「神は細部に宿る、という生き方」PERFECT DAYS のこさんの映画レビュー(感想・評価)
神は細部に宿る、という生き方
私たちにとって「完璧な日」とは?職場で昇進する、恋が成就する、欲しかった物が手に入る…それは大抵、何か特別なことが起こった単体の「一日」として想像されるだろう。しかしこの映画のタイトルは違う。PERFECT DAYS、それは複数形の「完璧な日々」を意味している。
トイレ清掃員の平山の生活は、一見単調でつまらない。毎日同じ場所で同じ業務をひとり繰り返し、低給独身ゆえの慎ましい生活を送るだけ。そんな彼に憐れみの目を向ける人も少なくない。
しかし、彼の目を通した世界は変化と刺激に溢れている。車で流すレコード、公園の四季模様、街中の人間模様、毎晩のお供の小説、そうした些細なことに彼は心を注いでいるから。映画の最後、「木漏れ日」という日本語特有の表現が紹介される。太陽から木の葉を通して地面に映し出される光と影は、絶え間ないダンスを続け、二度と同じ文様を見せることはない。世界とは、実はそれほどまでに贅沢で底知れないものだ。しかし、私たちはいつしかそれから目を背け、数字とスクリーンを凝視するだけになってしまっていたのではないか。
作中では様々なヒューマンドラマが差し挟まるものの、どれも曖昧に流されていく。起承転結もなければ、伏線と思われたものが回収されることもない。しかし、実際人生で遭遇する物事なんて大抵はよく分からないまま過ぎ去っていくものだ。そんなところも含めて、革新的なほどに「平凡」を極めた内容の映画だった。