「裕福な人生を捨てた男の物語」PERFECT DAYS sskさんの映画レビュー(感想・評価)
裕福な人生を捨てた男の物語
感想をまとめるのが難しく、日常のささやかな積み重ねに感動したとしか言えないので、平山さんの背景について考察します。
読書好きなところや人生に対して孤独な哲学を持っているところからかなりのインテリであり、また60-70年代のロックが好みなところから若い頃はそれなりに人生を謳歌していたことことが読み取れます。
しかし、作中で平山さんの背景に迫るシーンは何といっても妹との対面のシーンでしょう。
妹が持ってきた平山さんの好物である菓子折りは手提げ袋まで専用のしっかりとしたもので、乗ってきた車を運転しているのは旦那かと思いきや運転手です。(スタッフロールにkeiko's driverとありました)
このことから、平山さんはかなりの裕福な出であることがわかります。
直前のシーンでニコに対して「世界は繋がっているようで繋がっていない世界がある」「(妹の)世界と自分の世界は違う」と言っていますが、老人ホームにいる認知症の父親に対するやり取りから見ても、裕福な世界(父親と妹の世界)を拒絶して今の暮らしをしているということです。
つまり、なるべくしてなった人生ではなく、選択した上での人生ということになります。
裕福な世界を捨てた平山さんの世界は何を大切にしているのでしょうか?
作中の最後に木漏れ日についての解説がありましたが、その解説に沿うと、平山さんはおそらく日常の中の"良い"と思える瞬間を大切にしているのでしょう。
散歩をしている人には分かると思いますが、毎日同じ道を通っていても花が咲いていたり鳥が飛んでいたり、魚が群れで泳いでいたりと、たとえ街の道でも結構違いがあるものです。
作品を見返すと木漏れ日を見て微笑むシーンや、ほぼ毎日撮っている友達の木の写真、トイレを使う人達への満足げな笑みなど、同じように見えて違う風景を平山さんは見ているのかもしれません。
そう考えると毎日を惰性で生きているのではなく、常に瞬間を捉えながら生きているとも言えるのではないかと思います。
久々に頭からジーンとなる、本当に良い作品でした。
余談ですが、おそらく平山さんの居住地は江東区の亀戸ですね。作中に箒がけされている神社で亀戸七福神という旗がありモロバレですが、スカイツリーのあの距離感は墨田区民もしくは江東区民には馴染み深い大きさでした。
平山さんの退勤後のルーティンは亀戸から近場の銭湯に向かい、桜橋を通り抜けて浅草のアーケード街で飲んで帰るというもので、自転車で20-30分くらいかければ可能です。
亀戸からなら駒形橋を使って浅草まで行けば近いような気もしますが、映画的な都合を無視すると、平山さんが桜橋からの風景が好きということでしょうか。
隅田川沿いに住んでいればお気に入りの橋は出来るものなので、自転車の行き帰りも楽しみの一部と捉えれば生活圏内といえます。
退勤後はなんだか見慣れた風景ばかりで、この銭湯、絶対に浸かったことある…!と1人感動していたのは内緒です。