「満ち足りた日々、満ち足りた時。我々は一本の木。」PERFECT DAYS レントさんの映画レビュー(感想・評価)
満ち足りた日々、満ち足りた時。我々は一本の木。
作品を鑑賞中、私自身がとても満ち足りた気持ちになった。それは主人公の日々の生活を見ていてそう感じ取れたから。
主人公平山は一日に数億円の金を動かすトレーダーでもなければ、社員数千人を抱える企業の経営者でもない、ただの公衆トイレの清掃員である。
それはけして誰からも尊敬されないし、むしろ蔑まれるような仕事、いやそれどころか彼の存在すら人々は気にも留めないだろう。
彼はもはや人々の目には周りの風景と同化した存在であるのかもしれない。その証拠に子供を保護した彼に会釈さえしない母親。
彼は風景の一部なのだ。それは風景になじむように作られた多種多様なデザインの公衆トイレの様に。あるいは公園に当たり前のように植えられている木々のように。誰もが気にも留めない存在。
しかしそれは彼にとっても居心地の良いものだった。彼の世界とそれ以外の世界とはけして交わることはない。彼にとっても周りは風景でしかないのだ。無用な干渉をすることもない心地よい距離感を保って彼は自分だけの世界で生きている。
日が昇る前の早朝、木々の葉が風でゆれる音、竹ぼうきが路面をこする音で目が覚める。植木に霧吹きで水をやり、缶コーヒーを飲む。現場へ行くまでの車内で音楽を聞き、仕事は完ぺきにこなす。昼休みはお気に入りの場所で木々の枝や葉が風にゆれる瞬間をカメラに収める。銭湯が開くまでには仕事をきっちり終えて湯船につかる。行きつけの地下街の店で晩酌、そして寝床で読書をしつつ就寝。
同じことをただ繰り返すだけの毎日、判で押したような生活、それはまるで日が昇り日が沈むような自然の営みを思わせる。
他人から見れば単調でつまらないように見える彼の生活は充実していた。音楽や読書、そして自然の営み、木々の葉が風に揺れる時のささやき、虫たちの声、生きとし生けるものを毎日のように堪能する彼の日々。忙しさの中で我々がともすれば見過ごしてしまっているものを彼はひとつひとつ感じ取っていた。
周りには気にもかけられないホームレスの姿をしたダンスをする木の精霊も彼の目には見えていたし、誰も気に留めないメモ書きを見つけては相手も知れない丸罰ゲームに興じる。それはとても充実した日々。
彼はけして世捨て人というわけではない。彼にも年齢を重ねた分だけ過去があった。時にはその過去が突然絡みついてくる。
思わぬ姪との再会から過去との邂逅。再会した彼の妹は兄の今の生活を見てただ憐みの目で見つめる。彼女にとっては兄は負け組の哀れな人間にしか見えないのだろう。別の世界の人間からはそう見えても仕方がない。
思えば我々はそれぞれが一本の木なのだ。けしてそばにいる木とは交わることはない。そこにのみ立つ一本の木。それぞれが自分の世界で生きている。だからほかの木の世界はわからない。
だが、そばにいる木同士が交わる瞬間がある。互いの葉を重なり合わせ風に揺られて木漏れ日を作る。その木漏れ日はけして同じものはない、唯一無二のもの。まさに一期一会。
たまたま出会った平山と友山はお互いの影を重ね合わせる。そして影踏みをする。お互い同じ年齢を重ねてきた者同士の木漏れ日のような一瞬の交わり。
けして交わらない者同士が一瞬だけの木漏れ日を作る、これを繰り返すのが人生なのかもしれない。
きっと平山は自分のいた世界から逃げ出したのではなかった、自分の世界を見つけたのだ、唯一無二の世界を。彼をうらやましく思った。日々生活に追われて蟻のように生きてる自分と重ね合わせてなんと人間らしい生活なんだろう。ほどほどに稼ぎほどほどに食べていければいい、日々自然の息吹、町の息遣いを感じつつ、音楽や文学に浸る、これこそ人間らしい生き方と思えた。
ラストの役所広司さんの笑い泣きには痺れた。男優賞も納得。映画館で映画を見る楽しみを味合わせてくれた作品。
と同時に映画館で映画を見る弊害も。隣の席の高齢夫婦、とにかくマナーの悪さに集中力をそがれた。定期的にスマホを見る、私語の多さ、高齢なのにポップコーンガサゴソ食い、流石に途中で注意しようと思ったが楽しい映画デートが台無しになるだろうからと飲み込んだ。年齢を重ねてるぶん他人の迷惑を少しは気にかけてもらいたい。自分たちの世界しか見えてないのも困りものだ。
こんばんは、ご返信ありがとうございます😊
その方のレビューを見ようとしたら、
アプリでは無理で、ウェブでは見ることができます。
ウェブの私のレビューに共感されたその方のアイコンからその方のマイページに行きレビューにコメントできます。
その方からは、自分のレビューを書くことができ、他の方からのコメントを読むことができます。
が、その方は、他の方への共感やコメントはできない状態です。
レントさんとの違いはいかがでしょうか?お時間とってすみませんが、
よろしくお願いいたします🤲
で、この映画ですが私、個人的に物凄く嵌りまして。
ベルベットアンダーグラウンドや、ルーリードが好きな事もありますが、初見時には久しぶりに鑑賞後の余韻に浸り、禁じていたパンフも即購入し、数日後には速攻で再鑑賞しました。
ヴィム・ベンダース監督が、小津監督が好きなのは知ってはいましたが、”このテイストは、ドイツの監督だから表現出来るのだろうな、”と思いましたし、名優役所広司さんの抑制した演技にも魅入られました。
思わず、このサイトの個人的ベストファイブも変えてしまった程です。では。
コメント有難うございます。
このレビューサイトを映画鑑賞の記録に使っていた私に、”レビュー上げたらどう?”と言ってくれたのが、ワンコさんでした。
当時、彼の方はこのサイトと別サイトでパラレルで映画レビューをしていましたが、(今では運営の方々がしっかりしているので、そんなことはないですが)トンデモナイレビュァーが沢山いて・・。
自分ではレビューを上げないのに、猛烈な批判をしてくる人や、今でも痕跡がありますが、複数のアカウントを作って自分のレビューに多数の共感をする人など、大変でした。
で、ワンコさんからは別のサイトに来ませんか?とお誘いを受けたのですが、このサイトって魅力的なレビュアーさんが多いんですよね。色んな情報を教えてくれたり。魅力的なんですよ。
私は、多分このサイトで自分が鑑賞し、思った事を綴って行くと思います。では。