劇場公開日 2023年12月22日

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「斬新な表現」PERFECT DAYS R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5斬新な表現

2024年12月26日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

これがドイツ人監督の作品だと知って驚いた。
相変わらず自分の無知さに笑ってしまう。
その独特の表現方法には、普遍的な人間の感情と変化というものが描き出されている。
ただ、
数々の物語はあるものの、それらの一瞬を切り抜いたに過ぎず、主役の平山の物語でさえも、その一部分が切り取られているに過ぎない。
人との出会いは、インパクトがあればそれだけ記憶に残りやすいが、それがその瞬間だけということもある。
強烈な出会いによってある程度の期間一緒に過ごすことになっても、死ぬときは一人になるし、事情があって別れてしまうことは、この世の常だ。
この世界は同じに見えて絶えず変化しているのだというのが、この作品のテーマなのかもしれない。
平山が休日に飲みに行く先の女将と元夫
余命宣告と、どうしてももう一度だけ会っておきたかった元妻への思いは、彼にしかわからない。
しかし、
そんなことのいくつかが、自分の人生にもあるということは誰にでもあることで、その感覚を共有した時に、平山のように人は気づきを得て優しくなるのかもしれない。
さて、
妹の娘ニコは、なぜ平山を訪ねてきたのだろう?
彼女は平山の事情を知っていると思われる。
彼女の住む世界
少なくとも裕福で、恵まれているはずだ。
それでも家出をしたのには、家の事情があり、その事情故に家を出た平山の気持ちがニコにはわかる気がしたのだろう。
その貧乏で清掃員という仕事に身を置くことで、ニコは今後の自分の人生をシミュレーションしてみたのかもしれない。
ニコは昔平山からもらったバカちょんカメラを持って家出をした。
それは、当時の平山と今の平山は同じなのかそれとも違ってしまったのかというのを確かめたかったのだろう。
良かったのか、後悔しているのか? ここが彼女の視点だったように思う。
今でもバカちょんカメラで木を撮っているおじさんを見て、カメラをくれたときのシチュエーションを憶えているはずがないと言ったのは、あの時とちっとも変っていないおじさんを、とても信じられなかったからだろうか?
そもそも彼女を憶えているはずがないと考えたはずで、カメラを見せれば思い出すかもしれないと考えて持ってきたと思われる。
平山が何も変わっていなかったことは、ニコにとっての安心感と同時に、ひどく怖くなったのではないだろうか?
妹が訪ねてきた際、平山と父と確執があることがわかるが、その確執さえも変えられないおじさんに対し、ニコは彼女なりに思うことがあったのだろう。
だから素直に荷物を取って車に乗ったのだ。
このことについて古本屋の店主は「恐怖と不安は別物」と言ったのだろう。
おそらく不安が最初に起きることで、それが余計な憶測を交えたときに恐怖になるのだろう。
監督はこのパトリシアの本を読めと言っているのだ。
そしてニコはこの不安と恐怖が一緒になってしまった状態を迎えることになるが、それは誰にでも起きることで、これが彼女の成長点、つまり人生の伏線になっていくのだろう。
その本を読もうとする平山は、ようやくその事に気づき始めたということだ。
それが三浦友和さん演じた元夫の影の話と重なる。
平山は、清掃員の仕事を始めてから、ほぼほぼ毎日変わらないローテーションで生きている。
その世界は一般人とはまた少し違う世界だが、一般人から弾かれた人々とは微妙に接点があるのだ。
毎日たった一人公園でお昼を食べる女性
てぐちゃん
アヤ
特にアヤはいわゆる一般からはみ出しそうになっている女性で、だから彼女の世界にはないカセットテープのような年代物に憧れを抱くのかもしれない。
アヤはギャルというのか、今どきの格好をしているが、おそらく孤独だ。
他人からはレッテル眼鏡で見られ、同世代とは感覚が合わない。
カセットの曲がどれだけ彼女を慰めたのかはわからないが、1970年代ごろに触れたことで、彼女は少し勇気づけられたのだろう。
そして紙に書いた〇×ゲームも、誰かとの接点
平山の就寝と重なるモノクロ映像は、今日一日の出来事などが夢となって表れているようだ。
今日一日
また今日一日
そのローテーションは変わらないが、同じ出来事などない。
平山自身も、一瞬たりとも立ち止まってなどいない。
それはまるで「木」と同じなのだろう。
毎日が同じ中でも毎日違う。
「何も変わらないなんて、そんな馬鹿なことないですよ」
平山は自分の言った言葉に自分自身が驚きと気づきを得たのだ。
それが最後の映像へとつながっていく。
気づきの喜びの笑み
それが次第に涙に変化する。
カセットから聞こえるのは、New me/New day/New world/bad world…
平山の涙は、自分の人生は決して間違ってなどいなかったという感じだろうか。
木と自分と元夫の男、そして出会った人々とが重なり合い、影が濃くなっていく。
自分も一つの影であり、一つの濃さを作り出している。
平山はきっとそう思って涙を流したのだろう。
表現方法が独特なので解釈も難しいが、人生の一瞬一瞬の貴重さと、人の表面上の認識、そして背後に広がっている実際の奥深さと重なりに気づけと、監督は言いたいのだろう。
中々考えさせられる作品だった。

R41
Mr.C.B.2さんのコメント
2024年12月27日

東京では12月26日に1年に渡って上映されていたロードショーが終了しました。最終日に舞台挨拶があったようですがチケットは売り切れでした。

Mr.C.B.2
Yumさんのコメント
2024年12月26日

共感ありがとうございます✩︎⡱毎日同じようで、毎日違う。本当にその通りだと思います。

Yum
talismanさんのコメント
2024年12月26日

レビューを拝読して、映像や会話を思い出したり、自分は気がつかなかった、忘れていたことにも思いを馳せることができました。ありがとうございます

talisman