「スタイルに殉じる男の話」PERFECT DAYS kobaさんの映画レビュー(感想・評価)
スタイルに殉じる男の話
とても上質な映画。
映像の肌ざわりと息づかいを愛でながら、主人公の沈黙に思いを馳せる。
ひたすらに淡々と隅田川まわりの情景を映してるように見えて、実はとてもファンタジックな瞬間を切り取って撮影している。作品を見終わって映画館を出たあとに見る景色が、まるで映画の延長線上にあるように感じられ、映画の続きの世界を体験しているようにすら思える。
で。そうした情景描写の中でほんのかすかにだけ主人公の過去らしきものが描かれるが、その生い立ちを想像していくと、仔細は不明なものの、「今の境遇を自ら選んで孤独な生活を送っている」ということが見えてくる。
おそらく主人公は「誰にも知られることなく自分のスタイルと心中する」という生き方もできたはずが、「社会の中で自分のスタイルを律して生きていく」という生き方を選んだ。それが彼なりの戦いなのか、安住の地なのか、諦めの境地なのか、無邪気さなのか、あるいはその全部か。そうした、あらゆる感情がまざりきった顔をながめては、思いをはせるのがとても楽しい。
映画という表現の良いところを集めたような作品です。
あと、めちゃめちゃ大事な話ですが、主人公の仕事はトイレ掃除ですが、汚いトイレが出てこない。ここにこの映画のスタンスが集約されてると思いますです。
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