「何気ない生活って楽しいんだ」PERFECT DAYS 裕里ちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
何気ない生活って楽しいんだ
トイレ掃除を職業とする一人のおじさん、平山のなんてことのない日常を描いた作品。大きな事件に巻き込まれたり、ドラマチックな状況に平山が巻き込まれて何かをするか、というとそうではなく、ただただ生活をじっくり見るという作品だ。
そう聞くと全く面白くなさそうに聞こえるかもしれない。実際平山の生活は、毎日同じようでルーティンのように見える。それでもなんだか面白い、という感想にさせるのがこの映画だ。
注目すべき点の一つは「音」だろう。カセットテープがキーになっている(教養がなくて私はほとんど知らなかった)一方で、生活のシーンではほぼBGMがない。BGMの代わりに彩り豊かな生活音が心地よい。平山が目を覚ませる竹箒で掃く音、霧吹きで植物に水をやる音、髭剃り、ハサミ、歯磨き、自販機のコーヒーが出る音、トイレを掃除する音、カメラのフィルムを出し入れする音、やかんを置く音や救急車の音などもアクセントになっていた。
もう一つは「表情」だ。平山はほとんど声を出すことがない。その代わりに豊かな表情を見せる。いろいろな種類の笑いを見せる。困った顔や怒った顔、泣きそうな顔も見せる。(役所広司の表情を見ているとトムハンクスの表情豊かな演技を思い出した。) ニーナ・シモンのFeeling GoodがBGMに流れるラストの平山の表情は圧巻だ。
終盤に説明的に出てくる木漏れ日がこの映画の、いや私たちの生活のメタファーになっていると思う。一見いつも同じような一つのものに見えても、その一瞬一瞬で違う木漏れ日なのだ。
大人になって落ち着いた私たちの生活も、毎日同じようにみえることもある、でもそれは実は一つ一つ違っているのだ。一つ一つの人とのやりとりや、細かな変化、それは十分面白く楽しいものなのだ。