で、わずか16日の撮影で「最高峰の映画」が完成するという奇跡が起こりました。
世界の人たちが本作を見れば、日本に関心を持って「平山に会いに日本を訪れる」など日本経済にも効果をもたらすことでしょう。
ちなみに、平山が毎日飲んでいる缶コーヒーは、やはりアレなのですね(笑)。

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細野真宏

4.5これほど説教臭くなく、生き方や価値観を静かに揺さぶる映画は久しぶり

2023年12月31日
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日本でこのような作品が生まれるのは驚きであり喜びだ。主人公の平山は無口であまり言葉を発しない。だがその分、彼の生き様は、朝起きてから夜の微睡に包まれるまでの一挙手一投足でもって、観る者の心に深く染み入っていく。彼は決して世捨て人ではない。無心になって仕事をこなし、瞳には優しさと温かさが宿り、彼なりのやり方で物事を無駄なく楽しみ・・・そうやって築かれた最小限の日常で、すべてを大切に受け止め、決して悔いを残さない。こんな暮らしに少なからず憧憬の思いが込み上げるのは、我々が何事も過多な現代社会で多くのものを取りこぼし、後悔を感じて生きているからだろう。トイレから人々を見つめる平山の姿はどこかヴェンダース映画における天使のよう。と同時に、日々を真っ新な気持ちで生きようとするその姿は、人生という旅路をひたすら歩み続ける、これまたヴェンダース作品特有のロードムービーの主人公のように思えてならなかった。

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牛津厚信

4.5街の息づかいを撮った作品

2023年12月31日
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鑑賞方法:映画館

寡黙なトイレの清掃員の日々を美しく撮っている。渋谷のデザイン・トイレのパブリックリレーションの役目を負った作品であるが、トイレの先進的なデザイン性とその清掃員の住む古い木造アパートは対照的である。しかし、ヴェンダースは新しいものを良く見せているわけでも、古いものをみすぼらしく見せるでもなかった。むしろ、新旧のものが共存している東京の街並みに関心を寄せている。カセットテープの音楽を聴き、フィルムのカメラを趣味とする役所広司演じる主人公は、古いもの代表なわけだが、周囲の新世代に振り回されながらもなんとなく共存していく。東京という街は、近代的なものと古いものが混在している場所として多くの海外旅行者にも認識されているのだが、そういう目線がここにはある。しかし、旅行者目線とは異なる視線でそれを成立させていることにこの作品の美点があるだろう。街を撮るというのはなかなか難しいことで、そこに生きる人の息づかいみたいなものがないといけない。この映画はそれが感じられる。

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杉本穂高

4.5“日常”の有難さを知った2020年代に響く人間賛歌

2023年12月22日
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鑑賞方法:試写会

泣ける

知的

幸せ

昨日と今日、そして明日もだいたい同じ一日が繰り返される。当たり前だったそんな日常が、コロナ禍で一変した。職場や学校に通い、人に会って話をし、店で飲み食いする、そんな普通のことでさえも困難になったあの時期を経て、日常の有難さが世界中で認識された今、この「PERFECT DAYS」が世に出るのはまさに完璧なタイミングだ。

成立過程はかなりユニーク。2018年に「THE TOKYO TOILET」プロジェクトがスタートし、渋谷区内17カ所に著名な建築家やクリエイターらが設計した公共トイレが順次設置された。そのPRの一環としてまず短編映画の企画が立ち上がり、役所広司とドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースの参加が決まってから長編劇映画として再構想されたという(おおよその経緯はWikipediaの「THE TOKYO TOILET」と「PERFECT DAYS」の項で確認できる)。

小津安二郎への敬愛をドキュメンタリー「東京画」で示したヴェンダース監督らしく、本作の主人公であるトイレ清掃員の平山は実直で心優しく日常を大切に生きる男で、物語はさほど大きな事件が起きることもなく淡々と進む。近所の老婆が通りを竹ぼうきで掃く音で目覚め、仕事道具を積んだ車で担当する渋谷区の公衆トイレに向かい、丁寧に便器や手洗い場や床を清掃する。樹木を好み、木漏れ日をフィルムのカメラに収め、銭湯に通い、馴染みの飲み屋に寄り、文庫本を読んで寝落ちする。そこには、平山というひとりの人間の生きざまをそっと見守り讃える温かなまなざしが確かに感じられる。

寡黙な平山の心情を代弁するかのように、彼がカーステレオや自室のラジカセで流すカセットテープの60~70年代の洋楽が、夜明けと朝日の美しさ、一日の始まりの高揚や感謝、日曜の午後の気分などを歌い上げる。どの曲もシーンに合っているが、とりわけラスト近くで流れるニーナ・シモンの「Feeling Good」と役所広司の表情の相乗効果が抜群で、ヴェンダース作品としてだけでなく邦画史においても屈指の名場面として大勢の観客の心に残るはずだ。

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高森 郁哉

4.5役所広司が差し出す新たな引き出し

2023年12月22日
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鑑賞方法:試写会

悲しい

幸せ

毎朝、木造アパートの一室に敷いた布団から起き上がり、植木に水をやり、自販機でコーヒーを買って飲み、トイレ清掃に向かう男。平山というその男性の日々のルーティンが、関わる人々とのやり取りによって微妙に揺れ、それでも基本型はキープしたまま進んでいく。

なんとミニマムで上手い構成かと恐れ入る。与えられる情報の積み重ねによって、平山の背景が垣間見えて来るのだ。なぜ、彼はアパートに一人暮らしなのか、なぜ、トイレ清掃員なのか、という疑問が、本当に微かではあるが、腑に落ちて、ビム・ベンダースの脚本と演出の妙に心を奪われてしまった。

世界的な建築家たちが携わった東京・渋谷にある17のおしゃれトイレが舞台というのも上手いと思う。しかし何よりも、平山を演じる役所広司の、人を遠ざけず、かと言って近づけず、日々の生活を存分に楽しんでいるようで、実は心の底には深い悲しみを湛えている、ハッピーでアンハッピーな表情と演技が凄くてまいる。ベンダース演出の下、彼はまた新たな引き出しを差し出してきた。

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清藤秀人

4.0映画の光と影、孤独=自由を享受する

2023年12月20日
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鑑賞方法:試写会

泣ける

萌える

 役所広司が演じる平山は寡黙な男であり、規則正しく、ルーティンをこなす。毎朝植木に水をやり、仕事を終えると銭湯に行き、居酒屋で酒を飲み、部屋では古本を読みながら寝落ちするのもその一つ。極力他人と関わらないことで“孤独”であることを忘れようとしているのかもしれませんが、“孤独”=自由を享受しているようにも見えます。

 50歳をゆうに過ぎているであろう男が、なぜアパートで一人暮らしをして、清掃員の仕事を黙々としているのでしょうか。その研ぎ澄まされたような姿は悟りに至った僧侶のようにも見えます。

 でも、そんな彼が見ている世界、ふとした時に向ける視線の先には木々や光が溢れているのです。朝日、木漏れ日、夕日、街並みや公園、トイレ、運転中の車のフロントガラスなどの光の屈折や反射。ヴィム・ヴェンダース監督の過去作品を見ていれば、ここに過去のシーンを重ね、敬愛する小津安二郎監督作品の面影も感じ取ることができるのではないでしょうか。

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和田隆

4.0Snapshot of Today's Tokyo

2023年11月22日
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鑑賞方法:試写会

Wim Wenders' slice of life drama about a toilet janitor in Shibuya shows an appreciation for one the city's most prestigous whilst undervalued services. The act of toilet cleaning gets a lot of screentime while showing off the city's rich assortment of commode architecture. Lighthearted and at times cheesey, the mystery behind Koji's cleaner's past is left to interpretation upon veiled sadness.

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Dan Knighton

3.5失われつつある日本

2024年11月15日
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鑑賞方法:映画館

駐車場付きの都心のアパートに住みのトイレ清掃員の日常。
将来どう評価されるのか分からないか、今みると切ない。

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mikyo

4.5ただのトイレ宣伝映画ではありません

2024年11月12日
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鑑賞方法:映画館

知的

自分の中で理想の人物、主人公の平山さん。多くを望まず平穏で幸せな生活は、多くの苦悩と挫折を乗り越えて来た末の結果だったと知る事になるラスト。自分の中にあった羨望の目が、一瞬でそこへ辿り着くまでの道のりの険しさを教えてくれました。今の自分に肉親まで捨てる覚悟などありませんが、幸せになる事を諦める訳にはいきません。そんな事を考える映画となりました。

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ankh

3.0下を向いて歩こう

2024年11月2日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

難しい

幸せ

主人公はチープなフィルムカメラで「木」を撮るのが日課
ただ、カメラを膝の上に置いてレンズを上向きで撮る。それを、モノクロで現像する。ファインダーは覗かない。木漏れ日すら眩しいのか、上を見上げることはしない。
根元に芽吹いた新芽を持ち帰り部屋で育てている。

眩しく、目を背けているのは自分の家族
弱々しくも、愛でているのは他人
と言うことか?

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シン

5.0静かなる饒舌。(あそこに行ってきました。)

2024年10月20日
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鑑賞方法:映画館

知的

幸せ

はい。よく私のやんちゃレビューを覗きに来て頂きました。

本作も今さらジローでございます。実はこの映画は好きすぎて、何も言えねー。北島康介状態。

 それでロケ地巡りをしたんですね。聖地巡礼ってやつですね。

 まずは代々木八幡神社。限界集落に住む私にとっては渋谷区って敷居が高い高い。真美子さんの身長くらい高い。

 そんなに大きい神社じゃないんですが、立て看板を見て驚愕。なんと…

狸がいるんだと!

 狸ですよ!狸!渋谷ですよ!渋谷!

 平成狸合戦ボンボコを観てから、さらに有頂天家族を読んで、狸への愛が止まらない!オフコース状態。

 まあ狸は夜行性なんで会えなかったんですが…

会いたかった!会いたかった!YES!

けどね、猫のムーンはいたよ!

 思い切って、御朱印を貰うついでに巫女さんに聞いてみました。

 あのう… 役所広司は見ましたか?

 えっ!なんですか?

 私、メッチャ不審者‼️

 たまらず宮司さんが助け船。あっちのベンチで撮影しました。

 あーーまだ若いからねー フォローフォロー。

 待てって。当時居なくても職場がロケ地。観に行けよ!

 まあ早々に渋谷を退散。ぶっちゃけ渋谷は怖いんじゃ❗️ ただあのキノコ型のトイレは写真を撮った。

 俯瞰で見ると完全に不審者‼️

 次に向かったのは浅草。城東地区のディズニーランドじゃけん.アウェーからホームに帰った気分じゃけ、めっちゃ落ち着くのう。

 それで東部浅草の地下街にGOじゃ‼️

 もちろん、お目当ては焼きそば居酒屋の福ちゃんですよ。金髪のお姉さんはきびきびと働いています流石に恥知らずの私でも禁断の質問(役所光司は…)は言えなかった。怒られそうでね。

 こちとら撃たれ弱いんじゃ‼️

 早々に退散。浅草から曳舟、押上とね。

 逆、木根川橋状態。さだまさしファン以外の方、ごめんなさいねえ。そう言う歌があるんですよ。

 知人にそう言う顛末を語ったら知人も同じ事をしていました。代々木八幡は共通。あのアパートに行ったらしいんですよ。場所は亀戸。

 なんかメッチャローカルな話しでごめんなさい。

 しかし雑談ばっかじゃ‼️ええ加減にせえよ‼️

 とにかく静かな映画です。台詞が少ない少ない。レッドフォードのオール イズ ロストの次に少ない。

 平山(役所光司)はトイレの清掃員。押上の自宅を出て.身支度をして自動販売機で缶コーヒーを買って渋谷区のトイレの清掃に向かいます。

 前述したように寡黙。遅刻した若者にも説教はしません。ただ黙々と作業をこなします。メッチャ手垢のついた言い方だと判を押した毎日。

最初はね、聾者なの?それくらい寡黙。

 映画は淡々と平山のルーチンを描写します。

 段々とわかって来ます。平山は丁寧に仕事をこなします。しかし平山の内面が伝わってくるんですね。読書と音楽、小さな実生を育てる事。実は豊かな精神世界を持っている事。周囲に対して優しい事。

 生きるってレースじゃない。戦いじゃない。主義主張を声高に叫ぶ事じゃない。一夜限りのワンナイトショーじゃない。

 単純だけど深い。そんなフィロソフィーを感じました。

 平凡なめんなよ‼️

 この映画は平山に共感出来るかどうか。そんな映画です。十人十色を認めるか、流行りの言葉だと、ダイバーシティ、インクルージョン。

 だから退屈な映画だと言う意見には反対しません。

 でも私にとっては深い映画でした。

 お付き合頂き、最後まで読んで頂きありがとうございました。

 PS カラオケ屋さんでトイレを清掃中の方にありがとうと、言うようになりました。

 大抵びっくりされます。やっぱメッチャ不審者‼️

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masami

4.0新しい夜明け、新しい日

2024年10月19日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

ヴィム・ヴェンダース「PERFECT DAYS」を観る。平山が何気ない木漏れ日を愛するのは、単調で孤独でも日々はそれぞれ違うし美しいし意味はあるという平山の思いを表していて、だからこそ重なる影が濃くならない訳はないという憤りのシーンは泣けた。観るのをちょっと避けてたんだけど、良かったです。

あと細かいツボだったところ。

・魅力的な浅草の飲み屋がきちんと日曜日は混んでいる
・丸にホームランを打たれたカープファンが金で勝利を買って嬉しいかと憤る
・石川さゆりの歌う「朝日のあたる家」が浅倉マキバージョン
・ラストシーンの使用曲がクワイエット・プレイス DAY 1と被る。
・平山もてすぎ

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ピンボール

4.5なんかすごい良かった

2024年10月14日
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鑑賞方法:映画館

始まってしばらく一言も発していないのに主人公の人柄が滲み出てわかるの役所さんすごすぎ。映画が進むにつれて主人公の人柄に惹かれていくのがたまらなかったっすね。
影のくだりめちゃくちゃ良かったなぁ、、

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ヌル

4.0良い映画を観た

2024年10月12日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

楽しい

知的

 公衆トイレの清掃員をしている平山。古いアパートに独りで暮らし、朝早く目を覚まし、植物に水をやり、身支度をし、缶コーヒーを買い、寝ると夢をみるなど、規則正しい毎日。寡黙だが、行きつけの店では顔なじみ。そんな彼だが、同僚に振り回されたり、姪が訪ねてきたり、とちょっとした変化もある。
 良い映画を観た。慎ましくルーティンを繰り返す平山だけど、そんな毎日を楽しげに過ごしているよう。さらに急にやってくる変化を、ルーティンの邪魔ではなく、彩として受け入れている様子が頼もしく感じました。しかも、何か事情を抱えているようなのに。
 キーレスではない車で、カセットテープを聞いていることに親近感を抱きます。聞いているのも耳なじむ曲ばかり。石川さゆりが歌うカバー曲も良かった。さらに彼は、ガラケーとフィルムカメラを使用しています。
 どのトイレも、びっくりするくらいおしゃれ。トーキョートイレで働くのもいいかな。
 ミュージックテープって、今そんなに高いのか、結構持っています。登場する本は読んだことありません。

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sironabe

4.5あるいは禅僧、あるいは自閉症者

2024年10月1日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

単純

幸せ

こだわりの強い世捨て人の主人公が刻む、美しい日常生活のルーティーン。

漆黒の早朝。主人公は起床し、歯を磨き、整然と並べられた小物を手に取る。その儀式的な所作だけで観客は彼の人格を察する事だろう。朝日に照らされ始める東京の街を、彼の業務車両が滑るように走る。車載のカセットプレイヤー(そう、カセットプレイヤー)から流れる洗練された楽曲は、彼のこだわりをさらに際立たせる。
変化を拒むようなルーティーンを繰り返す日々にあっても、人も風景も変わり続け、彼自身も変化から逃れることはできない。老い、同僚、そして家族。変わらない日常など幻想に過ぎないのだ。変化と不変、新しいものと古いもの。その両極端に囲まれた東京の中に、彼の孤独が静かに浮かび上がる。

本作は、「孤独のグルメ」的な美学あるスローライフと、「パリ・テキサス」を彷彿とさせるミドルエイジクライシスの要素を融合させた傑作です。日常の些細な出来事を掬い上げるミニマルな作風ながら、都市の喧騒と静寂が交錯する映像美と、懐かしさを誘う音楽が、映画としての「間」を充実させて飽きさせません。役所広司演じる主人公の無言の演技は秀逸で、言葉以上に主人公の内面を表現しています。キャリアの晩年にこれを撮れるのだから、やはりヴィム・ヴェンダース監督はただ者ではありません。

あえて欠点を指摘するなら、主人公が作品哲学を口頭で語ってしまうシーンが、全体の繊細な筆致からやや浮いています。また、主人公の「掃除夫に身をやつしているが、実はインテリ」という意外性の薄い設定も、「インテリ視点の清貧賛美」という受け取り方をされてしまう可能性があります(これは作品に対する賛否双方に見られる)。個人的には、ポジティブに見れば世俗から離れて心の平穏を得る禅僧の物語、ネガティブに見れば孤立した自閉症者の物語、というバランス感覚に優れた映画として受け止めました。

最低でも80点は与えられる傑作だと思いますが、大きな賞を取れるような完成度(例えば90点越え)に僅かに届かなかったのも納得出来ます。それでも、この映画が映画ファンにとって必見の一作であることに疑いの余地はありません。

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フレンチクローラー