「「日常」ってなに?」PERFECT DAYS キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)
「日常」ってなに?
トイレの清掃員が主人公の人間ドラマ…なんて聞くと、それだけで「汚いシーン」「虐げられた生活」「世間からの偏見」を想像してしまうし、観ている間ずっと「何かが起こるぞ」「ひどいことになるぞ」と思い続けている自分がいる。
が、これはそういう映画ではない。
逆にこうして、私こそがひどい偏見を持っていることに気付く。
(トイレ清掃に従事されている皆さん、すいません)
それどころか、都心の公衆トイレのデザイン性や機能、そして綺麗に維持してもらっている様子を楽しみにさえ見てしまう。
いつも通り(に見える)変わらない日常を暮らす主人公。でも、彼は人一倍「その一瞬」や「変化」に執着している。
ファインダーを覗かないで撮る写真や、○✕ゲームに応じる姿なんかはその象徴的なものだろう。
「日常」とは、繰り返される何事もない日々のことではなく、人が「今」に誠実に向き合って生活を送った結果としてそこにあるものなのかも知れない。
思えば、我々にとっての「日常」って、まさにそういうものだから。
上映時間の2時間強の間、誰も死なないどころかケガさえしない。
怒りに任せて怒鳴る人もいない。
泣きわめく人も突然走り出す人も誰かを憎む人もいない。
でも、飽きずに見守っていられるのは、やはり監督の腕ってことなんだろう。そもそも、こんな日本人の庶民の生活を、ちゃんと共感できるレベルで外国人監督が撮るってすごいことだと思う。
セリフ自体が非常に少ないのに、画面に情報がてんこ盛り。
そのすべてに対して何らかの説明があったり、物語に絡んだり、回収されていくワケでもないんだけど、それは「日常」ゆえ。
役所広司の演技は言うまでもなく、登場する人たちの「そこにいる」感、そして東京の街、スカイツリーをバックに流れる6、70年代の渋い選曲に石川さゆりの歌のパワーも。
日常や人間の生活を描く作品って、すごく苦々しいシーンや、ぶつけようのない憤りを描くものが多いけど、本作は全くそういう映画ではない。
多くの皆さんに観てもらいたいとは思う。ただ、エンタメとしては物足りないと感じちゃう人もいるのかな。
でも、これだけ多くの人が好評価してるって、ある意味健全なことだと思う。