「豊かさは金でも物でもない」PERFECT DAYS おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
豊かさは金でも物でもない
毎年、大晦日は一年の心の汚れを落とすため、感動作や生き方を見つめ直すような作品を選んで鑑賞しています。そして2023年の締めの一本に選んだのが本作。本当は公開日に観に行きたかったのですが、今日まで我慢してやっと鑑賞してきました。
ストーリーは、年季の入ったアパートで独り暮らしをするトイレ清掃員・平山の日常を淡々と描くというだけのもので、作品を通して描かれるような物語はありません。あえて言うなら、人生という長い物語のほんの一部を通して、平山自身を描いているような作品です。それなのにこれほど惹きつけられるのは、彼の生き方に魅力を感じるからだと思います。
平山は、夜明けとともに目覚め、植物に水をやり、身支度を整えると、缶コーヒーを手にして、気分に合わせた曲を聴きながら車を走らせ、目的のトイレに着くと無言で丁寧に手際よく清掃をしていきます。昼はベンチで木漏れ日を眺めながらサンドイッチを食べ、仕事を終えると銭湯で汗を流し、帰りに馴染みの居酒屋で一杯飲み、帰宅後は読書しながら寝落ちします。そんなお決まりのルーティンが休日にも存在し、ひたすら同じ毎日が繰り返されているように見えます。
しかし、平山の姿を通して、判で押したような日々の中にも、必ず異なる出来事はあり、同じ日々など絶対に存在しないことに気づかされます。その日にしか出会えないもの、気づけないもの、感じられないものがあり、それを一つでも多く経験することが、人生を豊かにしていくことなるのだと思います。そのためには、毎日を新鮮な気持ちで迎え、すべてのものに真摯に向き合い、心豊かに生きることが大切なのではないでしょうか。偶然できる木漏れ日の美しさに惹かれ、思わずシャッターを切る平山の姿は、まさにその象徴のように思えます。
平山の過去が直接描かれることはありませんが、運転手付きの高級車で現れた妹や彼女の言葉から、かつては裕福な生活を送っていたものの、父との軋轢から家を出て、以来妹とも疎遠となって久しいことが推測されます。おそらく人生のターニングポイントとなるような大きな出来事もあれば、作中で描かれる日常のさざなみのような小さな出来事が無数にあり、それらが今の平山を形作っていったのでしょう。毎夜、眠りについた彼の頭には、その日の出来事がぼんやりとした影のように現れます。彼の「影は重なると濃くなる」という言葉が示すように、人生に起きた無数の出来事が、人を変えないわけがないのです。その変化は、植物の生長のようにゆっくりとわずかなものかもしれませんが、やがて木漏れ日をもたらすような大樹となるのでしょう。姪のニコは、平山に木漏れ日のような穏やかな温かさを感じて頼ってきたように思います。
そんな平山の背後に、いつもスカイツリーが描かれます。当たり前のようにそこにあるものの、見る位置や角度、時間帯によってさまざまな表情を見せ、これも毎日同じではないと訴えているのでしょうか。それとも、圧倒的な存在感で誰もが見上げてしまう建造物として、そこにいながらも石ころ同然のように扱われるトイレ清掃員との対比として描かれていたのでしょうか。私は、これまで数え切れないほど見かけたトイレ清掃員をついぞ気にしたことはありません。しかし、私たちの便利で快適な生活は、自然の恵みと機器の発達によるだけでなく、こうした人々のたゆまぬ努力に支えられているのだと気づかされます。そう思うと、社会で働くすべての人たちに感謝の気持ちが湧いてきます。
ラストは、これまでの出来事を思い返すようなやわらかな平山の笑顔、そして滲む涙。彼の胸に込み上げる思いを想像して、こちらも熱いものが込み上げてきます。人生を長く生きた者ほど、多くのことを感じられるのではないでしょうか。一年の締めくくりにふさわしい、心に染みる作品でした。おかげで2024年も新たな気持ちで歩んで行けそうです。
主演は役所広司さんで、圧巻の演技に魅了されます。脇を固めるのは、柄本時生さん、アオイヤマダさん、中野有紗さん、麻生祐未さん、石川さゆりさん、田中泯さん、三浦友和さんら。
共感ありがとうございます。
汚いトイレには腹を立てますが、綺麗なトイレは当然の事と何も感じていなかった自分を恥じました。感謝、忘れたくないですね。
そんなふうに思えたのは、役所広司さんの演技の力なんだなと拝読して改めて思いました。
こんばんは♪ご返信いただきましてありがとうございました😊
生活、ではなく、生き方、ですね。ついでながら、週一の洗濯なのに洗濯物の少ないこと❗️コインランドリー使わず、手で洗えば、と思ったくらいです。仕事着の件は、先に誰かが綺麗にした後役所さんが撮影用の掃除なのでスタッフも皆気にならないのか⁉️とか色々と考えていましたが、それにしても、と思いますよね🦁
こんばんは♪
共感していただきましてありがとうございました😊
素晴らしいレビューですね。❤️
しかも、本作鑑賞を大晦日までとっておられるとは。
🪴毎日を新鮮な気持ちで迎え全てに真摯に向き合い心豊かに生きる🪴‥‥努力目標にしたいです💕
映画鑑賞一つとっても実践されておられますね。
ありがとうございました🦁
あれから外国人の感想を読んでみましたが、大体日本人と同じ感想でしたね。儀式的なルーティンの中に侵入してくるイレギュラーな日常…的な。
ほとんどが高評価です。字幕も少なくて、理解しやすいのもポイントでしたかね。
セイコウウドクさん、コメントありがとうございます。本作のレビューを上げておられないようなので、こちらに返信いたします。
おっしゃる通り、生きづらさを感じている人に見てもらいたいですよね。心ひとつで、いろいろなものが今までとは違って映るような気がします。
共感をいただきまして誠にありがとうございます。
今作の『木漏れ日』というワードは観劇中それらしい映像が差し込まれていたにも関わらず、全く気づきませんでした。
もう一回観る機会がありましたら、それを主に鑑賞しようと思います。
また良いレビューで楽しませてください。
共感ありがとうございました♪
人生は思ったようには進まなかったけど、残りもがんばろって、やるしかないのよねぇ、って。なんとなく諦めがついた?(笑)私です。