「普通の日常の中の小さな変化」PERFECT DAYS ヤマキさんの映画レビュー(感想・評価)
普通の日常の中の小さな変化
まず劇中歌が良すぎる。プレイリストを作ってドライブ中に流しているくらい良い。
渋谷区の公共トイレの清掃員が主人公。プライドを持っているのか凝り性なのか、静かに丁寧な仕事とテキパキとした動きをする彼の風格は尊敬できる仕事人の風格だった。普段の生活では気にも留めないが、確かに人々の生活を支えている人に思いを馳せるきっかけになった。
また監督がドイツの方というのもあり、海外の人から見た渋谷ってこんなに綺麗なのかと新しい視点があった。渋谷は都内でも有数の汚い街だと思いながらそこで生活しているが、ちょっと見方を変えてみたら面白い街なのかも。
ストーリーは本当にこれと言って起伏は無い。ループ系の話かと疑うほど、彼の毎朝のルーティーンは完璧にこなされる。そんな変わらない日常の中でも、休日はコインランドリーと古本屋、スナックに行くという自由の時間と些細な楽しみがあったり、ちょっと良いことがあった時は車内の音楽を変えてみたり、口ずさんじゃったり。誰もが思ったことのあるであろう『変わり映えしない日常』の中の小さな変化と幸せを汲み取るのが上手な人だと思った。そういう感受性はきっと人生を豊かにするだろうな、見習いたい。
そして悲しいことがあった時も、彼は変わらずに寝て、起きたらいつものルーティーンをこなして、車に乗って仕事に向かう。ラストのシーンの役所さんの表情は刺さる。幸せなのか、苦しいのか、解釈が分かれているのも頷ける。
キャッチコピーの、こんなふうに生きて行けたなら、という言葉も肯定するか否定するか人によって違うと思う。いろんな人の意見を聞いてみたい。この主人公の生活は経済的に決して豊かではない。けど精神的に豊かであるとも言える。1人で下町に住む男の生活について、どんな感想を持つかという点でも余白のある映画だった。