「缶コーヒーはBOSS」PERFECT DAYS ミーノさんの映画レビュー(感想・評価)
缶コーヒーはBOSS
ネットどころかテレビもラジオも持たず裸電球と電気スタンド、タンスと布団と本とカセットテープ(70〜80年代の主に洋楽)、趣味のモミジの鉢植えくらいしか部屋にないミニマリストな主人公。外の箒の音で目覚め歯磨きと髭剃りをして専用車で仕事に行き林のある神社でコンビニのサンドイッチと牛乳の昼食、仕事が終わったら銭湯と行きつけの居酒屋に行き1日の終わりは読書。休日は濡らしてちぎった新聞紙(新聞を取っているようでもなかったが)を畳に撒いて箒で掃除しコインランドリーと古本屋とフィルムの現像を頼んでお気に入りの小料理屋に行く。我々の多くはこの真反対の生活をしていると思うが日本人は静謐な暮らしを送っているイメージなのかなと思いつつ。
頭の悪い同僚の若者に振り回されて金を貸すハメになったり、長年会っていなかった妹の娘が突然訪ねてきてしばらく同居したり、小料理屋のママが男性(元夫)と抱き合っているのを見てショックを受けたりといったハプニングがあるし、渋谷区内の公衆便所の清掃とは大変な仕事だと思うが、彼の平和な生活は続いていく。
姪とは明るく会話しているものの若者が片思いしている女の子とは殆ど口をきかないくらい無口。娘を引き取りに来た妹は運転手付きの生活をしている金持ちのようだし、彼自身知的なタイプだし、姪がいる時に寝ていた使っていない台所?のダンボールも過去に何かあったのだということを示しているが何かは明かされぬまま。
古いアパートで暮らすトイレ掃除の1人の生活は不幸せか幸せか、人が決めることではない。主人公は幸せそうだが、ラストの泣き笑いは、心のどこかに孤独を感じていたのではないか。
彼の慎ましい生活には、ルーティーンになっている自販機の缶コーヒー、コンビニのサンドイッチといった、別に彼のためにあるわけではないものにもよっている。いくらでも代わりはありそうな平凡なものでも、無くなってしまうと彼の幸せは狂ってくるかもしれないと思うと、こんなつましい生活からビジネス上の理由だけで彼のルーティーンを奪わないで欲しいものだと思った。
色んな役者が出てきたが、古本屋の犬山イヌコが良かったな。
それにしてもどの公衆便所もオシャレ。大昔に『東京トイレガイド』みたいな本がロッキンオンあたりから出版されていたのを思い出した。またクレジットでShibuya city となっており、23区はcity扱いなのだな。