劇場公開日 2023年12月22日

「極上の音楽と映像でトイレ清掃業者をカッコよく描くという前代未聞の試み」PERFECT DAYS 盟吉津堂さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5極上の音楽と映像でトイレ清掃業者をカッコよく描くという前代未聞の試み

2025年2月16日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

知的

難しい

幸せ

ヴィム・ヴェンダースとジム・ジャームッシュが時々ゴッチャになるなどと言ったら両方のファンから袋叩きにされるだろうと思う。
そのくらいカンヌ映画祭的な映画には疎い。

カンヌ映画祭というと「観た人それぞれに解釈が委ねられる映画」が多い(気がする)。
こちらとしては自分なりに解釈しろと言われると不安になる。
意地悪しないでちゃんと答えを言ってよ、という気になる。
アメコミ映画ばっかり観ててすみません、という気持ちにもなる(笑)。

この映画も「観た人それぞれに解釈が委ねられる映画」だった。
特に何か大きな事件が起こるわけでもなく、孤独な中年のトイレ清掃業者の日常が淡々と描かれている。
何の解答も解決も提示されず、観客は放ったらかし状態である。

ただし、極上の音楽と映像でトイレ清掃業者が描かれるのである。しかもトイレ清掃業者を演じるのは役所広司である。

かつて、これほどまでにトイレ清掃業者をカッコよく描く映画があっただろうか(いや、ない)。

あまりにもカッコよすぎて何だかCMみたいだと思ってしまうくらいなのだが、Wikipediaによれば、渋谷区内17か所の公共トイレを刷新する日本財団のプロジェクト「THE TOKYO TOILET」のPR活動として短編映画を作る、というのが製作の発端だったようで、営利目的ではないにしてもそもそもCMに近い構想が根っこにある映画なのだ。

そしてこの、「あまりにもカッコよすぎる」ということで映画の評価が分かれている気がする。
日本のワーキングプアの過酷な現実を知っている人ほど否定的な意見になるようだが、それも無理からぬことだと思う。

自分も単純肉体労働の経験が10年以上あり、四畳半一間で風呂無しトイレ共同という激安アパートで暮らした経験もある。
そういう人間の目から見ると、この映画の主人公平山の清掃業者としての業務形態も生活レベルもあまりにも現実とかけ離れていて、こんな清掃業者は日本中どこを探してもいないよ、と思ってしまうのは事実である。

だが、それが何だというのか。

アメコミヒーローだって世界中どこを探したっていはしないのである。
いないとわかってても人はヒーローに会いたくて映画館に足を運ぶのである。
日本中どこを探してもいないようなカッコいいトイレ清掃業者に会いたくて映画館に足を運んで何が悪いというのか。

自分も、もし佐藤二朗あたりの性格俳優を使って、本当にうす汚い公衆便所を掃除する孤独な中年のトイレ清掃業者のリアルな日常を洗練されたタッチでカッコよく描くような映画があればそれを観たいと思う。だけど、たぶんそんな映画は作られないだろう。

そもそも、日本の中高年のトイレ清掃業者を洗練されたタッチでカッコよく描くということが前代未聞の試みなのである。

日本映画界が見向きもしない、と言うより目を背けてきた題材、まさに臭いものに蓋をするような感覚で避けてきた題材で外国人監督に映画を作られてしまったのだ。それもメチャクチャ洗練された、カッコいい映画を作られてしまったのだ。
こんなものを見せられてしまったら、いったんはヴィム・ヴェンダースに「恐れ入りました」と言うしかないではないか。
外国人監督が日本を舞台にして撮った映画の中ではずば抜けた傑作と言っていい映画だと思う。

この映画は過酷な現実を無視した夢物語かも知れない。確かに映画の中には過酷な現実をしっかりと見据えるような、そういうタイプの映画もあるだろう。

だがこの映画は、いささか人生に疲れている中高年男性にほんのいっとき夢を与え、ほんのいっとき休ませてくれる、そういうタイプの映画なのだ。
それがこの映画の全てではないにしても、この映画は人を夢の世界にいざなうタイプの映画だと自分は思っている。

そんな現実離れした夢の世界は自分には必要ないという人もいるとは思うけれど、そういう人たちはそもそも過酷な現実としっかり向き合える強い人たちであり、映画というひとときの夢を楽しむ装置自体を必要としない人たちだろう。

根っからの映画好きである自分は、少なくとも、独身かつ中高年の単純肉体労働者の過酷な日常を洗練されたタッチでカッコよく描くような別の日本映画が現れるまでは『PERFECT DAYS』を推奨し続けることにする。

自分は音楽に詳しくないので個々の曲についての言及は避けるが、極上の音楽が抜群のセンスによって絶妙に配置されており、この音楽と映像の融合に浸るだけでもこの映画は観る価値があると言えるだろう。

盟吉津堂
活動写真愛好家さんのコメント
2025年2月17日

やはりカンヌやベルリン、ヴェネチアみたいな映画祭で賞を獲れるのはスゴいというか、それなりの完成度があるということでしょうね‼️私もWOWOWで、たまにそういう映画祭で賞を獲った作品の特集とかがあるので鑑賞するんですけど、休日とかの体調がイイ時に見ないと、何と言うか、ハリウッドの娯楽大作みたいに気楽には観れないですよね‼️自宅のハードディスクにかなりストックしてます‼️

活動写真愛好家
Moiさんのコメント
2025年2月17日

どんどん自分らしさを追求していってください。お互い違う考え方なんだという事を認め合える人と付き合っていくとまた世界の見方が変わっていくかも知れません。ヴィム・ヴェンダースは本作において、世界には様々ないろいろな人がいる。考え方もその人の分だけある。世の中の流行り廃りに振り回されてはいけない。自分の考え方を大切にしろと言っているように感じます。そういう監督の映画が好きなんです。

Moi
Moiさんのコメント
2025年2月17日

あとは視点を柔軟に変えてみるとつまらない事でも楽しくなってきます。ストレスはイライラだったり、妬みや意地悪な気持ちが支配している状態です。ストレスよりも笑いや面白さを追求していくのです。人は一人一人考え方や生き方が違うのです。人と考え方が違うからと言って悩まないでください。人と違うという事は当たり前なのです。むしろ素晴らしい事です。

Moi
Moiさんのコメント
2025年2月17日

自分の感性を大切にしている盟吉津堂さんらしさを感じる大変素晴らしいレビューに感動しました。日々の生活していると様々な事が起きて精神的にも身体的にも振り回されてしまって疲れてしまったり大変だなぁと思う時がありますよね。ホント誰にでもあります。私はそのような時は自分なりの考え方や物の見方、感じ方を大切にするように心がけるようにしています。自分の考え方や気持ちを大切にするのです。

Moi
NOBUさんのコメント
2025年2月17日

おはようございます😃コメント有難うございます。そろそろ仕事なので、簡略お礼です。では。

NOBU
近大さんのコメント
2025年2月17日

コメントありがとうございます。

監督が小津信奉者で日本通だからこそのリアリティーですね。

私の好きな役所広司出演作は…
『すばらしき世界』『孤狼の血』『わが母の記』『最後の忠臣蔵』、勿論『うなぎ』や『Shall we ダンス?』…挙げ出したらキリがありません!

近大